2022/09/21
KDDIが開設したビジネスパーソン向けVOD講座「リベラルアーツプログラムfor Business」とは
今、社会人の学びへの意識は高まっている。こちらは平成27年度の世論調査における「学び直し」という項目の調査結果だ。
学校を卒業後、一度社会人になったあとに、大学/大学院/短大/専門学校などの学校において「学んだことがある、学んでみたい」という割合が49.4%。これは20歳以上の全世代を対象とした数字だが、とりわけ30〜50代の意識は高く、30代で63.7%、40代で63.1%、50代で58.2%の人々が「学んだことがある、学んでみたい」と考えているという結果が出ている。
その理由として「教養を深めるため」「今後の人生を有意義にするため」が群を抜いている。
こうした教養を深める学びのニーズの増加や、社会環境の変化による創造性の重要度の高まり、イノベーティブな人材が欧米と比べて不足していると言われている日本の現状を背景に、KDDIは2022年9月より、グループ会社であり英会話教室を展開する「AEON(イーオン)」とともに「リベラルアーツプログラムfor Business」をスタートさせた。
KDDIは5Gの開始など、進化を続ける通信を活用して生活のさまざまな領域の整備や変革に着手している。教育事業もその一環だ。
「リベラルアーツプログラムfor Business」は、ビジネスパーソン向けの映像講義(VOD)で、スマホ・PC・タブレットなどを使って好きな時間に動画で学習することができる。
このプログラムで学ぶことができるのは、人文科学・社会科学・自然科学・芸術など幅広い分野。リベラルアーツでは、多彩な領域を横断的に学んで幅広い知識を得ることで、広範な知識に裏打ちされた意志決定力や洞察力・複眼的視点を身に付けることを目指す。これらは人生をどう生きていくかを考える際の基礎となる一般教養だ。
「リベラルアーツ」の学びが未来を開くカギとなる
「リベラルアーツプログラムfor Business」は、KDDIとAEONに加え、プレジデント社、NHKエンタープライズ社が加わって制作・配信するプログラムだ。「知のフロントランナー」と称する多彩な講師陣による映像講義をオンデマンド方式で提供していく。
実際の講座をいくつか紹介しよう。
●「なぜビジネスパーソンにリベラルアーツが必要なのか」/山口 周氏
山口 周氏は独立研究者で、株式会社ライプニッツ代表。さまざまな企業の社外取締役や戦略・組織アドバイザーを務めている。「リベラルアーツプログラムfor Business」においては、事業全体のアドバイザーを務めている。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などベストセラーも多数
山口氏の講座のテーマは、まさに「リベラルアーツプログラムfor Business」の根幹。「VUCA(ブーカ)な時代である今こそ、リベラルアーツ的な知見が求められる」と話す。
「VUCA」とはVolatility=変動性・Uncertainty=不確実性・Complexity=複雑性・Ambiguity=曖昧性という概念の集合体で「変化が多く、不確実性の高い曖昧な時代」を指す。この時代にマネジメントやマーケティングといった従来のビジネスサイエンスだけを頼りに正解を求める行為のみが有効なのではなく、リベラルアーツを通してこれまで疑問を持たずに受け入れていた現状を新たな視点で見直して、そこに問題を見出す姿勢の重要性を説き、そのために幅広い教養を得る必要があるという山口氏の考えに触れることができる。
本プログラム全体のテーマ設定や人選もこうした見解に基づいたものとなっている。
●デザインから導く「仮説思考」の実践法/原 研哉氏
日本のグラフィックデザイン界の重鎮の一人・原 研哉氏が講師を務めるのは「デザインと論理」というカテゴリー。デザインの役割は幅広い教養と関係しており、デザインの本質とは物事の本質を見極めることだと語る。原氏は、世界に発信すべき日本の新たな価値をデザイナーの視点で見出すため、自らの足で日本各地を歩く「低空飛行」というプロジェクトを展開。そこで得た気づきなども交えて講座を行う。
●「21世紀“マルクス復活”の3つの視点」/斎藤 幸平氏
2018年度に、マルクス研究の世界最高峰「ドイッチャー記念賞」を日本人初、歴代最年少で受賞した斎藤 幸平氏が登場するのは「政治経済の構造分析」というカテゴリー。テクノロジーが発展し、世の中が便利になったにもかかわらず労働環境は悪化し、人々の欲望に歯止めがきかない、現代社会の生きづらさを解消するヒントが、19世紀の哲学者/経済学者、カール・マルクスの「資本論」から得られると語る。
2022年9月のサービス開始時点で、ほかにも「歴史の解剖学」「心と仕事」「社会学の新展開」「哲学と倫理の系譜学」「生命の社会経済論」「人と建築の物語」「文学が養う生きる力」など全10カテゴリー、63本の講座が公開され、10月以降も毎月新しい講座が公開される。
KDDIがリベラルアーツに携わる意義とは?
