2016/08/26

【TSミライ部】大人の電子工作発表会で、IoTの未来を覗いてきた

さまざまな家電がインターネットに接続されるIoT(Internet of Things=モノのインターネット)時代。最近では、テレビや冷蔵庫、家の鍵から部屋の空調まで、スマホやパソコンで遠隔操作できる新しいデバイスが増えている。IoTは、生活を大きく変えようとしているのだ。

とはいえ、今はまだ技術が普及するまでの過渡期であり、いろんな企業がアイデアを出し合っている段階だ。それに、新しいデバイスやサービスを生み出すのは、大企業だけとは限らない。個人が提供されるモノやサービスを受け取るだけではなく、自分が欲しいと思うものを自分で作ることだってできるのがこれからの時代なのだ。

そう感じさせるイベントが、8月6日~7日に東京・有明の東京ビッグサイトで行われた。ITと通信の未来を占う「TSミライ部」、今回は世界最大級のDIYイベント「Maker Faire Tokyo 2016」で、IoTをはじめとするテクノロジーのこれからを考えてみた。

誰もがMakerになれる時代の、電子工作発表会

「Maker Faire」は、2005年にアメリカで創刊されたテクノロジー系DIY工作専門誌『Make:』が主催するイベントだ。発行元のオライリー・メディアは、WWW(World Wide Web)が生まれる前からプログラミングマニュアルなどを発行してきた老舗のIT系出版社。

誰もが自由にテクノロジーを利用できる「オープンソース」の思想に基づき、プログラムを自作したり、自分の用途に合わせてハック(改変)したりする。コンピューターソフトウエアの世界では割と一般的なこのアイデアを、家電や電子玩具などのハードウエア、つまり、「モノ」にまで拡張させたのが『Make:』であり、そこから始まったMakerムーブメントだ。

そのMakerたちが、自分たちで作ったものを持ち寄り、アイデアをシェアするのが、「Maker Faire」をはじめとする展示・交流イベント。日本でも2008年の第1回「Make Tokyo Meeting」以降、毎年1~2回のペースでイベントが開催され、今回の「Maker Faire Tokyo 2016」で12回目となる。会場に展示されていたのは、たとえばこんなもの。

電話一本で迷子の居場所を知らせる帽子

ウルカの郷(砂川寛行&森谷英一郎)製作の「迷子発見支援装置」。迷子発見センターに電話をかけると、子供の帽子が開いてクラッカーを鳴らし、居場所を知らせる。スマホに位置情報を伝えれば事足りる気もするが、あえて電話や帽子を介するのがIoTなのだ。

自分の代わりに表情を作ってくれるマスク

「そもそも現代って 表情筋、要る?」と問いかけるのが、mocymo氏の「smileMachines」。VR機器かと思いきや、自作ヘルメットにAndroidタブレットを仕込み、さまざまな表情をディスプレイに映し出すというコミュニケーションツールだった。「対人関係が苦手な自分のためにつくった」という。

世の中からイケメンを排除するハイテク銃

カメラが捉えた対象からイケメンのみを判別し、銃撃を加える人工知能搭載銃「IKEMEN Dominator」(ブサメンと判断された場合は銃口が閉じる)。開発者のgaricchi氏いわく、イケメンを検知して排除、もしくは課税対象にするなど、イケメンが生きにくい社会(=相対的にブサメンが活躍できる社会)を目指しているとのこと。

このように、テクノロジーだ、プログラムだといっても、コンセプト自体はそれほど難しくない。要は、「自分が面白いと思ったものをつくってみました!」という、ギークたちの展示・交流会。大人の電子工作発表会みたいなものなのである。

近い将来に流行りそうな、商品やサービスのプロトタイプも

以上、遊び心が暴走したおバカな展示を中心に紹介したが、もちろんブースによっては、近い将来に商品やサービスとして普及してもおかしくないような、実用的なものもたくさんあった。続けていくつか紹介しよう。

VRを駆使した遠隔操作ロボット

webデータベースや業務用システムの開発・運用を手掛ける有限会社海馬が、汎用人型遠隔操作ロボットの開発を目指して立ち上げたプロジェクトDALEK。そのコンセプトモデルが「AirPort Concierge CAIBA」だ。操縦する筆者には、ロボットの目(カメラ)で見た視界が広がり、顔や手を動かすと、ロボットの動きが連動する。まるでロボットに乗り移ったかのような没入感!

入力した量だけ液体を注ぐペットボトルキャップ

ペットボトルのキャップにマイコンと通信モジュール、加速度センサー、真空ポンプなどを組み込んだ「Smart Bottle Cap」(UNK with C)。料理の際にカップで計らなくてもスマホで指定した量を注いだり、スクワットした回数に応じて飲めるジュースの量を増やしたりといった使い方ができる。

猫による、愛猫家のためのカメラ&SNS

現在開発中の、猫の気持ちを覗けるペンダント型カメラ「CATSEE」(JellyWare)。猫の動きや鳴き声に反応して写真を撮り、専用のSNSにアップしたり、1日の活動量を記録して健康管理に役立てたりできるという愛猫家にうれしいガジェットだ。友達の猫とすれ違ったときにSNSに投稿する「すれ違い通信機能」なども予定されているとか。

園芸や菜園をハイテク化するIoTキット

趣味で植物を育てていた友人たちが集まって作った「だれでも作れるIoT家庭菜園」キット(farmy)。複数のセンサーとArduino基板を使って温度や湿度などを計測し、どこにいても植物の状態を管理・分析できるweb上のコミュニティサービス「farmy(仮)」と組み合わせて使う。

これからのIoTを生み出すのは、会場に来ていた子供たちかも?

昨年8月に行われた「Maker Faire Tokyo」には、350組の出展と、14,500人の来場があったそうだ。今年の出展者数は、それを上回る400組。Makerたちが増えている背景には、イベントの認知が高まったこともあるが、個人がテクノロジーを使い、ものづくりをしやすい環境が整ってきたことが要因だろう。

左:会場ではArduinoやRaspberry Piなど、電子工作用の基板(シングルボード・コンピューター)も販売されていた。/右:動きや温度・湿度、明るさ、人感センサーなど、さまざまな入出力機能を持ったブロックをiOSアプリでつなげて使う「MESH」。これならプログラミングの知識がなくても使えそう

代表的なものが、『Make:』創刊の2005年にイタリアで始まり、2008年の第1回イベントで、国内初の展示・対面販売を行った「Arduino(アルドゥイーノ)」。これは簡単に光や音などの出入力を制御できる安価なマイコンキットで、それまで個人で行うにはハードルが高かったハードウエアのプログラミングを各段に手軽なものにした。以前はweb サイトやアプリケーションなど、パソコンでしか使えなかったプログラム言語で、リアルなモノを動かせるようになったのだ。

3Dプリンターのコーナーは子供たちで盛況。手前にあるのは、9万円を切る価格の小型3Dプリンター「BS01+」(BONSAI LAB)

また、回路やプログラムを組み込んだ"モノ"を作るうえでは、個人にも手の届く価格の3Dプリンターや、工具やプリンターを自由に使えるファブラボなどのスペースが増えたことも重要だ。こうして個人や小規模事業者がMakerになりやすい状況は、2010年代に入って国内でも急速に整ってきた。

最近のMaker Faire Tokyoには子供向けの展示やワークショップもあり、家族で訪れる来場客も多く見られる。子供の頃からプログラミングや電子工作に親しむ世代は、この先どんな技術やサービスを生み出すのだろう。これからのIoT時代をつくっていくのは、彼らなのだ。

文:T&S編集部
撮影:後藤 渉、T&S編集部