2015/12/21

紙の雑誌の未来はどうなる? デジタル雑誌の仕掛人に聞いた

「NEXT MAGAZINE」をご存知だろうか?

"出版社横断"で開催される「NEXT MAGAZINE」は、サイトにアクセスすれば登録もアプリのDLも不要で、15社78タイトル以上(予定)の雑誌が無料で読める期間限定のウェブサービスだ。たとえるなら、本屋の雑誌コーナーが数日間読み放題になるようなもので、いわばウェブの"雑誌フェス"。この「NEXT MAGAZINE」は過去3回開催されており、サイトの総アクセス数は5,252万ページビュー(PV)という驚異的な数字をたたき出している。そして第4回は、auスマートパスの日とコラボした先行公開からスタートし、12月22日〜1月3日まで開催される

近年、各種ウェブメディアに押されているという印象の雑誌メディア。しかし、長年培われてきた、"プロの編集"としての経験値や人脈、センスなど、数値化しづらい"資産"は計り知れない。

それらを生かし、出版社がウェブの大海に乗り出すとき、一体どんなビジネスモデルが生まれるのか? 開催を目前に控えた「NEXT MAGAZINE」、今回はキーマン2人に雑誌の今と未来を聞いた。

「NEXT MAGAZINE」はウェブで雑誌が無料で立ち読みできる

第4回「NEXT MAGAZINE」が目指すもの

まずお話を伺ったのは、「NEXT MAGAZINE」主幹会社であるハースト婦人画報社デジタルプロダクト部、製作部、そして『ハーパーズ バザー』編集部のトリプルマネージャーの松延秀夫さん。これまでに男性誌の副編集長や女性誌の編集長を務めた敏腕編集者であり、「NEXT MAGAZINE」の発案者であり、全体のまとめ約的存在だ。

「『NEXT MAGAZINE』は現段階では事業化されていませんから、有志が集まってこの1年間、プロジェクトを進めてきました。完全に手作りですよ(笑)」

「ご存じのように雑誌市場は縮小しています。20年前と比べると、約半減という印象です。街の書店は減り、コンビニの雑誌の棚も縮小しています。ですが、長年雑誌に親しみ、編集に携わってきた身として、"沈んでいく船"をぼんやり眺めているわけにはいきません。雑誌は面白いんだよ、という気づきの場を設けることが必要だと考えたんです」

雑誌そのものの認知を高めるため、デジタルに可能性を求めたのがスタートだった。「NEXT MAGAZINE」の狙いは以下の3点。

1. 出版社の責任において、簡単に雑誌が立ち読みできる場をつくる。
2. まだまだ十分に提供されていないデジタル雑誌の楽しみ方をスマホで体験してもらう。
3. デジタル・リアルともに書店を活性化する。

「第4回はレギュレーションとして、"1誌あたり少なくとも30ページ読めること""企画を途中で切り、『続きは本誌で』はナシ"と決めました」

実は前回までは「各誌50ページ以上」だった。それを30ページまで減らしたのは、1誌あたりに滞在する時間を減らすため。インターネットのスクリプション(月額制などの一定料金)サービスは、たとえば「5分空いたからこれを見よう」「次に降りる駅まで見よう」と、"スキマ時間"で細切れにコンテンツを選ぶユーザーが多い。そこで、今回は雑誌ごとのウェイトを軽くして、ユーザーがより多くの雑誌に接触できるようにしたのだ。また、第4回では「男性誌/女性誌」のカテゴリー分けを廃止。そこにはデジタルの大きな特徴であるターゲティング広告に異を唱える考えがあるという。

「ターゲティング広告ってつまらないじゃないですか(笑)。自分の守備範囲のジャンルしか勧めてこないから。いろいろな情報をその本のカラーで切り取ってみせるのが雑誌です。僕は学生時代に『メンズクラブ』を読んでいましたが、クルマの連載に夢中になった。同様に『婦人画報』の京都特集は30代の若い主婦の方を惹きつけるし、『和楽』の伊藤若冲の特集は、うちの高校生の息子が喜んで読んでいました。『NEXT MAGAZINE』ではカテゴリーを分けずに、予想外のコンテンツに接触する機会を提供したいんです。だって男性陣のみなさんも女性誌を読んでみたいとか思いません? 書店ではやりづらいでしょ(笑)」

選ぶことを楽しんで欲しい

「雑誌の魅力を知ってもらうには、見比べてもらうのがいちばんです」

そう語るのは、小学館デジタル事業局 コンテンツ営業室課長の小沢清人さん。『NEXT MAGAZINE』に草創期から参加しており、ウェブにおいてのマーケティングやコンサルティングを担当している人物だ。今回は、イベントに参加する出版社の立場からお話しいただいた。

