2015/11/06

【検証】あえて遠回りルートを提案するアプリに導かれ、春日から渋谷に向かってみた

社会人ともなると、訪問先が初めて降りる駅、というケースが増える。そんなときは乗換案内アプリ。目的地には最短距離で、最速で、乗り換えなども最低限に、すんなりとたどり着きたいものだ。......しかしどうだろう? 本当にそれでいいのだろうか? 果たして効率化だけが人生なのだろうか......?

というわけで、今回紹介するのは奇妙な乗換案内アプリだ。ジョルダン株式会社がリリースした「乗換案内norippa」は電車に長く乗り続け、かつ費用負担をなるべく増やさないような経路を提案する"新発想の経路検索"だそう。

たとえば、新宿駅発~新宿三丁目駅着の経路検索をしてみよう。通常であれば、東京メトロ丸ノ内線に乗れば、2駅1分で到着してしまう距離である。これを「乗換案内norippa」で30分かけて移動したいと設定し、検索してみると、新宿から池袋を経由して新宿三丁目に29分かけて到着する経路が案内されるのだ。

このアプリ、一体どんな経緯で開発されたのだろう?
「実は、ユーザーのなかに、『電車に乗りっぱなしでいたい』というニーズがあるようなんです」(ジョルダン株式会社・長岡豪さん)
たとえば、会社員が取引先のハシゴをする場合。A社からB社へ行く間には空き時間が発生することも多く、そんなときはカフェで時間を潰しがち。この余計な出費を敬遠し、「それだったら電車で遠回りし、ジャストなタイミングで目的駅に到着したい」という声に応えてのアプリ開発となった。

「カフェへ入ると、最低でも数百円の出費が避けられません。そのドリンク代より安い交通費に設定して検索していただくことも可能ですし、それでいて、もっとも適当な到着時間まで電車に"乗りっぱ"していただけます」(長岡さん)

運賃はできるだけ安く、しかも意図した時間の"乗りっぱ"を目指すのが、このアプリを楽しむ醍醐味だ。

「当社の技術と知識があるからこそ、開発できたアプリだと自負しております。運賃計算のルールに則りつつ、最短距離時と運賃の差額をできるだけ発生させません」(長岡さん)

ここからは、実践編。一体どのようにユーザーを導いてくれるのか? 筆者もこのアプリを使い、近場の駅を遠回りしてみよう。出発駅は「春日駅」(東京都文京区)で、到着駅は「渋谷駅」(東京都渋谷区)。「春日駅」から都営三田線に乗って「神保町駅」へ行き、半蔵門線に乗り換え、10数分で「渋谷駅」に到着するのが、一般的な経路だ。出発から到着までは、合計23分かかる。

では、「乗換案内norippa」で乗車時間を3時間に設定してみよう。

まず都営三田線に乗り、「水道橋駅」に向かわないといけないらしい。いざ、16時58分発の電車で渋谷までの小旅行へ出発!

出発地点の「春日駅」。
「水道橋駅」へは、ほんの2分で到着。ここから17時08分発の中央・総武線各停に乗り替え、なぜか「千葉駅」を目指していく。

千葉へ向かう直前の「水道橋駅」。まだ辺りは明るい。「水道橋駅」→「千葉駅」に要するのは、なんと1時間。ガタンゴトンと揺れながら各駅停車で千葉を目指す電車内は、はっきり言って混んでいる。帰宅ラッシュ時間にかぶっており、景色を楽しむつもりだった当初の予定はもろくも挫かれる羽目に......。

しかし、ここで発想を転換。忙しさにかまけ、今まで手がつけられなかった諸々に取り組む良い機会ではないのか? 幸い、筆者は鞄に書籍を忍ばせていたので、この機会に集中してページを読み進めることができた。薄い本なら、道中で一冊まるまる読破してしまうこともできるだろう。

ほかに、脳内で散乱する膨大な数のタスクを手帳片手に整理し直してみるのも良いかもしれない。もちろん、仮眠にもうってつけ。中断されることのない60分以上の睡眠時間が出現するのだから、夜更かしの続くビジネスパーソンにとっては思わぬプレゼントに違いない。ぜひともスマホばかりに気を取られず、またとない長尺のフリータイムを有効活用していただきたい。「家に帰って寝ろ」という指摘はあえて受け入れない。電車で寝るのがいいんです。

というわけで、意外にも充実した時間を過ごしながら「千葉駅」に到着。駅ホームから外を望むと、すでに辺りは真っ暗であった。

っていうか、都内で渋谷へ向かうだけなのに、なぜだか千葉まで来ている不思議......。だが、これだけの遠回りをし、駅構内の案内表示を見ながら目的地を目指す。図らずも列車の旅は、忙しない日々が続く現代人にとって、新鮮なアクセントになるはず。筆者も幾分、ドキドキしている。

この「千葉駅」から、今度は外房線に乗って「蘇我駅」へ向かう。所要時間は、6分。あっという間だ。

そして、いよいよ折り返し。今度は50分かけて、京葉線で「東京駅」を目指すのだ。車内で窓の外を眺めると、「船橋」と書かれた看板が見えたり、確実に県境を越えたことが実感できる。そんなこんなで、「東京駅」に到着した時刻は19時20分を過ぎていた。

エンディングは、「東京駅」→「渋谷駅」という馴染み深い経路。もはや、緑色の山手線車両を懐かしく感じる域に達している(画像はイメージです)

19時54分、とうとう「渋谷駅」に到着。所要時間2時間56分、総額339円の旅を無事にやり遂げた!

駅の外を出ると、そこはネオン輝く完全な夜の街だった

この日、筆者が道しるべ代わりにした「乗換案内norippa」だが、ただ単に遠回りルートを提示するのではなく、きちんと"一筆書き"のルートが案内されるところが強みだろう。行き帰りの経路において、同じ駅は2度以上通らないように考慮されている。

「意外に難しいことをやっているアプリなので、詳しい人には『よく作れましたね』と驚かれます。実は、技術的になかなかできないことを瞬時にやっているんですよ(笑)」(長岡さん)

ユーザーからは、「エイプリルフールはもう過ぎてるしw」「誰得?」「こんな遠回りw」といった感想が寄せられているそうだが、「真面目なイメージしかないジョルダンだからこそ、それを払拭したい。『変なものを開発した』と思われようじゃないか!」というモチベーションが同社にはあったようで、技術的にもリアクション的にも目的はしっかり果たしている模様。

今回は無駄に大きな遠回りを敢行した筆者だが、上手に使えばカフェ代を浮かすなど、有意義な活用も不可能ではない。技術的にも実用性に関しても、ひそかにレベルが高いアプリであった。

文:寺西ジャジューカ