2022/03/01

「音のVR」で届ける未来への一歩 「猪苗代湖ズ」の渡辺俊美さんと地元学生が共演

2022年3月1日、KDDIは福島県出身のアーティスト・渡辺俊美さんと、福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校/原町高校のみなさんとともに福島県で収録した「音のVR」コンテンツを配信した。演奏曲は渡辺さんもメンバーの一員である猪苗代湖ズの「I love you & I need you ふくしま」。

音のVRで演奏する渡辺俊美さんと学生たち

東日本大震災から11年。「震災を忘れない・風化させない」を合い言葉に、KDDI東北総支社が中心となって進めてきた取り組みだ。

この取り組みには、福島の青空をバックに収録されたこの楽曲をお届けすることで、福島にゆかりのある方々が郷里に思いを寄せてほしい、まだ福島を知らない人たちに「行ってみたい」「知りたい」と興味を持ってほしいという願いが込められている。

また、今回の「音のVR」の収録に参加いただいた学生のみなさんにとっては、新型コロナウイルス感染症の影響で、部活動の成果を発表する場が縮小されているなかで、思い切り演奏を楽しむことができ、自分たちの音楽を多くの人に聴いてもらえる機会にもなる。そうしたさまざまな思いを実現するために、この取り組みは行われた。

演奏するふたば未来学園と原町高校の生徒たち

そして参加者が、全国に発信したいと考えたのが今回の演奏曲「I love you & I need you ふくしま」だった。

福島県民の地元愛と、全国の人々へ郷土を誇る1曲

今回収録・配信した「I love you & I need you ふくしま」は、2011年3月20日に猪苗代湖ズによって配信された福島愛に満ちた賛歌。

猪苗代湖ズは、ボーカル/ギター・山口隆(サンボマスター)、ベース・渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET/THE ZOOT16)、ドラム・松田晋二(THE BACK HORN)、ギター・箭内道彦(クリエイティブディレクター・風とロック主宰)という、それぞれがミュージシャンやクリエイターとして活動する福島県出身の4人によるバンドだ。

箭内さんと福島民報社が主催するイベント「風とロックと芋煮会」を機に2010年に結成された。そして、そのとき「アイラブユーベイビー 福島」として演奏されたのが「I love you & I need you ふくしま」原型となる曲だった。

演奏中の風景

東日本大震災を受けて、猪苗代湖ズは「I love you & I need you ふくしま」を震災発生後わずか9日で配信。趣旨に賛同したさまざまなアーティストがそれぞれに異なるバージョンを発表しただけでなく、全国各地で自主制作のMVがつくられ、福島への応援が寄せられた。

猪苗代湖ズの「I love you & I need you ふくしま」は2011年4月にCD化され、利益はすべて義援金として寄付されている。まさに東日本大震災からの復興と福島への思いのこもった1曲で、今回、ふたば未来学園と原町高校吹奏楽部の顧問の先生と相談し、この曲を演奏することに決定した。

360度動画の見たい・聴きたい部分に近づける音のVR

今回「I love you & I need you ふくしま」を配信する「音のVR」はKDDI総合研究所による独自技術だ。専用アプリ「新音楽視聴体験 音のVR」で、最大8Kの360度動画・3Dオーディオを再生し、演奏中の好きなパートを画面上でピンチアウト(拡大)すると、映像と同時にその歌声や楽器の音色にも近づいて視聴することができるのだ。

音のVRを収録する渡辺俊美さんとふたば未来学園、原町高校の生徒たち

震災の記憶を伝えながら未来への新たな一歩を踏み出す

このプロジェクトを企画し、進めてきたKDDI東北総支社の東島正幸と山形 豊に、どのように考えて取り組んできたのかを聞いた。

KDDI東北総支社 東島正幸 KDDI東北総支社 管理部長 東島正幸

「やはり東日本大震災を忘れない・風化させないということが大きな目的です。震災の記憶をこれからの世代に伝えていくとき、つらいことや苦しいことも含めて残していくのはもちろん必要です。でもそれと併せて、震災の経験を踏まえ、未来に向かってどのように新たな一歩を踏み出していくのかを伝えていくことが大切だと考えています」

今回の収録を行ったのは、福島県双葉町の「東日本大震災・原子力災害伝承館」。まさに東日本大震災と津波に伴う原子力災害やそこからの復興から得た教訓を後世に継承・発信することを目的とした施設だ。

東日本大震災・原子力災害伝承館 今回の収録が行われた「東日本大震災・原子力災害伝承館」

「福島第一原子力発電所の事故は、震災以後の福島県に大きな影響を与えました。この伝承館がある福島県浜通りの相双地域は事故と津波で大きな被害を受けました。いまもこの土地を離れて暮らす方々はたくさんいらっしゃいます。

一方、被害を乗り越え、再生に向けて取り組んでいる地域でもあります。被害の甚大さだけでなく、新たな一歩を踏み出すことを伝える場所として、ここしかないと考えました。福島県からも協力いただき、『東日本大震災・原子力災害伝承館』での収録が実現しました」

