2015/06/19
IBMが見せるセンシングとクラウドの融合によるIoTビジネスの可能性
これまでユビキタスという言葉で表現されてきたモノのインターネット「IoT」は、ネット技術の進化と価格の低下で急速に普及が進んでいる。企業側でも一過性のバズワードで終わらせず、いかにビジネスへとつなげるかが模索されている様子だ。
米IDCの調査によると、世界のIoT市場は2013年の1.9兆ドルから2020年には7.1兆ドルに拡大する見通しで、年平均成長率は17.5%に達するとしている。さまざまなデバイスがIoTでつながり、ビジネスのマーケットがデータセンターの中から外へと広がって、参入する企業も増加中だ。では、具体的にどのようにしてビジネスにつながっているのか? 先日、大阪と東京で開催されたイベント「BigData EXPO」のセミナーでIBMが手掛ける先進事例が紹介された。
世界のIoTビジネス市場の予測は調査によってはさらに大きな数字が算出されている
日本IBMソフトウェア事業本部の鈴木徹氏は、「従来のビジネスでは生産物が現場でどう使われたかを知るのが難しかったが、IoTではリアルタイムで動きが把握でき、現場の気づきを生産の改善につなげられるようになった。新しいコミュニケーションの形態でもある」と説明。情報のやりとりもサーバーとクライアントの関係ではなく、双方向にネットワークできることで、新たなビジネスにもつながりやすくなるとしている。
これまでIBMでは、米航空宇宙メーカーのPratt & whitneyや北欧の電力会社Lyse Energi、カナダのウエアラブルベンチャーKiwi Wearablesらをクライアントに、さまざまなデバイスをネットワークにつなげ、快適な生活を創造するためにコストを下げながら省エネも行うというような、野心的で実験的なプロジェクトに取り組んできた。中でも意外に活用が進んでいるのがスポーツビジネス市場である。
IBMでは、テニスのグランドスラム大会に関する7年以上にもわたるデータを蓄積し、各選手が勝利するのに何が必要かを分析している。これまでは試合結果を配信するのに3〜5秒かかっていたが、技術の進化で1秒以内になり、配信規模も100万人に対応できるまでになっている。ここに、例えばボールやラケットの動きをIoTでつなげることで、さらに新しい楽しみ方が提供できるようになるという。
また、日本ではなじみが少ないスーパーボートという海の上のF1のようなスポーツでは、エンジンだけで80以上のデータをモニタリング。シビアな解析を行っているが、IBMではボートの軌跡をCGでリアルタイムに表示し、まるでドライバーになったような感覚で楽しめる「VIRTUAL EYE」システムをニュージーランドの会社らと開発した。さらにデータから勝率を予測できるモデルの開発も行い、さまざまなデータの可視化と合わせてレースを盛り上げる仕掛けを模索している。
IBMのIoTビジネスでの先進的な取り組みとして、スポーツビジネスでの活用事例が紹介された
IoTの魅力と可能性は、手に入れたデータをすぐさま開発に反映できるスピーディーなプロトタイピングで、ビジネス価値を柔軟に試行錯誤できる点にある。IBMのIoT開発ツール「Bluemix」はブラウザからクラウド上にあるツールにアクセスでき、GUIを使った直感的なシステムが構築できる。共同作業もしやすく、簡単なシステムなら5分程度で作れるという。さらに、一度作った組み合わせはセットとして保存でき、それらを基にさらに進化したシステムを開発できるとしている。解析には専用のデバイスも開発し、物理的なセンサーとクラウドシステムの連携をどう行っていくかにも着目している。
IoTをビジネスにする上で大切なのは、集めたデータに意味を見つけ、最適化し、使える形で提供すること。つまり、データを人が分かるカタチに編集しなければならない。現在はその部分を人が手掛けているが、BluemixはIBMが開発する人工知能システムWatsonとの連携させることで、ディープラーニング(深層学習)を使った高度な分析もできるようにしている。センシング技術の進化もあり、ネットにつながったモノたちが、自らビジネスのアイデアを見つけ出す日もそう遠くないのかもしれない。
文・撮影(本文中):野々下裕子