2022/03/23

MaaSを医療に活用 高齢者の通院負担軽減を目指すKDDIとつくば市の取り組み

ITを活用してあらゆる移動をシームレスにつなげる次世代交通サービス「MaaS(マース/Mobility as a Service)」。世界をあげて持続可能な開発目標であるSDGsに取り組むなか、「持続可能な都市」における交通手段の新しいかたちとして世界中で注目を集めている。

そんなMaaSを医療の分野に活用する取り組みが茨城県つくば市で進められている。つくば市、筑波大学、KDDIをはじめとする75機関で構成される「つくばスマートシティ協議会」は、2022年1月17日から2月14日まで、病院への通院や受診における交通の利便性向上を目指す「つくば医療MaaS」の実証実験を行った。

筑波大学附属病院

MaaSを医療に活用することの狙いはなにか。それによってどのような課題の解決を図り、どのような社会の実現を目指しているのか。つくば市の取り組みを紹介しよう。

なお、MaaSとは、バス、電車、タクシーからライドシェア、シェアサイクルといった複数の公共交通機関を、ITを用いてシームレスに結びつけ、人々が効率よく、かつ便利に使えるようにするシステムのこと。かねてより地方創生活動の一環としてICTを活用した地域課題の解決に取り組んできたKDDIは、MaaSによって交通機関の利便性向上を図り、地域が抱える課題の解決につなげる取り組みを各地で進めてきた。

先端技術を活用し、病院への通院負担を軽減

今回の「つくば医療MaaS」の実証実験では、病院への通院にタクシーを利用したい住民に向けて、市内6つの医療機関との行き帰りに利用できる相乗り型のオンデマンドタクシーを運行。

つくば医療MaaSのアプリ画面

予約にはKDDI総合研究所が開発・提供を行ったスマホのアプリを使い、希望する「出発地」「目的地」「日時」「人数」を選択。

つくば医療MaaSのアプリ画面

予約が完了すると、希望条件に応じてタクシーが送迎してくれる。

つくば医療MaaSのアプリ画面
つくば医療MaaSの実証実験の流れ つくば医療MaaSの実証実験の流れ

出発地から目的地までの経路はAIが自動で計算。相乗りが発生して複数の乗降場所を経由する場合でも、もっとも効率的な経路をAIが判定してくれる。

つくば医療MaaSのタクシー車内
つくば医療MaaSのタクシー AIを活用した相乗り型のオンデマンドタクシー

この相乗り型のオンデマンドタクシーは、自分でクルマを運転できない人などのために、移動手段の確保や通院負担の軽減を目指したもの。行き先を病院に限定した相乗り型のため、新たな公共交通としての役割が期待される。

また、今回の実証実験では、自動運転システムを搭載したパーソナルモビリティ(一人用の乗り物)による病院内の自動走行や、顔認証技術の活用による事前受付システムの実証も行われ、通院から受診までの一連の動線をシームレスにつなぐことの実現性が検証された。

つくば医療MaaSの顔認証 タクシー車内での顔認証による事前受付システム
つくば医療MaaSの自動運転パーソナルモビリティ 病院の入り口から診察室まで患者を搬送する自動運転パーソナルモビリティ

誰もが安心・安全・快適に移動できるまちへ

2019年、国土交通省の「スマートシティモデル事業」に選定されたつくば市は、先端技術やビッグデータを活用し、行政サービスや交通、医療・介護、インフラなどさまざまな分野における課題解決に取り組んでいる。同事業に携わるつくば市の森 祐介さんは、今回の「つくば医療MaaS」の実証実験の狙いと今後の展望を次のように語る。

つくば市 政策イノベーション部長 森 祐介さん つくば市 政策イノベーション部長 森 祐介さん

「つくば市は交通における自動車への依存度が高く、高齢化にともなう交通弱者の増加が課題となっています。移動が困難な人にとっては、病院へ行くのもひと苦労。本来受けるべき医療サービスが受けられなくなる可能性もあります。これは高齢者だけの問題ではなく、障がいのある方々にも当てはまることです。

そこでつくば市は、『高齢者や障がい者など誰もが安心・安全・快適に移動できるまち』の実現に向けて、さまざまな取り組みを進めています。医療にMaaSを活用した今回の実証実験もその一環です。移動やモビリティのサービスと、病院などで提供される医療のサービスを一元化し、住民の方々に提供していきます。今後もKDDIさんをはじめとする企業の協力を得ながら取り組みを推進し、将来的には、配車から病院の診察予約、会計、医薬品の配達まで、ひとつのアプリで利用できる一気通貫のサービスの提供を目指しています」(つくば市 政策イノベーション部長 森 祐介さん)

