2015/10/27

国内でホームステイ? 『KitchHike(キッチハイク)』で夕食をごちそうになってきた

ちょっと時間が空いたとき、気軽に海外旅行に行けたらどんなに楽しいでしょう。とはいえ仕事や学校、そのほかさまざまな予定に左右されて、海外へ行くためのまとまった時間を確保するのはなかなか難しいのが現状です。

そんなもどかしさを解消できるサービスが、最近話題になっています。それは、海外など現地の人の家で、現地の食事ができる「KitchHike」。一体どんなサービスなのか、その実態を探るべく、サービスを提供する「KitchHike」さんに取材し、実際にサービスも体験してきました!

「もてなしたい」と「体験したい」を結ぶサービス

まず、KitchHikeがどのようにして生まれたのかと、そのサービスの内容を共同代表の浅利泰河さんに伺いました。

KitchHike共同代表の浅利泰河さん

浅利さん「学生時代から海外旅行が好きで、社会人になっても休暇のほとんどを旅に使っていました。で、思い返してみると、旅のなかでいちばん思い出に残るのって、現地の人たちと交流したことなんですよね。あるとき知り合った地元の人の家に招かれて、ご飯をごちそうしてもらったことがあったんです。ああ、日本から遠く離れて、まったく別の人の人生に自分はいま入り込んでるんだな、と。ガイドブックには載ることのない、まさにローカルな生活に溶け込んだ不思議な感覚でした。これが、KitchHikeのアイデアにつながる原体験でした。『ご飯を通して人と人がつながる』という自分の経験をもっと気軽に、安全にできたらなと思って。そこで、プラットフォームというかたちで、ユーザー同士が直接コミュニケーションを取ってサービスを受けることができる仕組みを作ったんです」

――具体的なサービスの内容は、どんなものなのでしょうか?

浅利さん「ユーザーには、COOKとHIKERの2者がいます。COOKは文字どおり、料理をふるまう人。KitchHikeに登録して、プロフィールと作りたい料理の概要、値段などを入力して、サイト上で公開します。HIKERは、それを見てCOOKの家に料理を食べに行く。食べたい料理や会ってみたいCOOKを見つけたら、希望の人数と日程をサイト上でリクエストしてCOOKの承認を得ることができれば、交渉成立です。カードで事前に料金を支払い、あとは当日、COOKの元に行くだけです」

「現在は国内外で合わせて約500人のCOOKが登録されていて、食べられるメニューの数は約600種類あります。KitchHikeのポイントは、『人をもてなす』という行為によって、COOKがきちんと収入を得られるところにもあります。たとえば、アフリカの小さな村に住むCOOKも、普段の食事で外国人旅行者をもてなすことで、直接的に外貨を得ることができます。今まで出会うこともなかったCOOKとHIKERが自分たちのサービスを使って出会い、HIKERは忘れられないような貴重な体験を、COOKは"もてなし"によって収入を得るわけです。もちろん、COOKにとってもお金の話だけではなく、その出会いは自分の日常に素敵な刺激をもたらすはず。『食卓を囲むことがお互いの幸せにつながっている』ということが、僕自身、このシステムを運営することに幸せを感じるポイントでもあります」

――料理で世界をつなげるサービスですね。運営していくなかで、当初考えていたシステムと違う使い方なども出てきているのでしょうか?

浅利さん「サービス開始当初は、まずは日本人が海外で現地の食事体験をできる場の提供をテーマにしたんです。ところが今では、日本人HIKERが日本に在住する外国人COOK の家へ訪問し、本場のご飯を食べてコミュニケーションを取ることで、ちょっとした海外旅行気分を味わうといったケースも多いようです。これは運営側の私たちも予想していなかった、面白い使い方だなと思っていて」

「こうして新しい使い方がユーザーから生まれていくことも、プラットフォームの魅力ではないでしょうか。いま日本には、急激に訪日外国人が増えていますから、彼らと日本人が食卓を囲む機会も今後どんどん増えてくるはず。もてなす側と遊びに行く側、両方のマインドが少しずつ変化していく。『旅先で、人の家でご飯を食べる』ことが普通の感覚になる未来は、世界中の人がネット上だけでなく、リアルにつながることのできる、『来るべき世界』だと思っています」

COOKとHIKER、それぞれがハッピーになれる仕組みがKitchHikeには用意されているんですね! 百聞は一見にしかず。そして、百見は一験にしかず。ということで、筆者もさっそくKitchHikeにHIKERとして登録。気になるCOOKのお宅へお邪魔して、プチ海外旅行を体験取材してきました!

インドネシアの定番家庭料理を堪能!

