2021/12/23
SpaceX社の衛星ブロードバンド「Starlink(スターリンク)」とは?KDDIに取材
2021年9月、KDDIはアメリカのSpaceX(スペースX)社と協業し、衛星ブロードバンドインターネットを提供する「Starlink(スターリンク)」を、au基地局のバックホール回線(基地局と基幹ネットワークをつなぐ中継回線)に利用する契約を締結した。
SpaceX社とは、アメリカの電気自動車メーカー「テスラ」のCEOであるイーロン・マスク氏が2002年に設立した会社で、民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させたことでも知られている。
はたして、「Starlink」とはどういったものなのか?その仕組みやKDDIの取り組みについて紹介する。
これまでの衛星通信の仕組みとは?
今回は「Starlink」の仕組みや一般的な通信衛星との違い、auで活用されるサービスについて、「Starlink」の運営を含めた全般を取りまとめているKDDI 技術統括本部の河合宣行、大谷 潤、橋本高志に聞いた。
ちなみにプロジェクトリーダーの河合は、かつてKDDI山口衛星通信所のセンター長を務め、長く衛星通信に携わってきたベテラン。大谷は「Starlink」の技術面の交渉を、橋本はauのバックホール回線などを担当している。
――まずは一般的な衛星通信の仕組みを教えてください。
河合「一般的な衛星通信は、地球の自転周期と同じ、赤道上空36,000kmに衛星を打ち上げます。この軌道に衛星を打ち上げると、地球の自転と同じく24時間で1周し、地上からは衛星が静止しているように観測できます。そのため“静止衛星”と呼びます。この“静止衛星”を太平洋、大西洋、インド洋上に配置して、世界中に通信を送るというのがこれまでの衛星通信です」
「Starlink」では高度550kmの上空に衛星が数千基が飛ぶ
――では「Starlink」はどういった衛星通信サービスでしょうか?
大谷「『Starlink』は、高度約550kmの低軌道上に多数の人工衛星を打ち上げて、宇宙からブロードバンド通信サービス、主にインターネットを提供するというものです。『Starlink』の人工衛星は地上から見ると常に動いているため、“非静止衛星”と呼ばれます。低軌道上に打ち上げた多数の“非静止衛星”を連携させて運用することで、世界中で高速・大容量の通信サービスが提供できるようになるのです」
――従来の衛星通信よりも、低い位置にたくさんの“非静止衛星”を打ち上げるのが「Starlink」の特徴ですね。
大谷「そうです。現在、低軌道周回に約1,500基超の“非静止衛星”が運用されています(2021年12月時点)。従来の“静止衛星”と比べて、地表からの距離が65分の1程度と大きく近づくため、これまでの衛星通信に比べると、大幅な低遅延と高速伝送を実現できます。
ちなみに、2020年に『Starlink』は一般ユーザー向けにアメリカやカナダ、イギリスなどでスタートしました。こちらは、スターターキットを購入することで、月額99ドルでインターネットと接続できるというサービスです」
『Starlink』を活用する基地局バックホール回線とは?
――KDDIでは「Starlink」を“au基地局のバックホール回線に利用する”と発表しています。詳しく教えてください。
橋本「バックホール回線とは、携帯電話の基地局と基幹通信網(コア網)を結ぶ中継回線のことです。通常は大容量通信に適した光ケーブルを用いますが、山間部や離島のエリアなど物理的に光ケーブルが敷設できない場所や、災害時に光ケーブルが分断されてしまう場合があります。
そこで、au基地局のバックホール回線に『Starlink』の衛星通信を活用することで、これまでは光ファイバーの敷設が難しかった山間部や島しょ地域などでもauの高速通信を提供可能なau基地局を構築することができるのです」
――「Starlink」の衛星通信から、直接スマホに電波が送られてくるわけではないんですね。
橋本「スマホにではなく、光ケーブルが引けないような場所にある基地局に対して『Starlink』の通信を利用していきます。そのために、総務省より実験試験局免許の交付を受け、『Starlink』の通信衛星と地上のインターネット網を接続するゲートウェイ局(地上局)を、KDDI山口衛星通信所に構築しました。現在、品質と性能を評価するため、SpaceX社と共同で一連の技術検証を行っています。
そして、2022年を目処に、まず全国1,200カ所のau基地局のバックホール回線から『Starlink』を順次導入していく予定です」
――「Starlink」の通信によって、これまでは電波がつながりにくかったエリアが、よりつながりやすくなるんですね。
河合「『Starlink』は“bring urban mobile experience to rural customers”というコンセプトで取り組んでいます。要約すると『都市部のお客様体験をルーラルにも』といったニュアンスです。
光ケーブルに接続された通常のau基地局に加え、今後は『Starlink』をバックホール回線としたau基地局を導入することで、日本中どこにでも高速通信を届けていきたいと思っています。“ずっと、もっと、つなぐぞ。au”をスローガンに、より強靭なネットワークを構築していきます」
KDDIは、1963年に衛星通信を活用した世界初の太平洋横断テレビ中継の受信に成功して以降、半世紀以上にわたって日本の衛星通信サービスの一角を担ってきた。これからは次世代の衛星ブロードバンド「Starlink」を活用することで、より安定的な通信サービスと、5G時代の新たな高速通信を実現していく。
文:TIME&SPACE編集部
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