2016/11/29

遠隔操作ロボが分身に? 新しい在宅テレワークに挑戦してみた

インターネットの普及、特に携帯電話やWi-Fiなどの通信が高速化したことによって、我々は場所を選ばず働けるようになった。喫茶店でPCを広げるノマドワーカーは珍しいものではなくなったし、業種や職種によっては在宅勤務を取り入れている企業もある。実際のところ、ビジネスシーンでもたいていの用事はメールと電話で済んでしまうものだ。

――もちろん、「済ませようと思えば」だけど。

というのも、コミュニケーションを取るうえでは「相手の顔が見えること」のメリットが無視できないからだ。Skypeなどのビデオチャットを使えば、映像をやりとりすることもできるけれど、何かが足りない。その「何か」とは、「足」だったのかもしれない。

ネットワークカメラ+ラジコン=遠隔操作ロボット?

今回紹介する「Bayper(バイパー)」は、ビデオチャットなどで使われるネットワークカメラに足回りを追加したような「コミュニケーションロボット」だ。

PC周辺機器などのデジタル製品や業務用の検査機器などを取り扱う3Rソリューションが開発し、クラウドファンディングサービスの「Makuake」でサポーターを公募した後に発売した。

『Bayper』 スリーアールソリューション/29,800円(税込)

Bayperを自宅や職場の無線LANに接続すれば、スマホアプリを使って遠隔操作が可能。130万画素のネットワークカメラとマイクが内蔵されていて、ロボットの視点からの映像や音声がリアルタイムで届く。写真や動画の撮影のほか、スピーカーからこちらの音声を流したり、声と身振り(振動)で「笑う」「騒ぐ」などのアクションを行わせたりすることもできる。

高さ15cm、重さ約800gのオモチャのようなロボットだが、公式HPには「ペットやお子様とのちょっとしたコミュニケーションをとることができます」とある。基本的な映像・音声通信が行えるんだったら、ペットや子どもだけじゃなくて、仕事にも使えるんじゃないだろうか?

たとえば筆者は、フリーランスの編集者として複数のオフィスに出入りしている。普段のやりとりは基本的にはメールと電話。打ち合わせや編集会議は顔を合わせて行うのだが、原稿を催促されているような切羽詰まったときは移動時間さえもったいないことがある。そんなとき、ネット経由でロボットを出席させられたらめちゃくちゃ便利だ。会社員の場合でも、外出先からロボットの目を通してオフィスの様子を覗いたり、ネット経由でロボットを会議に出席させることができれば仕事が効率化できるのではないか・・・・・・そう思った次第。さっそく、都内某所にあるTIME & SPACE編集部にBayperを設置してみた。

Bayperをテレワークに使ってみた

アプリにBayperを登録して、ネットワークに接続すれば、あとは直感的な操作だけ

Bayperのセッティングや操作は、iOSまたはAndroidのスマホアプリで行う。アプリをダウンロードして、Wi-Fiルーターのネットワーク情報を登録。ネットワーク名を選んでセキュリティキーを登録するだけなので、ものの3分程度。新しいスマホをWi-fiに接続するときくらいの手間で完了した。これで、Wi-Fiの電波が届く範囲を自由に動き回れるはずだ。

操作画面は、こんな感じ。

Bayper視点で操作するため、ラジコンよりもゲームの操作感覚に近い。縦向きで使うと下半分がコントローラー、横に向けてカメラの映像を大きく表示することもできる

中央(横向きでは左側)にあるカーソルアイコンで、左右の回転と前後の移動を行う。カーソルを斜めに動かせば、左右に旋回しながら移動する。遠隔で操作するときには、このスマホ画面(Bayperのカメラ視点)だけを見て操縦することになるが、最初にBayperを見ながら操縦を練習すれば、すぐにコツがつかめるだろう。画面をタップすると現れる滴型のアイコンで、カメラの角度も上下に調整できる。

