2021/11/22

スマホひとつで観光地を周遊!徳島県鳴門市の課題解決に向けたKDDIのMaaSの取り組み

四国の東端に位置する徳島県鳴門市。その北東端の鳴門公園周辺エリアは、鳴門海峡の渦潮(うずしお)や、国内最大級の常設展示スペースを有する大塚国際美術館など、豊富な観光資源を擁する県内屈指の人気観光地だ。四国の玄関口としても知られ、神戸から淡路島を経て大鳴門橋、鳴門公園に続くルートは本州と四国を結ぶ3つのルートのうち最多の交通量を誇る。

大鳴門橋 鳴門市と淡路島を結ぶ大鳴門橋
鳴門海峡の渦潮 鳴門海峡の渦潮

そんな鳴門公園周辺エリアの観光業は長年にわたって課題を抱えていた。それは「交通機関の利便性の低さ」と、それにともなう「観光消費の低迷」だ。

同エリアの交通機関や観光施設はクレジットカードや交通系ICの支払いへの対応が統一されておらず、訪れた観光客が戸惑ってしまうケースが少なくなかった。また、特定のスポットには人が集まるものの、交通機関の利便性が低いことで周遊が図られず、滞在時間も短くなってしまっていた。その結果、エリア全体の観光消費は低迷が続いていたのだ。

鳴門市におけるKDDIの取り組み

そんななか、かねてより地方創生活動の一環としてICTを活用した地域課題解決の取り組みを進めてきたKDDIは、JR四国や徳島バスをはじめとする交通事業者や地元企業などと共同で、鳴門公園周辺エリアにおける観光型MaaS「くるくるなるとデジタル周遊チケット」の実証実験をスタート。期間は2021年10月15日から2022年1月31日までとなる。

「MaaS(マース)」とは「Mobility as a Service」の頭文字を取ったもので、ITを活用してあらゆる移動をシームレスにつなげるサービスのこと。世界をあげて持続可能な開発目標であるSDGsに取り組むなか、交通手段の新しいかたちとして世界中で注目を集めている。

くるくるなるとデジタル周遊チケット

「くるくるなるとデジタル周遊チケット」は、スマホひとつでシームレスに周遊できるキャッシュレスシステムを導入。公共交通や観光施設の利便性を向上させ、鳴門公園周辺エリアが抱える課題を解決することが狙いだ。

スマホひとつでシームレスに周遊

「くるくるなるとデジタル周遊チケット」では次の3つのサービスが利用できる。

■JR・徳島バス フリーパス

くるくるなるとデジタル周遊チケットのJR・徳島バス フリーパス

「JR・徳島バス フリーパス」は、JR四国線「徳島駅〜鳴門駅」間の普通列車、徳島バス・徳島市バスの路線バス全線が乗り放題になるデジタルチケット。料金は大人2,000円、小児1,000円。有効期限は利用開始より2日間。

■なると観光チケット

くるくるなるとデジタル周遊チケットのなると観光チケット

「なると観光チケット」は、「大鳴門橋遊歩道 渦の道」「エスカヒル鳴門」「大塚国際美術館」など鳴門市内の11の観光施設で利用できるデジタルチケット。

エスカヒル鳴門にくるくるなるとデジタル周遊チケットで入場

こちらはフリーパスではなく、施設ごとにデジタルチケットを購入し、施設の入場口に設置されたプレートにスマホをタッチすれば入場が可能。チケット売り場が混雑しているときでも列に並ばずに済む。

■バス スマホタッチ支払い

くるくるなるとデジタル周遊チケットのバス スマホタッチ支払い

「バス スマホタッチ支払い」は、徳島バスの「鳴門郵便局〜鳴門公園」間で使えるデジタルチケット。乗車口や降車口に設置されたプレートにスマホをタッチするだけでバスに乗り降りすることができる。

くるくるなるとデジタル周遊チケットのバス スマホタッチ支払い

いずれのサービスもアプリのダウンロードは不要。初回に決済方法を設定するだけで利用でき、アカウント登録も不要だ。

国内初の位置情報による運賃計算

「くるくるなるとデジタル周遊チケット」は利用者にとってどのようなメリットがあるのか。「バス スマホタッチ支払い」を実際に体験してみた。

鳴門公園

まずはスマホで「くるくるなるとデジタル周遊チケット」のサイトにアクセスし、「バス スマホタッチ支払い」をタップして支払い方法を選択。決済方法を事前に登録しておけば運賃の現金精算は不要となる。

対応スマホは、Androidの場合はAndroid 8以降の機種、iPhoneの場合はiOS 14以降搭載のiPhone XS以降の機種。

徳島バス
くるくるなるとデジタル周遊チケットで徳島バスに乗車

乗車時は、乗車口に設置されたプレートにスマホをタッチ。画面上にチケットが表示される。

くるくるなるとデジタル周遊チケットで徳島バスに乗車

整理券は受け取らず、そのままバスに乗り込む。

くるくるなるとデジタル周遊チケットで徳島バスに乗車

降車時は、運賃箱の上に設置されたプレートにスマホをタッチ。

くるくるなるとデジタル周遊チケットで徳島バスに乗車

画面上に乗車区間と運賃が表示され、キャッシュレスで決済が完了。画面を乗務員に提示して降車する。

地方の路線バスはいまも運賃を現金で支払う整理券方式が主流だ。区間運賃は整理券をもとに自分で確認する必要があるうえ、小銭を持ち合わせていない場合は車内前方の両替機で両替しなければならず、利用者にとって手間がかかっていた。しかし、この「バス スマホタッチ支払い」は運賃をキャッシュレスで決済でき、区間運賃の確認も自動で行われるため、便利でスムーズ。整理券方式に馴染みがない外国人観光客にもやさしいシステムといえるだろう。