同じく、この取り組みを進めてきた山形 豊は、ともに楽曲を発信してくれた学生たちについて語る。

KDDI東北総支社 山形 豊 KDDI東北総支社 マネージャー 山形 豊

「ふたば未来学園と原町高校のみなさんは、地元でこれまで双葉町の活性化などの取り組みを行ってきたとのことで、吹奏楽部の顧問の先生とお話しし、震災のことを伝えていきながら新たな一歩を踏み出すという趣旨に賛同いただいて、今回の演奏に参加いただくことになりました。

今回演奏した猪苗代湖ズの『I love you & I need you ふくしま』は、楽曲選定の際に、演奏に参加いただいた2校と話し合って決めました。『福島を思い出してほしい・福島にきてほしい』というテーマにふさわしいということで、みんなの思いが一致したのがこの曲だったんです」

福島で後輩たちと時代を超えて音楽を演奏できる喜び

楽曲が「I love you & I need you ふくしま」に決まったとき「猪苗代湖ズのメンバーと演奏できないだろうか」という声がスタッフ間で上がった。渡辺俊美さんはその思いにすぐに応えてくれたという。

どんな思いで参加したのか、渡辺さんに聞いた。

渡辺俊美さん ミュージシャンの渡辺俊美さん

「趣旨にはもちろん賛同したんですが、それよりもまずは福島で、地元でこういうプロジェクトができること、しかも自分たちの歌を、自分の後輩ともいえるふたば未来学園と原町高校のみなさんと一緒に、世代と時代を超えて一緒に演奏できることが何よりうれしくて、『ぜひやりたい!』とお答えしました」

渡辺さんは、今回参加した福島県立ふたば未来学園の前身にあたる福島県立双葉高校の卒業生でもある。

「今回、自分は『福島を忘れないでね、東北を忘れないでね』という気持ちと、『もしよかったら福島に来てね、東北に来てね』という気持ちを込めて歌いました」

生徒たちと歌う渡辺俊美さん

「僕もキャリアを積んでいろいろな方と音楽を奏でてきましたが、今回のように中高生の吹奏楽部のみんなと演奏する機会はなくて。しかもコロナ禍で全然、練習も発表もできないでいる。そんな学生さんたちとの演奏は、すごく僕のエネルギーになり、今後もいろんな場所で音楽を伝えていきたいという気持ちが一層強くなりました」

“音”だからその場にいるような感覚をリアルに体験できる

最後に「音のVR」を開発したKDDI総合研究所の堀内俊治に、今回の取り組みへの思いを聞いた。

KDDI総合研究所の堀内俊治 KDDI総合研究所 先端技術研究所 メディアICT部門 XR空間表現グループ 堀内俊治

「もともとVRは映像中心の表現だと思っていました。VRゴーグルなどで360度の見たいところを見られる技術ですが、音はまだまだ貢献できていなかった。映像でどれだけ近づいても感じにくい、場の空気感や雰囲気、響きなどは、音でならより伝えられるんじゃないかと考えたんです。そこから音と映像を組み合わせてズームする、近づくことができる音のVR技術を開発しました」

音のVRの収録機材

音のVRが発表されたのは2017年のこと。その後、予期せぬコロナ禍という事態に直面。物理的な接触なく臨場感たっぷりに、現場を体感できる音のVRは卒業式や合唱コンクール、コンサートなどさまざまな場の課題解決に活用されてきた。そして今回は、発生から11年が過ぎる東日本大震災を伝えていく場所での、福島の子どもたちによる収録が実現した。

「この場所で撮影・収録ができたっていうことがまずうれしいです。とくに今回すごい熱量を感じました。それはきっとここだからできたことなのではないでしょうか。

学生さんと渡辺さんが一生懸命演奏され、歌われたことを、私たちの技術できちんと伝えることができたらいいなと思っています」

人々の生活に深く関わり、つないでゆくテクノロジー

では最後に、今回の取り組みの模様を動画で見ていただこう。

この企画を立ち上げたKDDIの山形 豊は「私自身が感動しました」という。

「みなさんに完成した音のVRを見ていただいて、福島を思ってもらいたいし、来てもらいたい。福島出身の人には郷里への思いを深くしてもらいたいと思いますが、この場所で、福島のみなさんと撮影できたことをすごくうれしく思います」

そして演奏を終えた学生のみなさんが感想を語ってくれた。
「プロの方とご一緒するのに最初はすごく緊張したけど、演奏するうちにどんどん楽しくなって最後は最高の気分でした」(高校2年)

「自分が生まれ育った大切な場所です。住んでいると人の温かさやつながりの深さを感じる。それを今日また実感することができました」(中学3年)

「3年間のうち2年がコロナで部活も満足できなかったけど、今日吹くことができてうれしかったです」(中学3年)

音のVRというテクノロジーによって、現地から東日本大震災の記憶や復興にかける思いを伝えていくことができる。発信するために集まった人たちが幸せを感じ、郷里を誇りに思うことができる。そして、観る人に双葉町の青空や空気感を体験してもらうこともできる。

人と人、人とモノ、人と場所をつなぐだけでなく、人と可能性をつなぎ、つながることが、未来にもつながる。これからもKDDIは、通信のチカラでよりたくさんの心をつないでいく。

ふたば未来学園・原町高校吹奏楽部・渡辺俊美さん

文:TIME&SPACE編集部

※掲載されたKDDIの商品・サービスに関する情報は、掲載日現在のものです。商品・サービスの料金、サービスの内容・仕様などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。