2022/06/27
月でもスマホがつかえる未来?メガネや時計がアンテナに?KDDI総合研究所が通信の研究技術を紹介
2020年3月に5Gがスタートしてはや2年。2030年の近未来ではどんな生活が待っているのだろうか。KDDI総合研究所は、2022年5月25日から27日に東京ビックサイトで開催された、ワイヤレス技術に関する最新の研究開発を紹介する「ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2022」において、そんな近未来に向けた、最新の研究成果を披露した。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブース](/s3assets/articles/0c8125036ef8f8082b9cca140f405b52.jpg)
2030年には、Beyond 5Gといわれる進化した5Gから次世代となる6Gが開始しているという。その通信の進化によって今後の生活がどう便利になっていくのか。今回の研究内容からその一部をうかがい知ることができるため、担当研究員から聞いた解説をもとにいくつか紹介していこう。
月面でのモバイル通信
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの月面でのモバイル通信実現イメージ](/s3assets/articles/ab98e68104db12b68e71c3460194a700.jpg)
まずは、地球を飛び出し、月面で通信するための研究だ。国際的な有人月探査計画である「アルテミス計画」に代表されるように、2035年頃には月面に拠点ができ、そこでの探査が活発になる可能性がある。そうすると月でもインターネットのように、複数の場所から接続可能な大量の通信ができる環境を構築する必要が出てくる。
その通信を誰がどう支えるか。KDDI総合研究所は未知の領域を切り開くDNAのもと、地球から月面までトータルの通信環境構築を目指すという。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの月面でのモバイル通信説明パネル](/s3assets/articles/d7271d938faf78ecfc1f393896baf80e.png)
取り組みとしては大きく2つ。地球から月までどうやって通信をつなげるかと、月面でどう通信エリアを構築するかの2点だ。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの月面でのモバイル通信説明パネル](/s3assets/articles/10d012294935151126116b628066ebee.png)
1つめの地球から月までどう通信をつなげるかについては、地球の基地局から地球の周回もしくは静止衛星を経由し、さらに月を周回する衛星を経由し、月面の基地局まで通信をつなげることを想定している。この実現には地球も月もそれぞれ自転しているため、その軌道をどう策定するかや、そもそもどうやって通信をつなげるか、例えば無線や光といった物理媒体や機材の配置方法など課題は多い。
2つめの月面でどう通信エリアを構築するかについては、月の地表を覆う金属成分を含む砂「レゴリス」を要因とする電波の反射などの発生や、起伏の激しい地形といった、電波の飛び方ひとつとっても、地球上と異なる環境を考慮した検討を行う必要がある。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの月の地表を覆う金属成分を含む砂「レゴリス」模造品](/s3assets/articles/b286c90249d4c3e559aebdbd301a1192.jpg)
さらに、昼と夜で110℃から−170℃まで変化する月の寒暖差に耐えうる材料の選定、宇宙に飛び交う放射線の装置への影響、基地局やアンテナをどのように輸送し設置するのかといった、地球上での常識では推し量れない課題がたくさんあるが、KDDI総合研究所は通信に関するプロとしてひとつひとつクリアし、実現していく構えだ。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの研究員](/s3assets/articles/b5980f9fbcd4d163a48927e0eee57b0e.jpg)
メガネや時計など身につけるものがアンテナになる「マルチビームアンテナ」
ここからは、電波を届けやすくするための研究を紹介していこう。
Beyond 5G/ 6G時代には、5Gよりさらに高速通信となり、大容量のデータも短時間で通信できるようになるが、6Gで利用するテラヘルツ帯の電波は、現在の5Gで利用しているミリ波よりさらに高い周波数帯となり、高速大容量の通信が可能なぶん、直進性が高く、遠くまで届きにくい性質をしている。
![周波数帯による電波の飛び方](/s3assets/articles/d7f0fec71e9dbd8689aaa78f4657c6c1.png)
そのため、テラヘルツ帯での通信には性能の高いアンテナが必要となるが、今のスマートフォンのサイズと電力では搭載できるアンテナに制限がある。その問題を解決すべく、KDDI総合研究所と名古屋工業大学が開発したのが、このテラヘルツ帯で電波の放射方向を変更でき高利得な「マルチビームレンズアンテナ」と、小型な「平面型マルチビームアンテナ」だ。
![KDDI総合研究所と名古屋工業大学が開発したマルチビームレンズアンテナと平面型マルチビームアンテナ](/s3assets/articles/be2baa3fc9cbb1434e6d14f8a6d14d65.jpg)
スマートフォンに搭載した「マルチビームアンテナ」から、メガネや時計など周辺の身につけるものに搭載した「平面型マルチビームアンテナ」にビームを向け、これらが中継して基地局と通信することで、周辺のアンテナを束ねて能力を高めた「仮想的なひとつの端末」とし、高速大容量通信の実現を目指す。
![KDDI総合研究所と名古屋工業大学が開発したマルチビームレンズアンテナの活用イメージ画像](/s3assets/articles/b21eb3423f166c1798d696fd566f21ed.png)
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの研究員](/s3assets/articles/ef125959048cee08bbb88ce271894826.jpg)
電波を反射させて圏外をなくす「液晶メタサーフェス反射板」
次は、KDDI総合研究所と株式会社ジャパンディスプレイが開発した「液晶メタサーフェス反射板」だ。この反射板は、電圧を加えると液晶分子の方向が変わるという液晶技術を応用したもので、反射する電波の向きを任意の方向に変えることができる。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの液晶メタサーフェス反射板のイメージ画像](/s3assets/articles/aee3929447ce633c7b97a7664953b520.jpg)
