2016/07/21

シズル感を出せ! プロカメラマンに聞いた『響く飯テロ写真』の撮り方

スマホでの撮影テクニックを探求し、SNSでたくさんシェアしてもらう写真を模索するTSスマホカメラ部。今回のテーマは、「飯テロ」です。プロのカメラマンに、あなたのお友達やフォロワーの食欲を過剰にかきたてるグルメ写真、通称「飯テロ写真」の"響く"撮り方を指南してもらいました。

指南役としてお迎えしたのは、数々の雑誌や書籍でシズル感たっぷりの料理写真を撮影するプロカメラマン、森カズシゲさん。ただし、今日の撮影で使っていいのはスマホカメラのみです。果たしてプロと素人の写真ではいったい何が違うのでしょうか?

平日のランチタイムに「恵比寿焼肉 Kintan」を訪れた筆者(左、iPhone6sを使用)とキャリア20年以上のプロカメラマン、森カズシゲさん(右、iPhoneSEを使用)

【ポイント1】よい料理写真は、席選びから! 2つの光源で"シズル感"を演出すべし

編集Uが普通に撮った写真

欲を掻いて小鉢まですべて写そうとしたため、せっかくの肉のプレートが小さすぎる残念例。またメニューや箸立てなどが写り込み汚い印象も。外光と照明がミックスされていないので、画面左が青白く、右側が黄色くちぐはぐな印象。ひと言でいうと、美味しそうに見えない......

プロカメラマン・森カズシゲさんの写真

光がお皿のなかに集まるよう、右斜め後ろから外光を取り入れつつ、上からの照明で肉の表面に黄色い光の粒を集めている。2種類の光のバランス次第で、同じスマホカメラでもこんな写真が撮れるんです。同じテーマで撮った写真とは思えないほど美味しそう!

――早速ですが、飯テロ写真を撮影するにあたってのポイントを教えてください!

2人の座り位置に注目。森さんは外からの自然光と、室内の照明をうまく利用できる位置に陣取っています。ズルい!

森さん(以下、森) まず、大事なのは「席選び」です。というのも、写真にとっていちばん重要なのは「光」なので、奥の暗い席より、なるべく明るい窓際の席を確保することが大事なんです。

――席がすでに埋まっていたり、地下だったり、夜だったりすると、その時点でゲームオーバーっぽいですが......。

森 屋内でもテーブルに向けられているライトや、壁一面が光っているような照明があればなんとかなりますよ。とにかく大事なのは「料理に向かって、2方向からの光がバランスよく射し込むこと」。ベストは、お料理の斜め後ろから太陽光(白い光)が射し込んできて、店内の照明(黄色い光)が上から降り注ぐポイントを探す。光がキレイにまわると、瑞々しい生肉の上に光の粒がいっぱい溜まってキラキラするんです。これが、他人が写真を見て「食べたい!」って思う「シズル感」なんですよ。

――となると窓からの光がさえぎられる場所はNGってことですね。

森 そうです。前にお友達が座っているときは、撮影中ちょっとよけてもらったりしましょう。2つの光のバランスが決め手になるので、料理を注文して待っているあいだ、お冷ややスパイス瓶などを使って「試し撮り」するといいでしょう。料理によってはみるみる冷めていったり、水分が飛んだりして、おいしそうな瞬間がすぐ終わってしまいますからね。

【ポイント2】盛りつけには理由がある。料理の"正面"を探すべし

編集Uがちょっとがんばって撮った写真

角度をつけて皿を大きく写しているものの、ご飯が手前になり、せっかくのカレーが奥に小さく写るという残念な1枚。背景の網も余計だし、汚れたお皿も拭き取ってあげたい

プロカメラマン・森カズシゲさんの写真

主役のカレーを手前にレイアウト。特に売りであるゴロゴロしたお肉が目立つように向きを調整し、肉の輪郭が出るように光の粒を集めている

――いよいよ、お料理が来たら、どんなことに気をつければいいですか?

