2022/02/08
「個室×AR」で高速バスを快適に!地方交通の課題解決に向けたKDDIの取り組み
旅行や帰省で長距離を移動する際、選択肢のひとつにあがる「高速バス」。目的地へ、リーズナブルかつダイレクトに移動できることが魅力だが、乗車時間が長いため退屈しがち。より快適に移動するなら新幹線や飛行機のほうがいい――そう考えている人は少なくないだろう。
そんな高速バスのイメージを一新するユニークな取り組みが、兵庫県豊岡市で行われている。高速バスの車内に広々とした「個室」を設けるとともに、個室内に用意した「スマートグラス」でさまざまな動画コンテンツを楽しめるようにするというものだ。それは高速バスでの移動の快適さにどう影響するのか?実際に現地で体験試乗してきたので、その模様をレポートしよう。
高速バスで「個室×AR」とは?
今回の取り組みは、兵庫県北部でバス事業を運営する全但バスと、兵庫県豊岡市にある芸術文化観光専門職大学、そしてKDDIの3者による、観光サービスの実証事業。2021年12月28日から2022年2月28日まで、大阪-城崎(きのさき)温泉間(約3時間30分)および大阪-湯村温泉間(約3時間)で実施される。
こちらが今回の実証事業で用いられる全但バスの高速バス。見た目は普通の高速バスと変わらない。
いざ乗り込むと、前方は一般席になっている。2×2配列の普通の座席だ。
車内の通路を後方に進むと……。
これが今回の実証事業で運行される個室。その名も「グリーンルーム」。特別感のあるブラウンの革張りシートはリクライニング可能。車内にはこの個室が2部屋設けられている。料金は1席あたり通常の運賃プラス1,000円(実証期間中)。
KDDIのAR技術を活用したスマートグラス「NrealLight(エンリアルライト)」とauのスマホをバス運転手から受け取り、室内で使用できる。
このスマートグラスを用いて、観光モデルコース動画や、YouTube、Netflixなど多様なコンテンツを100インチ相当の仮想スクリーンで楽しむことができる。
また、この高速バスのもうひとつの特徴は、「バスビュー」の映像が見られること。バス車外の前方と後方の計4箇所にカメラが設置され、そのリアルタイム映像を個室内のモニターで見ることができる。
車外のカメラで走行中の映像を見られるバスビューシステムは、日本初の試みであるという。
「個室×AR」を体験試乗
個室にスマートグラスやバスビューシステムを搭載した高速バス。その乗り心地やいかに。実際に乗車して体験してみた。
シートに着席し、スマートグラスを装着して、いざ出発。
スマホに収められたコンテンツをスマートグラスで視聴。全但バスが制作した、この地域の観光地の紹介ムービーをチェックしてみる。筆者は「但馬(たじま)」と呼ばれる兵庫県北部に関してほとんど知識がなかったが、城崎温泉や湯村温泉といった人気温泉地をはじめとするたくさんの観光スポットがあるようだ。映像を見ているだけで旅情がかき立てられるとともに、観光地に関する情報も得ることができる。旅先への道中、高速バスの車内でこの映像が見られるのは、たしかに魅力的だ。
シートを倒し、ゆったりとくつろぐ。室内は想像以上に広い。それもそのはず、この個室は通常シート4席分に相当するという。
スマートグラスを外し、車外カメラの映像をモニターでチェックしてみる。
スマートグラスで見る仮想スクリーンの映像も面白かったが、こちらの車外カメラの映像も非常に楽しい。運転席からの景色や、後方から迫ってくるクルマの様子など、普段は見られない映像を楽しむことができた。特にバス前方の上部に取り付けられたカメラからの映像は迫力満点。普通の乗用車とは違って、高い位置からの眺めはバスならでは。
今回は体験試乗ということで、乗車時間は30分ほど。あれこれ楽しんでいるあいだにあっという間に終わってしまった。スマートグラスによる映像コンテンツを満喫できて、車外カメラからの映像も楽しめて、個室のシートはゆったり広々。これなら長時間のバス移動も快適なものになりそうだ。
地域の課題解決に通信のチカラを活用
広い個室やスマートグラス、バスビューシステムの導入により、新しい旅のスタイルを提案する今回の高速バスの実証事業。全但バスと芸術文化観光専門職大学、そしてKDDIは、どのような思いでこのプロジェクトにのぞんだのか。それぞれの担当者に話を聞いた。