高周波数帯である5Gミリ波の電波は直進性が高く障害物に遮られやすいが、この反射板の活用により、基地局からの電波を自由な角度に反射させることで、電波が届きにくいエリアにアプローチできるようになる。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの液晶メタサーフェス反射板の活用イメージ画像](/s3assets/articles/17bc3cee0c419a652c7370061a4b82d7.png)
角度もすぐに変更できるので、朝は通勤の多い道に、昼は人の集まる公園に向けるなど、柔軟な対応が可能だ。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの研究員](/s3assets/articles/22d47b0ba58bac35b8cb563c590ca0cf.jpg)
エリアの狭間の概念をなくす「ユーザセントリックRAN」
4つめに紹介するのは、基地局同士を連携させることで、エリアの境界線をなくし、利用する人がどこにいても安定した通信を実現する「ユーザセントリックRAN」という技術だ。
現在の携帯電話の通信は、セルと呼ばれる小さなエリアに分割し、それぞれに基地局を設置して、利用者の移動にあわせて携帯電話とつなぐ基地局を切り替えていくというセル方式を取っているが、通信が安定しない原因の多くは、このセル(通信エリア)の境目における無線信号の減衰や基地局間同士の干渉にある。このセルという概念をなくし、ユーザーを中心(セントリック)にした、セル境界線での通信品質劣化をなくすセルフリーな通信エリアを実現するという技術が「ユーザセントリックRAN」だ。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの「ユーザセントリックRAN」説明パネル](/s3assets/articles/221f30834a94dbdc5786cd1385528b1f.png)
具体的には、基地局同士を連携させることで、エリア内に分散された複数のアンテナがユーザーをフォローし、いつでもどこでも高品質な通信環境を維持する「Cell-Free massive MIMO技術」、同技術の無線信号処理量を抑制する「AP Cluster化技術」や局舎間で発生する干渉の低減を実現する「CPU関連技術」といったRANの制御技術、少ない光ファイバーで無線信号を効率よく基地局まで配信する「光ファイバー無線技術」を活用し、ユーザーごとに最適化された無線アクセス網を実現する。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの「ユーザセントリックRAN」説明パネル](/s3assets/articles/88ed9b9472b9913b5fa45204ffecdedb.png)
今や世界中でこの技術の研究開発が進んでおり、2030年代の6G時代に向けて実証実験が活発化している。実現することで、自分がスマホをつかうときのエリアの安定化だけなく、セル間移動を伴う自動運転やドローン通信の安定化、大量の通信を必要とするメタバースといった仮想空間の実現も図ることができる。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの研究員](/s3assets/articles/54fa816b805a728f33c4f7bc105bf011.jpg)
リアルタイム遠隔制御に向けた5G無線中継方式
また、2030年より少し前の2020年代後半では、5Gの活用が進み、4Kや8Kなどの高精細な動画伝送を用いた遠隔医療や遠隔操作が普及し、データのダウンロードだけでなく、アップロードも今までより低遅延かつ大容量な通信を求められることが予測されている。
そんな時代に対応すべく、現在利用されている中継局の良い部分である「複数のデータを一度に中継する技術」と「低遅延に中継する技術」を併せ持つ中継方式を開発。利用者と基地局の間にドローンなどでその中継局を設け、低遅延で大容量な通信をサポートする。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースのリアルタイム遠隔制御に向けた5G無線中継方式説明パネル](/s3assets/articles/d3ec6d5c38b6a61931ce300f9351ccd3.png)
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの研究員](/s3assets/articles/350db5b7c4cc8a4c37b2d919d6c498c7.jpg)
3Dデータを軽量化する「点群圧縮技術PCC」
最後に紹介するのは、メタバースなどでの活用が期待される「点群圧縮技術PCC」だ。現在は3Dスキャンする場合、表面すべてを点で表現しているが、平面に展開した画像に置き換えることでデータ量を1/40まで圧縮。拡大すると点群ではあるが、見た目上の品質はできるだけ落とさず、データを軽くすることができる。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの「点群圧縮技術PCC」](/s3assets/articles/724866e887af23b3c42ac1ac44f10ccc.png)
WTP 2022では、1Gpbs(1,000Mbps)の動画を1/50となる19Mbpsにまで圧縮した3D映像のサンプルも展示。今後メタバース上で自分のアバターを手軽に出現させる日も遠くなさそうだ。
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの「点群圧縮技術PCC」活用イメージ図](/s3assets/articles/1a39bcfdee5d6ff5331e1729b5fb0900.jpg)
![WTP2022におけるKDDI総合研究所ブースの研究員](/s3assets/articles/4878e2531e610d94cd0b452dc0a9c2d6.jpg)
ほかにも展示ブースでは、次世代通信を見据えた超高速共通暗号鍵方式「Rocca」や、KDDI総合研究所の描く未来などを展示していた。
KDDI総合研究所は、これからも次世代に向け現在の課題となっていることを研究し、さらに便利で豊かな生活を実現できるよう、日々通信を支える活動を行っている。
文:TIME&SPACE編集部
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