あとは、カメラやビデオのマークで撮影したり、マイクマークをタップして声を吹き込み、ロボットにしゃべらせたりと自由自在。重要なのは充電だ。編集部内をウロチョロするうちに、電池が切れてしまっては使えない。Bayperは、充電器が見える位置に移動して電池マークをタップすると自動で360°を見回し、赤外線をキャッチして充電器まで帰っていくのだ。

赤外線信号を頼りに、自分で充電器まで戻ってシャットダウンする。ほかの人に触られないよう名札をつけた

翌朝、Bayperを動かしてみた。スマホアプリを立ち上げるとロボットが起動して、編集部の景色が目に入る。まだ誰もいないオフィスをぐるっと一周すると、いちばん乗りで早朝出社しているような気分だ。視点が極端に低いので、自分が小さくなった気がするけれども。

ネックになるのは、床を這うケーブルなどの障害物だ。1~2本なら乗り越えられるが、数本束になっていると足(タイヤ)を取られて動けなくなる。上を見上げながら動かしているうちに、何かが絡まって身動きできなくなることが何度かあった。こうなると、誰かが助けてくれるまで待つしかない。

視点が動くだけで、その場にいるような臨場感

その後も、日中電車で移動しながらオフィスに誰がいるかを確認したり、自宅からメールを送信したあと、Bayperを動かして「メールしましたよ」と声をかけたり。相手が突然ウィィィィンと動き出すロボットに慣れてくれれば、オフィスに備え付けの遠隔操作ボディとして問題なく使えそうだ。

編集会議にも、Bayperで参加してみた。そのままでは視点が低すぎるので机の上に置いてもらう必要はあるが、左右に回転して話している人の顔を見ることはできる。さすがにプロジェクタで映し出された資料の文字までは読み取れなかったが、まわりを見回せるだけでも臨場感がある。固定カメラのビデオチャットよりずっと、その場にいる感じに近いのだ。

左右を見回せば相手の目を見て話を聞くことができるが、シャイなのか、みんなあまり目を合わせてくれなかった

「慣れてくると不思議なもので、違和感なくBayperに話しかけるようになった。あと、なんかカワイイので、会議がなごむ。Kくん(筆者)がかわいくなったような錯覚に陥り、怒る気も失せる」(編集長Hの感想)

「Bayperがかわいすぎて、会議にあまり集中できなかったのが反省点。あと、Kさんの応答がワンテンポ遅かったのが少し気になりましたが、通信の問題なのか普段どおりなのかわかりませんでした」(編集Uの感想)

・・・・・・と、会議に参加した編集部員の評判も上々。ただ、音声のやりとりは、電話やskypeを組み合わせる必要がありそうだ。向こう側の声はよく聞こえるのだが、こちらからの音声は、マイクボタンを押して録音した音を送信する。たとえるなら、無線やトランシーバーみたいな感じ。声を吹きこんでいるあいだは相手の声が途切れるので、長い言葉でやりとりするには向かないのだ。ちなみに、撮影やアクションを行っているあいだも、音声は途切れる。

「写真撮ってください」「こんな感じでどう?」くらいの短いやりとりは問題なくできる

販売元のスリーアールソリューション・宮永さんによると、もともと同社ではペット用の見守りカメラなどに使われるIPカメラを開発・提供していたらしく、そうしたいくつかの技術を組み合わせて企画されたのが、この「Bayper」だとか。小さな子どもやペット相手に使うなら、音声通話も必要ないし、視点が低いことはメリットでもあるわけだ。

今年2月に発売されて以来、一時は品切れするほど売れたそうで(現在は販売再開)、面白いところでは防犯目的や、建築会社から屋根裏を撮影するのに使えないかという問い合わせもあったとか。テレワークもいいけれど、自在に動くネットカメラとして捉えると、まだまだいろんな使いみちが考えられそうだ。

文:T&S編集部