盛り付けがよくない時は自分で仕上げるつもりで整えましょう。なお、森さんはお店のメニューを裏返し、光を反射させて暗い部分を照らす「レフ板」として使っています。ズルい!

森 まずは「料理の正面」を探します。実は料理には必ず「ここから撮って欲しい」という面があるんですよ。よくわからないという方は「添え物は後ろ」と覚えましょう。丼の漬け物や、カレーのご飯、ハンバーグのつけあわせ野菜などは、絶対に手前には来ないですからね。メニューの写真がプロによる撮影なら、料理の向きを意識して撮られているはずです。その写真を見ながら、どこが正面にあたるのかを判断するのも手ですね。

――もし、そのお店が味にはこだわるけど、盛りつけに無頓着だったら......?

森 盛り付けが悪かったり、お汁が飛び散っていた場合は、自分でイジったり拭き取ったりして「正面」をつくってあげることも必要です。お客さんに出すための料理の盛りつけと、写真映えのする盛りつけは微妙に違いますから、いずれにせよ微調整はした方がいいでしょうね。

【ポイント3】構図に迷ったら、とにかくズーム。料理に奥行きをあらわすべし

編集Uが空腹に耐えながら撮った写真その1

肉がただ一直線に並び、上下のすき間が大きすぎるダメな作例。網の面積の方が大きく、色みも暗いのでまったく美味しそうに見えない。もう少しズームでお肉に寄っていきたい

プロカメラマン・森カズシゲさんの写真

肉に寄り、光の加減を見極めることで、うしろに揺らめく炎やほのかに立ちのぼる煙をとらえた。また、肉だけだと暗い印象になるので、パプリカやピーマンを並べて色のバランスを取っているのもポイント

編集Uが空腹に耐えながら撮った写真その2

真上から撮っているため、全体的にのっぺりとして平坦な印象に。今日食べたものの記録にはなるかもしれないけれど、SNSにアップしたところで「いいね!」はつかないでしょう。自分の影が入ってしまっているという初歩的なミスも

プロカメラマン・森カズシゲさんの写真

真ん中のモツにピントをあわせることで奥行き感が出ている。あえてガラス製のサラダ鉢を入れたのはすき間が埋まり、画面が引き締まるため。両端を少し切ることで、その先を想像させる効果もあるとか

――ほかに気をつけておきたいポイントってありますか?

森 いろいろありますけど、迷ったらとにかくズームして、料理に「寄る」のが大事ですね。寄ることで、テーブルの上のお手ふきやメニューみたいな余計なものが写らなくなりますし、角度をつければ奥行きが出ます。その際、手ブレしやすくなってしまうので、肘をテーブルやソファにくっつけて、しっかりシャッターを切るのが大事ですよ。

そんなこんなで、同じスマホカメラを使ったにもかかわらず、プロと素人の差が歴然と現れた今回の撮影。料理写真のポイントがいくらかわかったところで、森さんからの注意をひとつ。

森 あんまり撮影に手間暇をかけていると一緒に来た人や、周りのお客さんの迷惑にもなりますし、だいいち熱々のお料理がどんどん冷めてしまいますからね。素人の写真には素人なりのライブ感があったりもしますし、丁寧な写真はプロに任せて(笑)、まずはお食事を楽しんでください!

【おまけ】

左:ようやく食べられる段になり、編集Uが右手で持ち上げた肉を左手で撮影。「箸あげ」はシズル感を演出するテクながら、ピンぼけではその喜びも伝わらない/右:「ピンぼけするくらいの方が、ライブ感があって食欲をそそったりするんだよね」と、森さんがさらっと撮った写真。ライブ感を表すにも、基本が大事なのだということがよくわかる2枚です

【取材協力】
恵比寿焼肉 kintan
東京都渋谷区恵比寿西1-10-3 トラストリンク恵比寿ビル1F/2F

文:熊山 准