2015/05/26

「吸いたいリズム」に合わせてニコチンを投与する、ウエアラブル禁煙

規制が厳しくなるとともに喫煙できる場所も少なくなり、いよいよ肩身の狭い思いをしている喫煙者。この時代の流れを受け、禁煙に挑戦している人も多いのではないだろうか。禁煙にはいろいろな方法があるが、ついに禁煙をサポートするウエアラブルデバイスが登場した。

「SmartStopNRT」は、禁煙治療法のひとつである「ニコチン置換療法」の自動化ウエアラブル・システム。2004年設立のChrono Therapeutics社(米マサチューセッツ州ウォルサム)が開発し、2016年のFDA(アメリカ食品医薬品局)承認を目指して準備中だ。

「ニコチン置換療法」とは、タバコに含まれるニコチンを喫煙以外の方法で摂取すること。パッチやガムなど皮膚から投与するのが一般的で、イライラや集中困難、不安、だるさ、眠気などのニコチン離脱症状を軽減させながら、喫煙習慣を改善する禁煙治療の手法である。

それを自動化した「SmartStopNRT」の使用法は、ニコチンをアルコールと水に溶かした液体のカートリッジを二の腕などに装着しておくだけ。皮膚を通じて投与される仕掛けで、10週間かけて徐々に量を減らすようプログラムが組まれている。デバイスに内蔵されているセンサーが、装着状態が悪いときや、カートリッジが空に近づいたらプッシュ通知してくれるほか、いつ、どの程度のニコチン摂取があったかを知らせてくれる。猛烈にタバコが吸いたくなる衝動が起こったことをアプリに知らせれば、投与の量を一時的に増やす機能もある。

たいていの人の場合、タバコを吸いたいという欲求は一定ではなく断続的に訪れるもの。ニコチンパッチのように、常時一定の量のニコチンを体内に入れ続けるよりは、タバコを吸いたいタイミングに合わせて投与量にメリハリをつける方が離脱症状を軽減し、かつ投与するニコチンの総量を減らすことができる。「SmartStopNRT」は、身体のニコチン摂取量をモニターし続けることで「身体がタバコを欲しがるリズム」を適切につかみ、パターンに合わせてニコチンを投与できるのだ(グラフ参照)。

SmartStop、ニコチンパッチ、ニコチンガム利用時の血中ニコチン濃度の変動(イメージ) 画像提供:Chrono Therapeutics社

ウエアラブルデバイスとして、健康増進のためのトラッカー(活動量計)が世界中のベンダーから発売されているが、アクティビティ・トラッカーの精度であれば、ウエアラブルでなくても、センサー搭載のスマホのアプリで十分に代替になるというペンシルバニア大の研究報告もある。だが、ウエアラブルだからこそ可能になる「四六時中装着して動き、体温、脈拍その他の数値の変化を常時測定することができる」というメリットは、メディカル分野において革新的な変化をもたらす可能性を秘めている。

機器を実用化するためにはFDAの承認を得て保険対象になる必要があるなど、越えるべきハードルはまだまだ高い。しかし、メディカル用途の製品は、ウエアラブルデバイスの本流となってくるのかもしれない。

文:信國謙司