現在、小学館では「紙の雑誌:デジタル雑誌」の売り上げは、おおよそ「95:5」。「"デジタル雑誌を読む"という行為を『NEXT MAGAZINE』でもっと一般的にしていきたいんです」

雑誌の面白さは、その雑誌の内容だけではなく、数多くの雑誌から自分の好きなものを選ぶ過程にもあると思うんです。書店だったら見比べて、いちばん好きなものを買えばいいんですが、デジタルの場合そういう場所がなくて。でも『NEXT MAGAZINE』なら、ウェブ上でデジタル雑誌を比較することができます。出版社の人間としては、読者が雑誌を比較できる場所があるのは凄くいいことだと思いますし、その中で出会いの楽しみを感じてもらいたい。それに、選んで吟味してもらうという作り手と読み手の真剣な関係性が、良い雑誌を生み出していくことにつながると思うんです」

「雑誌が売れない」と言われて久しいが、デジタル雑誌のユーザーはそれにも増して少ない。にもかかわらず、前述のように過去3回の「NEXT MAGAZINE」は合計で5,252万PVを達成。うち、サイトに訪れた人数を表すユニークユーザー数は47万4000というから、ユーザーがサイト内を回遊、つまりきちんと"ハマっている"ことが分かる。

情報だけ欲しいなら、ネット検索でこと足りるんです。でも実はそこに僕らの希望がある。情報はそのままだとあくまで情報でしかない。それらを並べたときにグッとくる写真がついていたり、切り口が違ったりするところに雑誌のエンターテインメント性があります。それは情報を検索する人にも楽しんでもらえるんじゃないかなと」

「プロの目で編集された良質なコンテンツ」、これこそ雑誌の強みなのだ。

「『NEXT MAGAZINE』の目的は"デジタル雑誌を買って欲しい"ではありません。それより、まずは雑誌に触れて読んでもらいたい。紙で持っておきたいと思うときには紙の雑誌を買って欲しいし、情報が欲しい人はデジタル雑誌を活用して欲しいんです。僕らとしては両方と付き合っていきたくて、消費者のライフスタイルの変化に合わせて選択肢を広くしていきたいんです」

第4回の「NEXT MAGAZINE」では「メンズクラブ」や「MEN'S Precious」の最新号もラインアップ

で、雑誌の未来はどうなる!?

2人のインタビューからも、出版社の雑誌業界に対する危機感は伝わってくる。それゆえの「NEXT MAGAZINE」だが、もっと先の未来はどうなるのか? 改めて松延さんに尋ねてみた。

「デジタル雑誌は新たなフェーズに入りました。紙の雑誌は100年かけて今の見せ方をつくってきましたが、一方デジタル雑誌もPDFベースの見せ方はそろそろ一段落した印象があります。今回、「NEXT MAGAZINE」がブックパス3周年と連携するのも、デジタル雑誌の未来を見据えているんですよね。僕たち雑誌の人間だけでも、通信会社だけでもできない、デジタルを使った新しい雑誌の時代を作っていくのに、ぜひ協力していければと」

その"未来"はこんな感じである。

「たとえば『東京のおいしいパン屋さんガイド』なら、Googleマップと連動して位置情報を連動させたり。ファッション誌の好きなコーディネートを"マイページ"としてフォルダに保存できたり。これらは技術的にはすでに可能なことです。また、これまで時として、試験的に紙の雑誌の入稿データを元に、手作業でスマホで読みやすいようにレイアウトを変えていたのを、人工知能でパッと自動的にできるとか。初期投資さえすれば、日本の技術なら低コストで実現ができるのではないでしょうか。こんなデジタルだからできる新しい雑誌を作れれば、新しい読者が生まれると思いませんか。しかも翻訳機能がついていて、各国版も簡単につくれる......ということになれば、日本の雑誌は世界的なコンテンツになりますよね」

出版界はいま、本気になって雑誌の復権に取り組んでいる。その第一歩が「NEXT MAGAZINE」なのだ。第4回は「auスマートパスの日」とのコラボ企画として、auスマートパス会員独占公開 & auブックパス(220誌以上の雑誌が読み放題)で使える1000円分のポイントを500名にプレゼント(12月22日10時~21時59分まで)。以降〜1月3日まで開催される。クリスマス&年末年始は、雑誌の面白さを再発見してみてはいかがだろう。

文:武田篤典

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