2015/08/19
信じられるのは人間の目 バスを改造せずにスマホ乗車券を導入したTransITの仕掛け
画像提供:Frederick County
地域の「足」であるバスの安定運行のためには、利用率の向上が課題となる。スマホが日常生活に欠かせない存在となっていくなかで、スマホアプリを乗車券として利用することは有効そうに思えるが、課題となるのは、示されたチケットが有効か、偽造ではないかなどを運転手が瞬時に判断しなければならないことだ。そこで、米国メリーランド州フレデリック郡で運行している公共交通機関TransITのモバイル乗車券アプリ「ezFARE」を開発したTripSpark Technologies社が採用した方法は、なんと運転手の目視による方法だ。
ezFareは、同郡でバス乗客の平均年齢が18歳から35歳と若いことから導入が決まった。iOSとAndroidに対応しており、アプリ自体は無料で入手可能だが、アプリ内で各種チケットを購入する。シニア向けや学割のほか、1日乗車券や10回、20回の回数券、30日定期券もある。チケットを購入したら、乗車直前にアプリでチケットを有効化して表示し、バス運転手に見せて乗車する。
チケット表示画面には、日付と時刻が表示される。枠の線の色は日によって変わり、提示する際には点滅するので、その日に有効な乗車券かどうかはひと目で分かる。スクリーンショットなどで偽造したとしても、点滅させることはできないだろう。さらに、アプリにはスマートフォンのカメラが捉えている映像を表示する窓がつくられている。運転手が見せられたスマホのカメラに手をかざして動かすと、アプリが動作中ならばその窓に自分の手が写る。かくしてチケットが有効かどうか、運転席に座りながらにして短時間に確かめることができるという仕掛けだ。
所持しているチケットのリスト。有効期間などが示される(画像提供:Frederick County)
チケット提示画面。周囲の枠の色・点滅と中央の窓(リアカメラの映像が表示される)で偽造されたチケット画面でないことを確認する(画像提供:Frederick County)
提示されたチケット画面が偽造されたものでないかどうかを確実に判断するためには、バスにQRコードのリーダーやNFCの読み取り装置を付けて、さらに信頼性を上げるためにバスからワイヤレスでセンターに問い合わせてオンライン認証するなどの方法がある。ただし、バス側には改造が必要だし、運用コストも掛かり、ただでさえ台所事情が厳しい地域のバスでは導入は難しい。システムと人間が適材適所で作業を分担することで、低コストで実用的な信頼性のある仕組みを実現したといえるだろう。
文:信國謙司 サムネイル画像提供:© astrosystem - Fotolia.com