2016/05/25

【ネット系女子!】ゲームボーイを使ってサウンドメイク! チップチューンアーティストTORIENAさん

1989年に任天堂から発売された携帯型ゲーム機、ゲームボーイ。今では店頭で見かけることもなくなったが、当時は『スーパーマリオ』シリーズや『テトリス』、爆発的人気を博した『ポケットモンスター』シリーズなどに夢中になった読者も多いだろう。そんなゲームボーイ機やファミコンのようなピコピコ音を使ってつくられる「チップチューンミュージック」という音楽ジャンルが存在するのをご存じだろうか。

ネットを騒がせている女性をご紹介する「ネット系女子!」の第4回目は、チップチューンアーティストとして活動するTORIENAさん(23歳)。彼女は初代ゲームボーイを使ったポップなメロディと、ヘヴィなビートが融合した音楽作りを得意とし、作詞作曲に加え、ボーカル・録音・自身のCDジャケットやロゴのアートワークに至るまですべてを手がけている。また、ライブではDJブースでゲームボーイ片手にハイテンションなパフォーマンスを行う、キュートでパワフルな女の子だ。

TORIENAさんが作曲・キャラクターデザインを手がけたMV『PULSE FIGHTER MUSIC VIDEO』。チップチューンミュージックは、家庭用ゲーム機やゲームボーイに搭載された内蔵音源もしくはエミュレートした音源を使って作られる

2012年に活動1年目にして国内最大のチップチューンフェス「BLIP FESTIVAL Tokyo」に出演しチップチューン界に彗星の如くデビュー。最近では国内のみならずオーストラリアや中国でもライブを行うなど海外からも注目を集めるTORIENAさんに、チップチューンミュージックへの想いや活動のルーツを聞いた。

初代ゲームボーイの良さは"荒削りな音"

普段は京都を拠点に活動しているが、今回はたまたま東京で出演するイベントがあるとのことで、早速アポを取り付けてお話を聞くことに。当日、TORIENAさんはパンパンのバックパックと大きなスーツケースを持って現れた。ライブ用のDJ機材等が入っているそう。

――作曲はどのように行っているんですか?

「画面に表示される音の波形をいじって音を作り、できた音を鳴らしたい場所に置くという作業を繰り返して曲を組み立てています。できた曲はパソコンに取り込んで、Cubaseというソフトでマスタリングします。初代ゲームボーイは同時に4つしか音が鳴らないんですけど、その中でメロディーをつくったりドラムを入れたりしているんですよ。初代は野太くて荒削りな音が鳴るので、私のつくりたい音楽にぴったりなんです」

初代のゲームボーイはステレオ仕様に見えて、実は左右、真ん中のいずれかしか音が鳴らない擬似ステレオ。「片方から音を出すと、もう片方のスピーカーはブツッていうノイズが入るんです。これはバグなんですけど、私はそのノイズさえすごく愛おしいんです!」

――ゲームボーイのモニターだけで作業するんですね。

「ゲーム機を使うので、ゲーム感覚でつくれるって思われがちなんですけど、実際はプログラムを組むのと似たような感覚です。私も最初は苦労しましたが、3カ月くらいでゲームボーイで作曲できるようになりました。そのかいあってか、今では他人のチップチューンを聴いただけで、パソコンかゲーム機か、どのソフトでつくられたのかまである程度わかるようになりました」

――最近はゲーム会社に楽曲を提供するなど商業的な活動も行っています。

「2012年に『BLIP FESTIVAL Tokyo』という海外のアーティストも出演するチップチューンのフェスに呼ばれたり、youtubeで発表したMV『PULSE FIGHTER MUSIC VIDEO』が10万回以上視聴されるなどして知名度が上がりました。それから商業的な仕事が少しずつ増えていったんです。仕事も普段の曲作りも、基本的に"自分の納得がいく音楽をつくる"というスタンスは崩しません。逆に、ピコピコした曲であればなんでもいい、きちんとした打ち合わせもなくとりあえず売れそうな曲を作って下さいという依頼だと、『私じゃなくていいじゃん』って思って断ることもあります。物づくりって、作り手の想いや哲学を作品にする、いわば魂を削る作業なので、作り手の音楽制作に対する姿勢をなるべく理解してくれる人と仕事をしたいんです。クライアントからはやっかいな人だと思われてるかもしれませんが......(笑)」

――ゲームは好きなんですか?

「もともと率先してゲームをたくさんやる方ではないです。チップチューンに惹かれたのも、自分のやりたい音楽の方向性と合致したからなので。子どもの頃はゲームで遊ぶこともありましたが、あまり上手ではなかったです(笑)」

パソコンやソフト、ゲームボーイなど、作曲に必要な道具たち。「ゲームボーイはバックライトをつけたり、音の出力を大きくするために内部の配線をいじって自分の使いやすいように改造しています。黄色いゲームボーイはファンの方から頂いたもの。写真には写っていないのですが、スケルトンのカバーを買って染料 でピンク色に染めたものを、元の灰色のカバーと差し替えたものも持っています」

原点はレゲエミュージックにあり!?

――幼い頃はどんな子どもでしたか?

「音楽よりイラストに興味がある子どもでした。インターネットを使って色んな人のイラストサイトを見まくっていましたね。自分でもイラストを描いてお絵かき掲示板に投稿したり、自作のイラストサイトを作ってみたりもしていました。負けず嫌いな性格なので、納得いくものが描けるまで何時間も粘ることもありました」

――音楽に興味を持ったきっかけは?