今回お邪魔させてもらったのは、東京在住でインドネシア出身のTariさんのお宅。事前にKitchHikeから、「Soto Ayam Lamongan(ソトアヤム ラモンガン風)」というインドネシア料理をオーダーしました。

そして当日。緊張しながらTariさんのお宅に入った瞬間、ガーリックの香ばしい香りが! その先で出迎えてくれたのは、エプロンを着けて料理に取り掛かっていたTariさんご本人でした。とっても明るく優しい人柄で、少々緊張していた筆者もすぐに打ち解けることができました。実は、TariさんはKitchHikeでCOOKとして料理するのは今回が初めてだそう。COOKになったきっかけを聞いてみると?

Tariさん「インドネシアのいろいろな料理を食べてほしかったんです。日本のレストランにもなくはないけど、現地の味とはちょっと違うんです。でもそれは、現地と同じ食材を使うと価格がすごく高くなるから、仕方のないこと。だから、普段私たちが使っている食材や調味料をきちんと使って、日本の人に本物のインドネシアの味を伝えたかったんです」

料理をしながら、食材や調理方法について、丁寧に説明してくれるTariさん。普段の生活では見たこともないような食材たちがどんどん登場します。手前の袋に入っているのは、インドネシアでよく使う赤タマネギ。奥にある緑色のものは、ライムの葉っぱだそう。このような珍しい食材は、上野のアメヤ横丁や、近隣のアジア食材が豊富なスーパーマーケットで手に入れるんだとか。

「料理ができるまでつまんでおいて」とTariさんが出してくれたのは、大豆とドライイーストを混ぜ、スライスして揚げたこちらのお料理。欧米などではベジタリアンがお肉の代わりにしているというだけあって、食べてみると本当にお肉のような味!

Tariさん、もともと料理を作るのが大好きだそうで、子供のころに、お母さんからインドネシア料理のレシピを教わったのだとか。日本に住んで10年以上にもなる現在も、頻繁に故郷に帰っているそう。今回作ってくれる料理も、Tariさんが普段から食べている庶民的な料理だと教えてくれました。

つい見入ってしまうほどの手際の良さ。料理の手伝いをさせてもらいながら、インドネシアのこと、日本に来て感じたことなど......話は尽きません。お互いの話も盛り上がってきたところで、本日の料理が完成です!

そして料理の完成! 幸せなひとときを「いただきまーす!」

あっさりしつつもスパイスが効いたスープが決め手の「Soto Ayam Lamongan(ソト アヤム ラモンガン風)」

みんなでテーブルを囲んで、Tariさんが作ってくれた「ソト アヤム ラモンガン風」に舌鼓。Sotoは、ターメリックなどのスパイスや、ガーリックが入ったスープのことで、Ayamは鶏肉のこと。そのほかにもフォーやもやしなど、たくさんの具材が入っていて体に優しいスープです。こちらは30ドル。Lamonganというのは地名で、インドネシアでも東ジャワ地方にある場所。「インドネシア料理」といっても、地域によって種類も味付けもまったく違うのだそう。いただいてみると、さっぱりしているのに、さまざまなスパイスや出汁のおかげでコクがあって、ペロリと完食してしまいました。

取材中、なにより強く感じたのは、Tariさんの惹き込まれるような人柄。笑顔を絶やさないTariさんとお話していると、自然と場が和んで話も弾みます。当日同行いただいた浅利さんによると、サービスが開始されてから今まで、ユーザー間のトラブルの報告はなんとゼロ。家に直接訪問するスタイルをとっているにもかかわらず、これはすごい! COOKとHIKERがいかに円滑にコミュニケーションできているかを証明しています。

TariさんにもKitchHikeの感想を聞いてみました。
Tariさん「普段もホームパーティーをよくやっているので、それに近い感じでした。こうやって料理を囲んでインドネシアのこともたくさんお話できて、楽しかったです。これからもKitchHikeを通してたくさんの人と出会えたら嬉しいです」

「料理」というひとつのツールを通して、COOKさんの国のお話をたくさん聞き、一緒に過ごしたあたたかい時間は、まさに「日本にいながら海外体験」そのもの、もしくはそれ以上かもしれません。インターネットを入り口として、リアルでこうしたつながりを生み出す仕組みを作ったKitchHike。今後は、旅行代理店と連携して日本に来る海外旅行者にKitchHikeのサービスを紹介し、日本の一般家庭で「ごはん体験」をしてもらったり、料理好きな人との接点が多いメディアや企業と一緒に新しい取り組みを広げるプロジェクトを進めていくとのこと。これはますます目が離せなくなりそうです。

年末年始などまとまった休暇にはもちろん、料理を通して、1日だけの海外旅行もできるはず。日常から抜け出して、本場の海外料理と文化を楽しみたい人は、一度HIKERデビューしてみてはいかがでしょうか。

文:山越栞