2015/03/18

スポーツにもビッグデータ:IoTを活用したマネー・ボールズの世界

2000年代初頭、メジャーリーグで野球に統計学を活用した「セイバーメトリクス」で黄金時代を築いていたのが、オークランド・アスレチックスだ。長きに渡って皆が何となく大事な指標として使ってきた打率や打点ではなく、出塁率など別の指標を重視して選手を採用したりゲームを組み立てることで、年俸の低い選手でもチームを強化できることを実証した(アスレチックスの成功は、2011年にブラッド・ピット主演「マネーボール」の題で映画化された)。これをきっかけに、メジャーリーグのチーム・マネジメントは「意味ある統計」重視に大きく傾いた。野球だけでなく、経験や勘に頼っていたチーム・スポーツがデータ重視にシフトしている。

NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)は、2014年のシーズンから選手の防具の肩パットにRFIDセンサーを仕込んで、フィールドでの動きをリアルタイムでトラッキングしている。「次世代統計(Next Gen Stats)」と名づけられたシステムで、17のスタジアムに導入された位置情報監視システムで全チームの選手とジャッジの動きを捉える。位置情報をテレビ局に提供して実況中継を自宅観戦のファンに見せるのだが、単なる人気取りのための視聴者サービスであるはずはない。各選手の位置、動き、走行距離やスピード、選手間の距離などを記録できれば、チーム編成や個々の攻撃、守備の戦略・戦術づくりに変革が起こるに違いない。

NBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)は、2013年から全30チームの試合会場(アリーナ)にそれぞれ6台のカメラを取り付け、毎秒25回、ボールと選手の動きをモニターしているという。試合中に各チームはコート脇で分析ソフトウェアのアウトプットをタブレットなどで活用することができる。シュートまでに何回パスしているか、ボールを保持している平均時間はどの程度か、走った距離やスピードはどうかなどがリアルタイムで把握できる。

チームによっては、試合だけでなく、選手の日常生活にもデータ収集メカニズムを持ち込んでいる。活動量計(トラッカー)を装着させておけば、日々の活動だけでなく、睡眠パターンも解析できる。活動量と成績との相関関係が明らかになれば、根拠のある選手指導が可能になる。体温や肺活量など、得られるデータも増えていく。単に試合に勝利するだけでなく、選手の健康状態を把握することで選手生命を長くしたり、トレーニングの効率を高める効果も期待されている。

根性や気合い、ガッツや勘に頼ってきたアスリートや指導者たちには受け入れにくい変化かもしれないが、IoT(モノのインターネット)やビッグデータのブームがスポーツを例外分野として避けて通るということは想像しにくい。全日本女子バレーボールのようにコート・サイドでタブレットなどを駆使する姿はますます一般化していくだろう。ようやく時代がノムさん(元ヤクルト・スワローズの野村克也監督)に追いついてきたということなのかもしれない。

文:信國謙司