2015/09/14

ドクター・中松ハウスでドローンを飛ばせ

頭上にはすがすがしいほどの雲ひとつない青空が広がる、8月某日。日ごろはインドア派を貫くTIME&SPACE編集部員たちだが、開放感あふれる真夏の陽気を前に、とある欲求が込み上げてきた――こんな日は、思い切りドローンを飛ばしてみたい!

しかし今年に入ってから、我々一般市民がそこかしこで自由にドローンを空へと放つことが難しい状況になってしまったのは周知のとおり。狭い自宅でジッと機体をながめているだけでは、ドローン飛行技術が向上するはずもなく、それ以前に大空へと飛び立つことを許されない我が愛機が可哀想でならない......!

そんな真夏の太陽以上に熱いドローンへのパッションを抑えきれずにいたその時、我々のもとに大変喜ばしい情報が舞い込んできた。なんと、かの有名な発明家、ドクター・中松が、自身の自宅の一部をドローンの練習場として開放しているというではないですか!

愛機である紅の「Bebop Drone」。ドローンとしてこの世に生を受けたにもかかわらず、いまだに自由に大空を舞った経験がない。飛べない豚はただの豚だ

そこでTIME&SPACEドローン愛好家一同は、愛機であるパロット社の「Bebop Drone」を携え、東京・世田谷区にある「ドクター・中松ハウス」に参上した。

気になる練習場のスペックだが、四方をコンクリートに囲われた、高さ15メートルの吹き抜けという仕様。床にはいくつかの「×」印がつけられ、離着陸時にはよい目印となりそうである。むむむ......これは"ドローン飛ばしたい欲"が一層駆り立てられる!

ドクター・中松ハウスの門をくぐり屋内へと歩を進めると、そこにはおおよそ一般家庭では決して作ることなどできないであろう、高い吹き抜けにたどり着く。この空間こそ、ドクター・中松が設けたドローン練習場である

居ても立ってもいられなくなり、そそくさと愛機の飛行準備に取り掛かる編集部員たち。これまでは眺めて楽しむだけだったドローンも、ついにその本来の力を覚醒させるチャンスがやってきたということで、組み立てにも念には念を入れ、何度もチェックを行う。そしていざ、離陸!


お......


おおおー......


うおー、すっげー飛んだ! ついに念願叶って天井という名の大空に向かって飛び立つ我が愛機。15mという高さは、外で飛ばすにはなかなか勇気がいるけど、室内だとかえって安心だ。その勇姿はどこかはしゃいでいるようにも見える

すると「ブイィィーン!」と勢いよく音を立て、部員たちのBebop Droneが徐々に高度を上げ始めた。床スレスレの高さから、目線、そして気が付けば機体ははるか頭上15mへ......。立派に飛行するその雄姿に、感激のあまり部員たち一同、「おおおー!」しか言葉が出ない。その後もドローンに積んだカメラで上空の様子を撮影したり、ドローンをバク宙させてみたりと、日ごろの鬱憤を晴らすかのように存分にドローン飛行を楽しんだ。

練習場にはドクター・中松のご尊顔が描かれた巨大壁画が飾られている。ドローンをぶつけることのないよう、細心の注意を払いながらカメラを向けてみると、まるで中松氏のARとバトルをしているかのよう......これがドローンハイか!

実際に操縦して実感したが、こういった閉鎖された安全な空間なら、周りを気にすることもなく、自由に、高くドローンを飛ばすことができるので、これはやっぱり気持ちE! ドローンを飛ばしたり、フライトの反省会をしたりで、気がついたらあっという間に2時間経過。終了して事務所に戻ると......。

ド ク タ - ・ 中 松 が 現 れ た!

そこに現れたのは、なんとドクター・中松ご本人! さすがドクター・中松ハウス! ドクターがいるんです! というわけで、テスト飛行のあとに、ドクター・中松にインタビューをお願いしちゃいました。

ドクター・中松が自宅を開放してまでドローン練習場を作りたかったワケ

――今年4月の首相官邸屋上のドローン墜落事故以降、私たちのような一般のドローン愛好家も自由に飛行を楽しむことができなくなってしまいました。

「この現状には大変心苦しい思いをしています。というのも、今のように頭ごなしに飛行規制区域を設置するだけでは、これまでのような事件や事故が再発しかねません。"飛ばしていい場所"を規制するだけではなく、それ以前に規制を引かねばならないことがあると思うのです」

――と、言いますと?

「まずひとつが、機体の性能への規制です。操縦したことがある人ならお分かりかもしれませんが、今売られているドローンは、操縦自体が思うようにいかないものや、ぶつかるとすぐに壊れてしまうような脆いものも少なくありません。一般に流通するドローンには、一定の性能基準を課すことで、事故の件数も大幅に減るはずです。

それともうひとつが、操縦技術のない人への飛行規制です。自分のドローンをうまくコントロールできないにもかかわらず屋外で自由に飛ばせば、いつ他人に危害を加えることになるか分かりませんからね。ですから、一般人もドローンを楽しめる環境をつくるのであれば、まずはドローン操縦技術を底上げする必要があるのです」

ドクター・中松の歴代の発明をまとめた大変貴重な著書。同氏の様々な発明品が収められている

――そこで、ご自身のご自宅を開放して練習場を設置されたということなのですね。

「そうです。これまで実際にドローンの操縦を練習できる場所は世界中のどこにも存在しませんでした。なぜなら、個人の家で操縦環境を整えることはほぼ不可能ですからね。練習には、まず四方をコンクリートに囲われた屋根付きのスペースを確保する必要があります。それに、ドローンはGPSを受信しなければいけませんから、通信環境も整った場所でなければならない。

そうした練習場に必要な条件をすべて満たしたのが、ドクター・中松ハウスの練習場なのです。ここは、15メートルと高さも十分にありますから、上空までドローンを飛ばすこともできますし、床に目印も設置しています。練習場としてはこれ以上の環境はないと思いますよ」

――ここで練習を重ねれば、立派なドローン操縦士になれそうです!

「頑張って練習して操縦技術を上げていただければ、ドクター・中松から認定証を差し上げましょう」

――本当ですか! それは練習に熱が入ります。ちなみに先生もドローンを飛ばすことはあるんですか?

「もちろんありますよ。それに今、次世代型のドローンを発明中です。ドローンは今後、使い道によっては大変すばらしいイノベーションを私たちの生活にもたらすと考えています。皆さんも、ドクター・中松の新しいドローンに期待してくださいね」

こうした環境が増えれば、ドローン愛好家たちのフラストレーションも徐々に解消されるだろう。ちなみに、ドクター・中松ハウスのドローン練習場、利用料は1人1時間=1,500円で、要予約。自宅に眠っているドローンがあるという人は、利用してみてはいかがだろうか。

ドローン練習場の利用可能時間は平日=9:00~18:00
予約・問い合わせはshop@dr.nakamats.comまで。

文:田代くるみ
撮影:有坂政晴(STUH)