2014/03/14
一時アドレス
KDDI総研 藤原正弘
世の中にはしばらく使うものと、一時的にしか使わないものがある。身の回りのものを考えてみると、冷蔵庫やテレビは少なくとも数年は使い続けるが、使い捨てカイロはその名のとおり、一度使えばそれっきりである。
ところで、「私」に付けられた「名前」は、私を特定するためのラベルであり、私に呼び掛けるときに使うことができる。コミュニケーションの相手を特定するための「アドレス」は、名前にしても、住所にしても、メールアドレスにしても、「あまり変わらない」ものだからこそ、相手の特定に利用できる。
変わらなければそれでいいのかといえば、実はそうでもない。アドレスとして利用するには、おおむね他とは違うという識別性と、少なくとも相手には知られても構わないという公開性が必要だが、今回は、この「変わらなさ」、すなわち不変性に焦点を当ててみる。
名前や住所やメールアドレスがコロコロ変わる人に連絡を取るのが難しいことは、誰でも容易に想像できるが、実は、必ずしもこの条件に当てはまらないコミュニケーションのパターンもあるのだ。
どういうものかというと、「一時的にしか利用できないアドレスを使いたい」というニーズだ。
具体的な事例を挙げてみよう。
インターネットで懸賞に応募する。当たった連絡をもらうためにはメールアドレスを知らせざるを得ない。しかし、スパムメールが増える心配がある。結果が分かれば、もうこのメールアドレスは不要だ。
電話でも一時的に有効な電話番号のニーズがある。例えば、愛するペットが脱走してしまった。近所の電信柱に「見つけたら連絡してね」と張り紙をしたい。でも、いつまでも自分の電話番号を世間にさらしたくはない。
調べてみると、こうしたニーズに応えるサービスが既に存在する。メールアドレスについては、ちょっと探しただけでも10や20の「使い捨てメール」サービスが見つかる。アドレスが1時間とか、1日とか、一定時間有効なものや、アドレスは無くならないが、受信メールは30分で削除されるなど、スパム対策の機能が付いているものがある。
また、一時的に有効な電話番号が使えるサービスもある。北米で展開しているBurnerというサービスは、今使っている携帯電話で、一定期間だけ有効な別の電話番号を使って電話やショートメールが利用できる。料金は、2週間有効(上限20通話、または、60ショートメール)で2ドル程度だから、それほど高額でもない。
スパム対応やちょっとした投稿など、まだ限定されたニーズに応えるサービスだが、この「一時アドレス」のニーズは結構あり得るような気がする。電話やメールのサービスに、本来備わっていてもおかしくない機能かもしれない。