2021/09/24
南極地域観測隊の仕事とは?パラボラ好きな女性社員が体験した1年間の南極生活
KDDIは国立極地研究所に毎年1名の社員を出向し、南極地域で大気・気象・地質・生物・雪氷・海洋・宇宙物理などの観測を行う「南極地域観測隊」の隊員として現地に派遣。南極・昭和基地のネットワークや日本とつながる衛星回線の運用保守という重要な任務を担っている。
南極という極地において、隊員はどのような暮らしを送っているのだろうか?日々の業務内容とは?第61次南極地域観測隊の一員として、そしてKDDIでは初となる女性隊員として昭和基地に赴任した佐々木貴美に話を聞いた。
昭和基地の「通信」を守る
――南極生活お疲れ様でした。どのような1年でしたか?
佐々木:事前に想像していたよりもはるかにハードな日々でした。観測隊の隊員は、自分の仕事以外にも、荷物の運搬や雪かきなどさまざまな業務をこなすことが求められます。苦労もありましたが、やりがいも大きく、日本では得られない貴重な経験をすることができました。
――佐々木さんの南極での仕事について教えてください。
佐々木:南極の昭和基地では、気象や大気などさまざまな研究観測データを日本に送ったり、学校や科学館へ映像を配信したり、インターネットで情報を得たりするために、24時間365日、インテルサット衛星と呼ばれる衛星回線が利用されています。その運用保守が私の主な任務です。
「南極教室」という、日本の小中学校や科学館へリアルタイムで映像を届けるライブ配信イベントがあるのですが、その機材の管理やPC操作、中継中のネットワーク監視も私が担当しました。
大好きなパラボラを独り占め
――「衛星回線の運用保守」とは具体的にどのようなことをするのでしょうか?
佐々木:代表的な作業として、南極からインテルサット衛星へ向けて電波の送受信を行うパラボラアンテナの駆動部分の点検があります。安全帯を装着して高所に上がって行うため、とても大変な作業でした。
パラボラアンテナの直径は7.6m。風雪など過酷な環境から守るために「レドーム」と呼ばれる球状の建物に格納されています。
レドームは昭和基地の主要部から徒歩5分ほどの場所にあります。南極滞在中は週に2回ほど通い、通信機器の保守や点検を行いました。晴れている日はいいのですが、悪天候の日は行くだけでもひと苦労。吹雪のなか、ロープをたどって行ったこともありました。
――佐々木さんには南極へ出発する前にもお話を伺いましたが、その際に「パラボラアンテナが大好き!」と言っていましたね。南極のパラボラアンテナはいかがでしたか?
佐々木:南極のパラボラアンテナは一般的なパラボラアンテナと違って外からは見えませんが、レドーム内部から見る後ろ姿もかっこよかったです!やっぱりパラボラアンテナってどこから見てもかっこいいんですよね。
南極に着いた当初、こんなに立派なパラボラアンテナを1年間も独り占めできるかと思うと、テンションが上がりました(笑)。それと同時に、責任の大きさも感じました。ネットワークにトラブルが起きたときはすべて自分ひとりで対処しなければなりません。そのため、「私が南極の通信を守るんだ!」という使命感を持って仕事に取り組みました。
「通信」が隊員の心の支えに
――南極滞在中、ネットワークにトラブルはなかったですか?
佐々木:大きなトラブルはなかったですが、小さな不具合はたびたびありました。その際は、出発前にKDDI山口衛星通信所の研修で学んだ知識や経験が役に立ちました。
南極の昭和基地はKDDI山口衛星通信所と衛星通信でつながっています。出発前にそこで一週間ほど研修を受け、衛星通信の設備に触れながら、運用や保守の方法について担当者からレクチャーを受けました。
ちなみにKDDI山口衛星通信所は、大小さまざまのパラボラアンテナが設置されている、パラボラ好きにとって夢のような場所です(笑)。
――昭和基地のインターネットは隊員のみなさんも自由に使えるんですか?
佐々木:動画やテレビ電話など通信量が大きいものは極力控えるよう各隊員にお願いしていますが、メールやSNSなどであれば自由に利用できます。LINEやFacebookなどで日本にいる家族や友人とコミュニケーションを取ることもでき、それが隊員たちの心の支えになっていました。
――昭和基地のインターネットの通信速度はどれくらいですか?
佐々木:上り下りそれぞれ4Mbpsほどです。それを隊員全員で分け合って使っています。その環境に慣れてしまったせいか、日本に戻ってきてから5Gのあまりの速さに驚きました。私が南極に向けて出発したとき、まだ日本では5Gのサービスははじまっていなかったので。ユーザーのひとりとして通信技術の進化を感じます。
映画鑑賞やカラオケで息抜き
――南極での暮らしについて教えてください。仕事が休みの日はなにをして過ごしていましたか?
佐々木:映画をたくさん観ました。昭和基地の共有スペースには、隊員が余暇を過ごすための娯楽用のスペースがあるんです。その一角には歴代の隊員たちが残していったDVDコーナーがあって、それを片っ端から観ているうちにB級映画にハマってしまいました(笑)。
また、娯楽用スペースにはカラオケもあり、好きな歌を歌うことがいい息抜きになりました。
――日々の食事はどうでしたか?
佐々木:2人のシェフが交代で美味しい料理をつくってくれました。毎食あまりにも美味しくて、食べ過ぎないようセーブするのが大変なほど(笑)。とくに担々麺が絶品でした。
オーロラやペンギンとの出合い
――ほかに南極生活で印象に残っていることや思い出深いことはありますか?
佐々木:オーロラを肉眼で見られたことは南極ならではの経験だと思います。初めて見るオーロラは感動的な美しさでした。
太陽が沈まない「白夜」や、1日中太陽が出てこない「極夜」も、南極ならではの経験です。極夜のときはずっと暗いせいで、気持ちが落ち込んでしまったことも。太陽って偉大だなあとしみじみ感じました。
――ペンギンやアザラシには出合いましたか?
佐々木:たくさん出合いました。昭和基地の周辺にはペンギンやアザラシをはじめとするさまざまな生物が生息しています。ペンギンに関しては、個体数を数える観測業務のお手伝いもしました。
衛星通信の重要性を実感
――佐々木さんは約1年間にわたって「昭和基地の通信を守る」という重要な任務を果たしてきましたが、南極観測における衛星通信が果たす役割についてどのようなことを感じましたか?
佐々木:昭和基地のネットワークの運用保守という責任ある業務を通じて、衛星通信のインフラとしての重要性をあらためて感じました。私自身、南極滞在中に家族や友人とLINEなどでやり取りすることで元気をもらい、ユーザーのひとりとして通信のありがたみを実感しました。
南極の衛星回線の保守は新たなメンバーへと引き継がれ、24時間365日守られ続けている。KDDIはこれからも、南極における観測活動を支えるため、通信をつなぎ続けていく。
文:榎本一生
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