なお、この「バス スマホタッチ支払い」には、スマホに搭載されたNFC(近距離無線通信)の技術と、KDDIが新たに開発した高精度位置情報による運賃計算システムが利用されている。乗降した場所をGNSS(全球測位衛星システム)で測定し、その位置情報をもとに区間運賃を自動で計算するというものだ。位置情報による運賃計算システムは日本国内で初めての試みとなる。

位置情報による運賃計算システム

地方経済の持続的な発展のために

鳴門市の鳴門公園周辺エリアが抱える課題解決を目指した今回の取り組み。地元の方々はどのように捉えているのだろうか。「エスカヒル鳴門」などを運営する鳴門観光興業の森下麻実子さんと、地元経済の調査研究活動に携わる徳島経済研究所の青木伸太郎さんに聞いた。

鳴門観光興業の森下麻実子さんと徳島経済研究所の青木伸太郎さん 左/鳴門観光興業 常務取締役 森下麻実子さん 右/徳島経済研究所 主任研究員 青木伸太郎さん

「鳴門公園周辺エリアの観光に関わる交通機関や施設において、キャッシュレス化の遅れをはじめとする利便性の低さが課題であることは以前からわかっていたものの、コスト面の負担が大きいことから、なかなか改善に踏み切れませんでした。そんななか、今回KDDIさんをはじめとするさまざまな事業者が連携し、MaaSの実証実験に至ったのはとても画期的なこと。これを一過性のもので終わらせることなく、今回の取り組みで得られた成果や知見を今後に活かしていきたいと思います」(鳴門観光興業 常務取締役 森下麻実子さん)

「鳴門市に限ったことではないですが、日本の都心部以外はクルマ社会。ひとり1台が当たり前です。でも、世界をあげてSDGsに取り組むなか、そんな常識も変わっていくのではないでしょうか。地方経済の持続的な発展のためには、誰もが気軽に利用できる交通機関の維持整備が欠かせません。今回のMaaSの取り組みが、観光客だけでなく地元住民の足としても受け入れられ、地域の活性化につながることを期待しています」(徳島経済研究所 主任研究員 青木伸太郎さん)

技術を活用して地域の課題を解決

今回の実証実験の旗振り役であるKDDIは、この取り組みを通じてなにを目指しているのか。そもそも、通信事業者であるKDDIがなぜ地方の課題解決に取り組むのだろうか。KDDI 地方創生推進部の小泉安史と山田啓太に聞いた。

KDDI 地方創生推進部の小泉安史と山田啓太 左/KDDI 地方創生推進部 小泉安史 右/同・山田啓太

「私たちKDDIは、地域のみなさんの声に耳を傾けながら、その地域が抱える課題を解決する取り組みを進めています。鳴門公園周辺エリアは徳島県を代表する人気観光地ですが、一方で、渦潮を見て大塚国際美術館を訪れたらそれでおしまいという画一的な観光パターンが多く、このエリアをいかに周遊してもらうかが課題となっていました。また、キャッシュレス化の遅れも課題となっていましたが、交通系ICカードに対応するには初期導入や維持に多額の費用がかかるため、地元の事業者の方々にとってハードルが高いのが現実です。

そこで今回の取り組みでは、地元の事業者の方々と議論を重ねながら、導入コストが低く維持管理もしやすいサステナブルなシステムを模索しました。大切なのは、利用者の方々にどう受け入れられるか。今回のMaaSの実証実験は主に観光客の方々を対象にしたものですが、地元住民の方々にもぜひ気軽に利用していただきたいです。そして実際に利用された方々の意見を取り入れながら、今後の取り組みにつなげていきたいと思います」(KDDI 地方創生推進部 小泉安史)

「2020年10月から12月にかけて、愛媛県南予地域でMaaSの実証実験を行ったのですが、その際はフリーパスの導入によって移動のシームレス化やキャッシュレス化を進めました。そして、今回の鳴門公園周辺エリアにおける取り組みでは、そこからさらに推し進め、位置情報による運賃計算システムの導入によって『バス スマホタッチ支払い』を実現し、フリーパスとは違ったかたちでの地方交通のキャッシュレス化によるDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指しました。

位置情報による運賃計算システムはまったく新しいチャレンジだったため、技術的に難しい部分もありましたが、検証を重ねたうえで実現に至りました。今後もこうした事例を積み重ねながら、私たちKDDIの技術を活用することで地域の課題解決を図り、社会に貢献していきたいと考えています」(KDDI 地方創生推進部 山田啓太)

徳島経済研究所の青木伸太郎さん、鳴門観光興業の森下麻実子さん、KDDI 地方創生推進部の小泉安史、山田啓太

交通機関の利便性の低さや利用者の減少は、鳴門市の鳴門公園周辺エリアに限らず全国の地方が抱える共通の課題でもある。今後もKDDIは地域が抱える課題解決のために通信のチカラを活用し、社会の持続的な発展を目指して継続的に取り組みを進めていく。

文:TIME&SPACE編集部
撮影:上田成昭

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。