2016/05/31

【ICT×MUSIC #1】ボーカロイド初音ミクの衝撃! 『livetune+』とインターネットとの出合いとは

インターネットなど、"通信のチカラ"を活用しながら音楽活動をしていたり、 "これまでにない通信の使い方"で注目を浴びているアーティストにフォーカスする音楽連載企画。毎回、J-WAVEの小松祐太さんに、いまオススメのアーティストを紹介してもらいます。第1回は、5月11日にデビューEP『Sweet Clapper』をリリースしたlivetune+。いったいどんなアーティスト? インタビューも必読です!

ファッションモデルとして幅広く活躍しているヴォーカルのやのあんなと、ソロプロジェクトlivetuneとして活動し、作詞・作曲を手がけるkz。2013年にリリースされた、やのあんなのデビューCD「Shape My Story」のプロデュースをkzが担当したことをきっかけに出会う

どうもJ-WAVEの小松です! いまチェックしておきたいアーティストを紹介する連載企画、「ICT× MUSIC」。第1回は、デビューほやほやの異色ユニット「livetune+」を紹介します!

自分の話から始めて恐縮ですが、しがない秋田の片田舎で育った私が携帯電話を持たせてもらえたのが高校1年生のとき、2001年。当時はもちろんカメラなんかついてないし、携帯のインターネットを使ってすることといえばゲームのダウンロードのみ。流行りのイカした情報は雑誌と、上京していた兄から聞くしかないし、もちろんYouTubeなんてないから電車で1時間かけて最寄りのライブハウスまで行ってたし、彼女とだってメールよりも手紙のやり取り......という、まさに"ド"アナログな青春時代。

そんなアナログ人間がとうとうパソコンを手に入れたのが2004年、大学入学と同時に上京した春でした。これまでのアナログナイズドされた生活を現代に馴染ませるべくインターネットを駆使し、多様な情報にまみれ、みるみる脳みそもデジタル化されていったわけです。音楽といえば"ロック"でしょ! だった私の音楽生活もクラブにハマり、テクノやエレクトロミュージックにあっさりと変化していきました。

初音ミクの衝撃

そんな私の実生活や音楽生活と同様に、さまざまなテクノロジーが取り入れられ、多様化していく音楽業界にセンセーショナルなアイドルが登場したのが、私がパソコンを手に入れてからわずか3年後の2007年。青緑色の髪、くるぶしまで伸びたツインテール、襟付きノースリーブにネクタイ、ミニスカートに黒タイツ、その名は「初音ミク」。スタイル抜群でかわいくて、それでいて抜群の歌唱力! 少しエフェクトがかかった声ながらも、正確な音程で伸びやかに歌う彼女の実体は......ボーカロイドソフト!? うそ!? すごくね!? これがメロディーと歌詞をパソコンに入力してサンプリングされた人の声を元につくった歌声なの!?!?

2007年にkzさんが初音ミクを使用し、livetuneとして初めてニコニコ動画へ投稿した楽曲「Packaged」。本作がインターネット上で話題になり、それをきっかけのひとつとしてメジャーデビューを果たした

と、わかりやすくボーカロイドの説明をはさみつつ、補足しますと、ボーカロイド自体はときを少し遡って2004年にパソコン向けのパッケージ製品が発売されています。2004年......パソコン買ったばっかりだし、まだ人差し指1本でタイピングしていたし......まあ、そんなことはさておき、キャラクター化されたボーカロイドという画期的なソフトを利用した楽曲は、ニコニコ動画をはじめとする動画サイトに次々と投稿され、爆発的に拡散していきます。アマチュア、プロ問わずにさまざまなアーティストが注目を集めるなかでも際立って目立っていたのがkzによるソロユニット「livetune」でした。

livetuneは、初音ミクをヴォーカル音源とした一連の楽曲がニコニコ動画などインターネット上で話題を集め、瞬く間にメジャーデビュー。エレクトロでポップなサウンドを基軸にしつつ、ジャンルレスに飛び交う音楽性はリスナーのみならず、アーティストからの評価も高く、SEKAI NO OWARIのFukaseをはじめ、さまざまなアーティストとのコラボレーションも実現します。

余談ではありますが、現在では高校の授業にも初音ミクが導入され、「初音ミクに校歌を歌わせよう」「初音ミクで学校の60秒CMを制作しよう」といったプログラムが実際に行われているようです。ICTと音楽の融合が進むいま、未来のlivetuneはすぐに現れるかもしれません。

「ライブがしたかった」kzが、やのあんなと"カワエロ"!?

