2015/08/31
充電と装着のわずらわしさから解放! 電波でバイタルサインを測る技術
EPSONのPULSENSEなど、呼吸や心拍数を計測することができるトラッカー(活動量計)が登場してきて、平常時や運動中の脈拍を記録に残したり、場合によってはリアルタイムに分析したりすることも可能になってきている。しかし、装着するということは、たとえば、手首なら腕時計とトラッカーを2つも身に着けなければならないし、ときどき充電しなければならないし、充電直後には熱くなっていて直接皮膚にあてる気になれないかもしれない。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちが発表したバイタル・ラジオ(Vital-Radio)は、ウエアラブル機器は使用せずに、人の脈拍と呼吸を計測することができるシステムだ。ちなみに、バイタル(vital)とは「命の」という意味だが、バイタル・サインというと生命兆候、つまり心拍や呼吸、体温など生きている証拠になるサイン(しるし)をいう医学用語。
バイタルラジオはレーダーに似ている。無線LANルーターのような機器から電波を発すると、壁や人やソファーやらにぶつかった電波が反射して戻ってくる。この反射波を使って生きていない物体と生命体(ここではヒト)を区別し、胸の上下運動から呼吸を、首のかすかな脈動から心拍を「計測」する。反射波が得られるならば壁の向こう側にヒトがいてもよく、複数のヒト(3名まで)がいても区別することができるという。
ただし、電波を当てられる側――計測される側――のヒトが歩いていてはダメで、座っている必要があるという。とはいえ、病室や、高齢者の住居であれば十分に使えそうな技術である。
多くのウエアラブルの心拍計は、健康な人のさらなる健康増進を目的としたトレーニングなどに活用されている。そのような目的であれば、充電や装着は大して気にならないかもしれないが、入院患者や自宅にいる高齢者、生まれたばかりの新生児にとっては面倒だったり苦痛だったりすることだろう。本人が「監視」されていることに同意している必要があることは当然だが、バイタルラジオのようにデバイスを使わないソリューションは、これからのスマートな社会で重視される要件のひとつになるかもしれない。
文:信國謙司