2014/01/10

あの世への身支度

KDDI総研 藤原正弘

バーチャルの世界にどっぷり浸かっていることを意識している人は少なくないかもしれないが、そうでなくとも、現代人は知らず知らずのうちに、コンピューターが作りだした世界に関わっている。

自分はアナログ人間だと思っている人でも、例えば「パスワード」という言葉を思い浮かべてみれば、確かにバーチャルの世界に関わっていることを認めざるを得まい。電子メールやソーシャルメディアのパスワードだけがパスワードではない。銀行口座やクレジットカードの暗証番号だって、銀行やクレジット会社のコンピューターネットワークで創り出した世界の自分だけの小部屋の鍵だ。しかし、この鍵は家や物置やロッカーの鍵と違って、カタチのない無形の鍵。自分しか「知らない」ことが鍵たる所以だ。

ネット上で作った口座などは、家族に知らせておかないと、唯一知っている自分が死んでしまったら、鍵のかかった小部屋に残されたものたちは、未来永劫日の目をみることはない。

もちろん、バーチャルかリアルかに関わらず、準備のいい人たちは、これらの情報を「遺言」として記録に残しておく。パスワードも書き残しておくことで、たとえバーチャルなものであっても、後に残った人たちが故人の資産を引き継ぐことができる。後世に残したいものが、バーチャルに多く含まれるようになれば、遺言を書くという行為が、バーチャル上で行われるようになることは自然の成り行きだ。

PassMyWill.comは、生前にパスワードと死後の配信先を登録しておくと、登録者が亡くなると、登録されているパスワードが配信先に配信されるというサービスだ。登録できるのは、メールやソーシャルメディアのパスワードだけとは限らない。キャッシュカードや金庫の暗証番号を登録することもできる。このオンライン遺言サービス、コンセプトは分かりやすいし、登録もいたって簡単。でも、どうやって「亡くなった」ことを判断するのだろうか?

PassMyWillのサイトでは、TwitterやFacebook、電子メールの活動をウォッチして、動きがなくなれば亡くなったと判断するということになっている。これらの情報からだけでは、死んでもいないのに、いきなり遺言を伝えるメールが送られる可能性もある。受け取った側は、それはびっくりするだろう。

ところで、肌身離さず身に着けているモバイル機器を健康管理に使うサービスが最近よく目につく。生体センサーで心拍数や体温を測定したり、ベッドの上に置いたスマートフォンの加速度センサーで睡眠状態を判定し、心地良いお目覚めタイムで起こしてくれたりするアプリもある。

PassMyWillも、こうしたセンサー情報をうまく活用すれば、〝間違い〟が少なくなると思うがどうだろうか?