というわけで、今回はそんなlivetuneが新しく立ち上げたプロジェクトlivetune+に注目。livetuneが楽曲制作を担当し、"カワエロ"青文字系モデルのやのあんなをヴォーカルに迎えたユニークなスタイルのユニットです。5月11日にメジャーデビューとなる1st EP『Sweet Clapper』をリリース。

まずはタイトルトラック「Sweet Clapper」のMVをチェックしていただきたい。kzらしい否が応でもアガるトラックと、やのあんなのかわいらしく癖になる歌声とゆるくコミカルなダンスがやみつきです。やのあんなのルックスも相まって何度も見てしまうスルメMVに仕上がっていますが、まさに「ライブがしたかった」とkzが語るようにライブ映えする1曲。会場を煽るkzとやのあんな、会場中に響くクラップ、やのと一緒に踊るお客さん......目に浮かびます。2010年代を代表するインターネットミュージックとライブの融合、これは見逃せません。

やっぱり音楽はライブで見るのがいちばん! ほかの曲も打ち込みによる楽曲と、やのあんなのヴォーカルとしての才能が遺憾なく発揮された作品に仕上がっています。今後、Perfumeきゃりーぱみゅぱみゅのようにブレイクする日も近いかも!? みなさん、チェックするならいまですよ!

livetune+にT&S編集部が特別インタビュー! インターネットとの出合いからレコーディング裏話まで

インターネットのこと

――kzさんがインターネットと出合ったのはいつごろですか?

kz:中学1、2年のころじゃないですかね。まだISDNのころでテレホーダイとかの時代ですよ(笑)。画像を1枚表示するだけで1、2分かかって。やのはそんな時代のこと知らないでしょ?

やのあんな(以下、やの): IS......?

kz:画像を1枚表示するのも大変だったんだよ(笑)。

やの:なんで?

kz:ネットの回線が3Gよりも全然遅くて。

やの:本当に(笑)? そんなのなにもできないね。

――パソコンで音楽制作を始めたのはいつごろなんですか?

kz:中学2年のときですね。学校の友だちとゲームのビートマニアにハマっていて、打ち込みの音楽を知って。その友だちがパソコンで音楽をつくるDTMをやっていたのがきっかけですね。もともとピアノをやっていて練習用に電子ピアノを買ったら、設置しにきてくれた業者の人が「パソコンにつなげられますよ」って教えてくれたんです。それで、そんな面白いことできるんだ、って知って。

――やのさんは1991年生まれですが、子どものころから携帯電話は持っていました?

やの:親が過保護だったので、小学生の低学年のときに持ち始めましたね。そのときはネットが見られない機種で、5年生くらいのときにネットを見られる機種になったんです。

――そのころネットでなにを見ていたか覚えてますか?

やの:「魔法のiらんど」(小説、音楽、映画ニュース、掲示板、HP作成、ブログサービスが無料で楽しめるガールズエンタテインメントサイト)とかですかね。

kz:あー流行ったね。

やの:でも制限がかかっていたので、ほとんど見てなかったかも......。

――では、現在スマホでよく使うアプリなどを教えてください。

kz:基本、InstagramTwitterだったり、SNS関連のものですね。あとは外出時に調べものするときにブラウザを立ち上げるぐらいかな。

やのあんなさんのスマホのホーム画面。ジョギング用アプリや、時間があると見ていると話す「AbemaTV」、多彩なカメラアプリなど、やのさんならではの個性的なアプリが並ぶ。右上の次世代アイドル育成&アドベンチャーゲーム「Tokyo 7th シスターズ」には、kzさんが楽曲制作で参加している

やの:私もSNSが中心ですね。あと「C CHANNEL」(女子のための動画ファッションマガジン)ではオフィシャルクリッパーもやっているので、ちょこちょこチェックしていますし、MERY(ガールズキュレーションメディア)とかDJ あおいさんのブログもよく見ています。DJ あおいさんのブログは、けっこう前から人気ですが、リアルな女子の声というか、けっこうシビアな女子に刺さることが書かれていて。ほかには、いろんな人のLINE BLOGもよく見ていて、最近はキングコングの西野(亮廣)さんのブログが面白いです。LINE LIVEも時間があると見ちゃいますね。

kz:LINE LIVEは、自分でも配信しているしね。

やの:そうそう。あと、AbemaTVも見てます。あ、けっこう動画を見ていることが多いかもしれない。だから、すぐに通信制限に引っかかっちゃうんですけど(笑)。

インターネット上で音楽を発表

――kzさんは、2007年にニコニコ動画に音楽をアップして、瞬く間に注目の存在になり、livetuneとしてメジャーデビューされましたが、初めてインターネット上に音楽をアップしたのがニコニコ動画だったんですか?

kz:実はその前の2004年くらいにMySpace(音楽を中心としたSNS)にアップしていたんです。大学の友だちと組んだユニットの音源を上げたりしていたんですけど、全然熱心じゃなくて誰にも教えなかったので誰の耳にも届いていないと思います(笑)。自分でつくった音楽を置いておく場という感覚でしかなくて。一応、知らない人から聴いた感想とかのメールが届くこともあったんですが、完全に趣味のレベルでしたね。

――ネット上に音楽を発表しようと思われたのはなぜだったんですか?

kz:たぶん、友だちか誰かがMySpaceを使っていたんじゃないかな。それで、そういうのもあるのか、と思って登録した気がします。でも、ちゃんと多くの人に聴いてもらえるようになったのはニコニコ動画にアップしてからですね。

――ニコニコ動画にアップされたきっかけは?