「父親が音楽好きで、常に音楽がそばにある環境で育ったんです。ルーツ・レゲエやブラックミュージックが大好きな人で、膨大な数のレコードが棚に並んでいました。ほかにも、ターンテーブルや大きいスピーカーがあったり......。私は小学校高学年から自主的に音楽を聴くようになったんですが、父親からは自分の聴いている音楽があまり良い趣味じゃないと言われることがあって、すごく悔しくて(笑)。いろんな音楽を知って父親に認めてもらいたくて、父親の棚からCDやレコードを引っ張りだして聴いたり、様々なジャンルの音楽を聴き漁りました。そのあいだに、自分の作りたい音楽も徐々に形成されていったんです。私があえて自分の曲にノイズや激しいキック音など荒削りな部分を入れるのは、父親が聴いていた音楽からの影響が少なからずあるかもしれません」

――チップチューンミュージックはいつ頃始めたんですか?

「大学2年生のときに先輩に『一緒にチップチューンやってみない?』って誘われたんです。ゲームボーイを使った作曲の難しさもあって、最初は乗り気ではなかったけど、チップチューンでのライブ出演が先に決まってしまって。ライブで演奏する曲を準備しなきゃと必死に作曲していたら、そのままハマってしまいました。初ライブ当日、ほかの人のチップチューンの演奏を聴いたとき、心底感動したんです。『これこそ、私がやりたかった音楽だ』って、ビビっときて。それから、より本格的にチップチューンにのめり込んでいきました」

初代ゲームボーイは「人から譲ってもらったり、中古ゲームショップで使えそうな物を買い集めました」。彼女にとってはヴィンテージ楽器を探す楽しみと似ているそうだ

この世に形が残るものとして、CDをつくりたい

――TORIENAさんはネットで曲を配信するだけじゃなく、CDも販売していますよね。DLが主流の現代で、あえてそこにこだわる理由は?

「私はアルバム1枚を通して伝えたいストーリーがあるので、せっかく私に興味を持ってくれたのなら、私の世界観を最初から最後まで楽しんでほしいんです。でも、DLだと1曲のみで完結してしまうし、アーティストがつくったという認識も希薄ですよね。それにインターネット上だけの活動だと、一時は話題になっても毎日更新される膨大な情報に流されて、なにも残せないまま終わってしまうと思うんです。だから、私が確かに存在していることを示すために、この世に形として残る物として、CDをつくる必要があるんです」

SoundCloudは2007年にスタートした音楽ツール。誰でも音楽をアップロードでき、曲のDLや共有ができる。曲のジャンルは問わず、ビヨンセなどの大物からインディーズのバンドまで、幅広いアーティストが使用している。画像はTORIENAさんのプロフィールページ

――チップチューン専門の自主レーベル「MADMILKY RECORDS」も立ち上げています。

「はい。所属しているのは外国人ばかりです。youtubeやSoundcloudにアップした私の曲を聴いて、音楽性に共感した人たちがネットを通じてデモ音源を送ってくるんです。みんな、チップチューンミュージックをつくるのが好きという純粋な気持ちで作曲を続けている、でもちょっぴり癖のある人ばかりです(笑)。そういう人たちがつくる音楽って、荒削りかもしれないけどすごく面白いんです。それをもっといろんな人に知ってもらいたくて、自主レーベルを立ち上げました。私を含めて、音楽理論を勉強していない人もなかにはいます」

――今までずっと独学で音楽を続けてきたんですか?

「はい。完全に独学で、実は楽譜も読めないんですよ。でも、好きという気持ちと根気があれば、案外なんとかなるものです(笑)」

チップチューンを日本中に広めたい!

――最近はどんな日々を過ごしていますか?

「作曲漬けの毎日です。曲を作っている間は水や食べ物も口にしないくらい没頭しています。作曲していない時は、インターネットをしていますね(笑)。ツイッターで私のつぶやきに反応してくれた人のページに飛んで、写真やその人のことを調べたりします。私はこういう人に関心を持たれるのかって、分析するんですよ。そこから自分が感じたことを曲にすることもあります。ちょっとネットストーカーっぽいんですけどね(笑)」

――今後の目標は?

「チップチューンは日本では認知度が低いので、もっと世間にチップチューンミュージックの面白さや楽しさを広めていきたいです。それと同時に、自分の理想の音楽の形をもっと追及していきたいと思っています。以前は、ゲームボーイ1台だけで曲をつくるスタイルにこだわっていましたが、今は理想の音のためならそれに縛られなくてもいいじゃんと思うようになりました。これからはいろんな手法を試したりして、作曲の幅を広げていきたいです!」

ひと言ひと言を丁寧に考えながら、ご自身について語ってくれたTORIENAさん。彼女のその時々の想いがギュっと詰まったポップでどこか懐かしいチップチューンミュージックを、ぜひ一度体験してみてはいかがだろうか?

文:服部桃子(アート・サプライ)
撮影:有坂政晴

TORIENA(とりえな)

1993年生まれ。任天堂本社がある京都を拠点に、チップチューンミュージックの作曲活動を行う。GAMEBOY実機とDTMを使ったポップでハードな作曲を得意とし、暴れまくるスタイルが特徴。音楽以外では、ロゴデザインやCDジャケットなど、自らのアートワークをすべて自身でプロデュースしている。カプコン社やコナミ社に楽曲の提供も行う。好きな食べ物はリンゴ。