2016/09/15

【紳士のSNS講座】第10回 中秋の名月なので、「風流なオレ」をお自慢する

2016年も二百十日もことなく過ぎ、朝夕ごとに過ごしやすさも増してまいりました。皆様いかがお過ごしでしょうか? 「お自慢の秋」到来です。

古くから日本では、「秋」と組み合わせることで、おおむねなんでも話題として成立することになっています。「食欲」とか「芸術」とか「スポーツ」とか。普段そういうジャンルに全然コミットしていなくても「秋だから」という理由だけで、突如、グルメネタやアートネタやスポーツネタのポストが許されます。チョイ乗りするだけで歳時記になるという絶好の季節。それゆえの「お自慢の秋」でもあるわけです。

さて、今回のテーマは「風流なオレ」。

季節の移ろいに心を配り、過去と未来にひとり思いを馳せる。侘び寂びとシックな世界観を前面に出しながら、裏地のように真逆なポピュラリティをチラ見せするところがポイントです。

■ポイント※① 誰にでも訪れるライフイベントで、風流自慢を巧妙にカモフラージュ

「お誕生日」は、SNS上では最強のスペシャルデイです。2回しか会ったことない人や、小学校以来会っていない幼なじみからもお祝いコメントが届きます。お礼をするのは当然。つまりこれは完全に必然性のある投稿になるわけです。

お誕生日だから「人生のマイルストーン」についても語れます。でも「子どもふたりと大型犬」「タワーマンションの最上階」など、具体的な夢を書くのはご法度です。数値目標を掲げることは自分の首を絞めますし、チラッとしか読まない人には「がんばってるのかどうか」の熱がはっきり伝わりません。具体的な夢はチラシの裏にコッソリ書きましょう。

こういうときは「がんばる」「走り続ける」などの、ポジティブでシンプルで成果が見えないフレーズが効果的。誰も評価のしようがないですし、見た瞬間、「がんばっている感」が伝わります。フレーズが思い浮かばない人は、1990年代あたりの歌謡曲から拝借してください。20代なら少しアレンジして、「感謝」「尊敬」といったフレーズを散りばめるのもフレッシュ感が伝わり、好感が持てます。2000年あたりのポップスを参考にするといいでしょう。

■ポイント※② 季節の移ろい、というレアアイテムを取り上げる

グルメやファッションや最新スポットなどとSNSとの親和性の高さは、もうおなじみです。多くの人々が「アップするために食べる/買う/行く」ことになっています。しかしながら、季節の移ろいは、いわば"出会い"です。SNSのために、中秋の名月は出てくれているわけではありません。

だから、実は尊い。アップするだけで、煩悩に満ちたほかの投稿との差別化が図れます。

しかも「中秋の名月なう」で終わるのではなく、月を思索のスイッチにしているところが相当に雅です。花鳥風月を解する回路は日本人のDNAに刷り込まれています。「月見てもの想うオレ」は、見た人に伝染します。同じ月を見ていれば、彼らもその瞬間、なにかを想い、あなたに共感するでしょう。それだけで飯テロならぬ「風流テロ」の成就です。いいね! です。

■ポイント※③ 風流とは真逆の要素のチラ見せで、魅力に厚みを持たせる

「もの想うオレ」のお自慢は、単に中秋の名月から入って日本酒とともに空を見上げる・・・・・・という構成でも成立します。ただ、いささか地味。今回は、「誕生日」「前日がパーティ」という全部乗せの状況があったので、これを余すことなく活用しましょう。

「今は月を見てひとり思索にふけるオレだけど、イケてる仲間たちとの宴も楽しんだあとのことなんだよね!」という、目まいがするほどの強いコントラスト。

実は、「ひとり×月×思索」は、誰にでも達成できるイージーミッションです。お月見を起点としながらも、数々の人脈とおしゃれティックなアイテムたちを散りばめたのが、この投稿者のニクイところ。そこには「スペシャルな自分感」が、これでもかと香り立っています。

このあと「マリアットホテルの佐藤さん」や「D3の山田」や「講論社 髙木女史」からのコメントがつき、やり取りが行われることになるでしょう。そこでさらに展開される会話や場所への言及までを含めて、はじめてこのお自慢は完成したといえます。

もちろん、見込んでいた人からの反応がない、という不慮の事故に遭うリスクもあります。指名ポストしてからのスルーほど恥ずかしいものはありません。即座にメッセンジャーなどの別ルートでコメントを督促しましょう。臆することはありません。優雅な白鳥も、水面下では必至に水をかいているものです。

絵:Shu-Thang Grafix

講師:武田篤典

何気ない所作のなかにある「モテ」を顕在化し、好評を博した『スマートモテリーマン講座』著者。SNSなど各種コミュニケーションにおける礼儀作法を研究する「武田流万(よろず)礼法」家元。

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