医療の分野にMaaSを活用することにより、患者や医療現場にどのようなメリットがもたらされるのか。筑波大学附属病院の西山博之さんと筑波大学の鈴木健嗣さんは次のように語る。

筑波大学附属病院 副院長 西山博之さん(左)、筑波大学 システム情報系 教授 鈴木健嗣さん(右) 筑波大学附属病院 副院長 西山博之さん(左)、筑波大学 システム情報系 教授 鈴木健嗣さん(右)

「患者さんにとって、自宅から病院の診察室にたどり着くまでにさまざまな困難があります。でも、患者さんが本当に心配なのはご自身の病気のことであり、病院への移動にまつわる不安や悩み事はできるだけ少ないほうがいい。MaaSを医療に活用するメリットは、まさにそこです。今後もこうした実証実験を重ねながら、病院のあるべき姿を模索していきたいと思います」(筑波大学附属病院 副院長 西山博之さん)

「これまでも自宅から病院までの移動や、病院内の自動車いすによる移動など、単独での実証実験は行ってきましたが、それらを組み合わせて一連の流れで実施するのは今回が初めてです。こうした取り組みは、行政だけでも大学だけでもできません。KDDIさんをはじめとする企業の力をお借りしながら、産官学が連携して進めていく必要があります。今回の実証実験を通して見えてきた課題を洗い出したうえで、誰もが安心・安全・快適に移動できるまちの実現に向けて、引き続き取り組みを進めていきたいと思います」(筑波大学 システム情報系教授 鈴木健嗣さん)

地域の課題解決にMaaSを活用

つくば市が目指す「高齢者や障がい者など誰もが安心・安全・快適に移動できるまち」の実現に向けて実施された「つくば医療MaaS」の実証実験。つくば市のスマートシティモデル事業に参画するKDDIの技術はどのように活用されているのか。KDDI総合研究所の大岸智彦と幡 容子に聞いた。

KDDI総合研究所 大岸智彦(左)、幡 容子(右) KDDI総合研究所 大岸智彦(左)、幡 容子(右)

「KDDI総合研究所ではMaaSを活用して地域課題の解決を図るさまざまな取り組みを進めています。たとえば、2021年に愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンで行った実証実験では、自動運転車のオンデマンド型住民送迎サービスにおける運行管理システムを開発しました。乗車予約の管理や経路設定、相乗り調整などを自動化することで運行の効率化を図ったものです。

愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンで行った自動運転車の実証実験 愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンで行った自動運転車の実証実験

その際の乗車予約は電話でオペレーターが対応していましたが、今回のつくば市との取り組みではそこからさらに発展させ、オンデマンドタクシーのアプリ開発や運用を行いました。アプリ開発において特に意識したのは、誰もが使いやすいこと。高齢者が多く利用されることを想定して文字表示は大きめに設定するなど、シンプルでわかりやすい操作を心がけました」(KDDI総合研究所 大岸智彦)

「つくば市との取り組みにおいて、KDDI総合研究所ではオンデマンドタクシーのアプリ開発や運用のほか、auのスマホの位置情報データに基づく人口動態分析を行っています。KDDIが蓄積してきたビッグデータを活用することで、市内のどこからどこへ、どれくらいの人が移動しているのかを把握し、AIを活用したオンデマンドタクシーを含む将来の交通施策策定を支援することが狙いです。人の流れだけでなく、バス等の運行情報を活用し、市内の交通実態を明らかにすることで、つくば市の今後の交通施策に役立てていければと考えています」(KDDI総合研究所 幡 容子)

「誰もが安心・安全・快適に移動できるまちの実現のために、先端技術やビッグデータを持つKDDIさんが果たす役割は大きい」と、つくば市の森さんは期待を寄せる。次世代交通サービスMaaSは、旅行や観光における利便性向上だけでなく、医療や介護などさまざまな分野の課題解決にも応用できる。KDDIはこれからも、地域の課題解決や住みやすいまちづくりのために先端技術を活用し、さまざまなパートナーとともに安心で安全な暮らしをつないでいく。

文:TIME&SPACE編集部
撮影:正慶真弓

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。