「新型コロナウイルス感染症の拡大により、バス事業者である私たちは深刻な打撃を受けています。高速バスの利用者はコロナ前と比べて約70%減少しました。そんななかで私たちは、高速バスによる移動の新しい体験価値を創出する必要があると考え、以前よりお付き合いのある芸術文化観光専門職大学さんとKDDIさんの協力のもと、今回の実証事業の実施に至りました。
高速バスの移動は飛行機や新幹線よりも時間がかかりますが、その移動時間自体を楽しんでいただける新しいサービスをお客さまに提供していきたい。そして、それを新たな付加価値として収益につなげていければと考えています」(全但バス 取締役 バス事業部長 小坂祐司さん)
「今回の実証事業におけるバスビューシステムは、芸術文化観光専門職大学の学生たちと全但バスさんの若手社員による交流から得られたアイデアをかたちにしたものです。バスに乗るとワクワクしますよね。そのワクワクの源泉ってなんだろう?と考えたとき、『バスの視点は、徒歩や自家用車と視点の高さがまったく違う。視点が変わると、まちの見え方が変わる。それこそがほかの交通手段にはないバスの価値なのでは?』というアイデアを出してくれた学生がいて、それがこのバスビューの企画につながっています。
また、KDDIさんとはこれまで、au 5Gを活用した遠隔による実習授業を連携して行うなど、コロナ禍における新しい実習スタイルに取り組んできました。この但馬の地にいながら、遠隔でさまざまな体験を得ることができるのは、通信のチカラがあってこそ。5Gをはじめとする新しい通信技術が進化するほど、ここで学ぶ学生たちの可能性も広がっていくと思います」(芸術文化観光専門職大学 講師 野津直樹さん)
「KDDIは地方創生活動の一環として、強みである通信のチカラを活用しながら、地域が抱える課題を解決する取り組みを進めています。兵庫県豊岡市とは2016年に包括協定を結んで以来、ビッグデータを活用した観光活性化や、スマート農業プロジェクトの実施など、豊岡市の課題解決のためのさまざまな活動を行ってきました。
2019年9月に開催された「第0回豊岡演劇祭」では、リストバンドを用いた入場管理を行ったほか、全但バスさんやトヨタ・モビリティ基金さんと連携し、バスなどの位置情報をサイネージ上でリアルタイムに「見える化」し、利便性向上に向けた取り組みを実施しました。取得したデータを活用し、演劇祭の効率的な運営方法や効果的な観光振興施策について共同検討することが狙いです。
2020年12月には豊岡市の城崎国際アートセンターにおいて、au 5Gを活用し豊岡の会場と東京・渋谷のスタジオをつないだ遠隔ダンスワークショップ、ARダンスライブの5G配信など、文化・芸術創出プロジェクトを通して、テクノロジーとまちづくりの新たな可能性を探る取り組みを行いました。
こういったさまざまな取り組みを豊岡市と進めるなかで、全但バスさんや芸術文化観光専門職大学さんとのつながりも生まれ、今回の実証事業に至りました。芸術文化観光専門職大学さんとは2021年7月、5GやIoTなどICTを活用した教育研究活動の推進を目的とした包括協定を結び、同年10月にはau 5Gを活用した遠隔実習授業を実施しています。
今回の高速バスの実証事業では、コロナ禍での利用者の大幅な落ち込みという全但バスさんが抱える課題の解決を目指し、KDDIのAR技術を活用したスマートグラス『NrealLight』を活用することで、高速バス個室内での新たな観光体験価値の創出を図りました。豊岡市をはじめとする但馬地域は豊かな自然や優れた文化をもつ土地ですが、一方で日本全国の他の地域同様、人口減や少子高齢化といった課題も山積しています。また、交通や観光における課題も少なくなく、それはコロナ禍でより深刻化しています。私たちは、最新のICTを駆使してひとつひとつの課題の解決を図り、社会に貢献していきたいと考えています」(KDDI 地方創生推進部 関田耕太郎)
「地域が抱える課題は地域ごとに異なるため、現地のみなさんの声に耳を傾けることが大切」と関田は言う。今後もKDDIは、それぞれの地域に最適なかたちで課題の解決を図りながら、社会の持続的な発展を目指して取り組みを進めていく。
文:TIME&SPACE編集部
撮影:丸山 桂
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