通信会社であるKDDIが、なぜ「リベラルアーツプログラムfor Business」を提供することになったのか。その経緯と、今後の展望などについて、KDDIでこのプログラムの事業責任者である金子大輔に聞いた。
「KDDIは2022年5月に『サテライトグロース戦略』という構想を打ち出しました。5G通信を軸として社会にどのような貢献をし、事業を拡大していけるかを示したものです。この構想のなかに『教育』という領域があるのですが、これ以前からKDDIはグループ会社であるAEONやキッザニアとともに教育に関わる取り組みを行ってきました。
「そんななかで、私は新たな教育事業に取り組むことになりました。スタートを切ったのはおおよそ2年前。コロナ禍のまっただ中で、まさに先行き不透明で将来予測が困難という『VUCA』な時代において、われわれが教育事業を提供することでなにを実現したいのか。そこで出てきた目標が、『一人ひとりが自分の可能性を発見し、自分らしい未来に向かってサバイブする社会の実現』というものでした。そして、混沌とした世の中をしなやかに生きるための教養としてリベラルアーツがすごく重要だと考えたのです」
そこで、以前に読んだ山口 周氏のリベラルアーツに関する著作を思い出したという。
「ビジネスの主体となるのは、“人”であり、人の営みや考えを理解しようというリベラルアーツの姿勢や、そのために海外のトップ大学でリベラルアーツが最重視されていることが書かれていました。たとえば、ハーバード大学には法学部や経済学部はないんです。学部は“教養”を幅広く学ぶ課程。専門的な知識を得るのは、リベラルアーツを修めた後の大学院、ロースクールやビジネススクールがそれにあたります。
これまでのビジネスパーソン向けのビジネススキルを教える講座ではなく、多様な教養の領域を学ぶことで複眼的に現状を把握し、新たな知見が得られるのではないかなと思い、日本ではまだまだ黎明期ではありますが、ビジネスパーソン向けに落とし込んだリベラルアーツを集中して学べる講座としました」
また、KDDIとともに「リベラルアーツプログラム for Business」を作り上げているプレジデント社、NHKエンタープライズ社にはそれぞれの特性を活かした役割があるという。
「KDDIは学ぶ領域のバランスをコントロールします。たとえば人文科学、社会科学、自然科学のバランスが偏っていないかを考えて、山口 周さんからアドバイスをいただいています。各界の取材を通し、雑誌・オンライン・書籍等の分野で定評と実績があるプレジデント社と、教養番組をはじめ多彩な映像コンテンツの制作で実績のあるNHKエンタープライズ社が、人選から構成・映像化を行いますが、台本の内容やテーマが僕らの考えるサービスコンセプトに合うかはとことん話し合います」
「リベラルアーツプログラム for Business」ならではの特長
世の中には、こうしたオンラインによる社会人向けのビデオ講座が数多く存在する。KDDIは、この分野では後発であるため、これまでにないさまざまな工夫を盛り込んだと、金子はいう。
「大きく4つの特徴があります。まず1つめは、 “『リベラルアーツプログラム for Business』の講座は、ビジネスパーソン向けに落としこんだオリジナルの講座である”ということ。リベラルアーツという概念自体は昔からあり、今回ご登場いただいている講師の方々も過去にそうしたテーマでお話しされているケースもあるのですが、今、この講座で受講者の方に何を知っていただきたいかをわれわれとともに綿密にディスカッションして制作しています。
2つめは、山口 周さんとプレジデント社という、ビジネスジャンルへの知見の深い方々のアドバイスにもとづいた人選。そこにNHKエンタープライズ社のプロデューサー・ディレクターなども加わり森羅万象さまざまなジャンルをリサーチ・議論してます。豊富な実績がある方はもちろん、若手の先進的な研究・提言をされている方もお呼びしています。
そして、3つめに高品質な映像体験。今回映像制作を担ったNHKエンタープライズ社には、数限りない教養番組をつくってこられた経験とスキルがあり、演出・構成のノウハウもお持ちです。わかりやすく、飽きずに面白く見られる映像は、従来のビジネスパーソン向けのオンライン講座にはないものだと自負しています。
そして4つめは、1講座を20分×3本の1時間で構成しているという点。映像的にも内容的にも社会人のみなさんの貴重な時間を費やしていただけるよう高密度につくっているのですが、通勤中やちょっとした隙間時間に見ていただけるように1本あたりをコンパクトに仕上げています」
通信テクノロジーを中心に、持続的な教育を提供
テーマ設定や人選、映像クオリティにこだわってスタートを切った「リベラルアーツプログラム for Business 」。
金子は今後の課題を「継続的に学んでもらうこと」だと語る。そして、それをKDDIのテクノロジーの力で実践していこうとしている。
「たとえば『リコメンド』は、ユーザーの属性や、視聴履歴をデータ解析して、『広げる』『深める』を実践してもらえるアルゴリズム。おすすめ機能は映像配信サービスにもありますが、従来の“この作品を見た人あなたは、こちらもお好きでしょう?”という、似たジャンルや同じ監督作品を勧めるようなやり方ではなく、ある講座のあとに意外な別の講座を見ることで、さらに効果的に気づきを拡張することができるようなおすすめ機能を提供する予定です。
その他にも、他人の学びの内容を見たり、会員同士がコミュニケーションできたりする『コミュニティ』も考えていますし、視聴中の気づきを残せるメモ機能や、双方向でやり取りできる講座のライブ配信、そしてコロナの状況次第ではありますが、リアルでの講座の開催も構想しています。
また、月額のご利用料金をビジネス新書でいうと2冊程度の価格にすることで、ユーザーのみなさまの継続的な学びをサポートできるようにいたしました」
このプログラムによって、日本のビジネスパーソンが世界に比肩できるようにアップデートしていく社会を目指していきたいと金子は話す。
「リベラルアーツプログラム for Business」では高品質な講座の映像を、地域格差なく手軽に体験することができ、誰もがビジネスパーソンとしてのアップデートを目指すことができる。
KDDIは教育分野をはじめ、企業におけるDX、金融やエンターテインメントにいたるまで、生活にまつわるさまざまな領域に、5G通信を核として変革をもたらしてゆく。通信テクノロジーを中心に、より便利でよりよい未来を迎えるために貢献する。
文:TIME&SPACE編集部
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