kz:ニコニコ動画は、サービスが開始されてすぐくらいの2007年ごろから見ていたんですけど、初音ミクを使って曲をつくったら、だいたいみんなニコニコ動画にアップするっていうのを知ったんです。それで、初音ミクが発売されてから1カ月後くらいに曲ができたのでアップして。それまではアップしようとは微塵も思っていなかったんですけどね。

――では、初音ミクを使おうと思った理由は?

kz:ボーカロイドを使った曲づくりの可能性を探っていた時期だったんですが、あのころはボーカロイドが初音ミクと、そのバージョン1、あとは海外製のものがいくつかっていう状況で、バリエーションが全然なくて。でも、開発中の初音ミクのデモソングを聴いてみたら、思っていたよりもちゃんと日本語が歌えていたので、これにオートチューンっていう機械的な声にするエフェクトを使ったら面白いかなと思って、そのワンアイデアで使い始めたのがきっかけですね。

livetune+結成の経緯

――kzさんが、今回やのさんと一緒にlivetune+として活動することになったきっかけは?

kz:もともと、ずっとヴォーカルを探していたんです。それこそlivetuneでは、SEKAI NO OWARIのFukaseくんとか、ゴールデンボンバーの鬼龍院(翔)くんとか、いろんなアーティストとコラボレーションしていましたが、ライブをやりたくても毎回そんなゲストヴォーカルを揃えるなんてムリな話で(笑)。あとここ何年かでバンドの友だちが増えて、ますますライブがやりたくなったっていうのも大きいかも。やのとは、3年くらい前にプロデュースしてから普通に飲み友だちの関係で、キャラクターもよく知っていたんです。ちゃんと歌が歌えていたのももちろん大きいんですけど、初対面のときからなんか変なヤツだなっていう印象があったんです(笑)。そういえば近くに面白いヤツがいたなと思って、声をかけました。

やの:私は学生のころにバンドをやっていたこともあって、ずっと音楽活動をやりたいと思っていたので、誘っていただいたときはうれしかったですね。

kz:歌がうまい人はいっぱいいるんですよ。でも、キャラクターが面白くて歌がうまいとなると、それはまた別の才能だと思っていて。基本的にやのはライブをやるたびに、なんかすげーヤツだな......っていう爪痕を残せるんですよ。

やの:それがいいのか悪いのか(笑)。

kz:それってすごい重要なことで。変なヤツでもなんでも、印象に残るのは大事なので、そこが大きなポイントだなって思いますね。

――5月11日にデビューEP『Sweet Clapper』がリリースされましたが、どのように制作を進められていったんですか?

kz:あえてちょっとラフなつくり方をしました。基本的にレコーディングから最後の仕上げまで自宅でやって、外のスタジオをほぼ使わなかったですね。

やの:ラフでしたね。合間にチョコを食べたりとか。kzさんの家に到着したら、まずは1〜2時間は雑談から(笑)。

kz:なんとなくラフ感みたいなものを出したかったんです。100%完璧なものというよりかは、粗削りなほうが音楽的になるというか、生っぽさが出るので。打ち込みだと余計にそういうところがあるんですよね。

やの:曲にバリエーションがあるぶん、いろんな歌い方ができたのは楽しかったです。あと、私に合わせて書いてくれているので、自分の曲という意識が強くあります。自分が伝えたいことを歌っているという感覚ですね。

――では、今後の活動の構想は?

kz:地道にコツコツと、ですかね。livetune+になって良かったこととして、お昼にいろいろなところでライブができるっていうのがあって。これまでは夜遅かったり、クラブだったり、あるいは初音ミクっていう大きなシステムを使わないといけなかったり、制約みたいなものが多かったんですけど、電気があって、やのがいれば、だいたいどうにかなる。だから、先日リリースイベントとしてイオンモールとかでもライブしましたけど、子どものお客さんもたくさん来てくれて、うれしかったですね。いままでは絶対に会えなかった層なので、そういうところに向けても音楽をやっていきたいなと思いますね。

やの:子どもやおじいちゃん、おばあちゃんがいるような場所でライブができて、そういう人たちにも聞いてもらえるっていうのは本当にうれしいです。まずはいろんな人に知ってもらうために、地道に活動していきたいですね。

Listen with × livetune+

ユーザーがアーティストと同じ音楽、プレイリストを聴きながら、そのアーティストとリアルタイムでチャットができるコミュニケーション機能。定額制音楽配信サービス「KKBOX」および「うたパス」で展開されている。livetune+のListen withレギュラープログラムは6月10日(金)に開催予定。

詳細はこちら http://kkbox.fm/T4D5Jr

文:小松祐太(J-WAVE)
インタビュー:T&S編集部
撮影:有坂政晴(STUH)

livetune+(らいぶちゅーんぷらす)

数々の初音ミク楽曲を生み出し、空前の初音ミク旋風を牽引したトラックメイカーkzによるソロプロジェクトlivetuneと、青文字系モデルとして世界的に活躍中のやのあんなによるライブユニット。昨年結成し、数々のライブ出演を経て、今年5月11日にメジャーデビューEP「Sweet Clapper」をリリース。