2021/08/23

徒歩で、電車で、クルマで。スマホを快適につなげるためにKDDIが行う電波調査に密着

携帯電話は、基地局から電波を発射することで、そのエリア一帯でつながるようになる。巨大な鉄塔やビルの屋上への設置、1本の電柱など、基地局は立地も形状もさまざまだ。

KDDIのさまざまな基地局と工事の模様
KDDIのさまざまな基地局と工事の模様

基地局を建てて電波を発射したら完了というわけではない。災害や機器の故障などで通信障害が発生した場合は即座に対処する。携帯電話を一度つなげたら、電波が途切れたり弱まったりしないよう、安定して「つなぎ続ける」ことが通信会社の重要な仕事だ。

そのために、KDDIではビッグデータを活用し、対象となるエリアの電波の品質を解析している。これらを元に社員が実際に現場に出動、電波状況を調査し、改善を行う。テクノロジーと“人力”の両輪で質の良い電波を届けられるよう、管理し続けているのだ。

なぜ「人力」で調査を行うのか

では、具体的にどんなことを行っているのか。KDDI エリア品質管理部の木下敦史と池田学駿の実際の調査に密着した。

KDDI エリア品質管理部の木下敦史と池田学駿 KDDI エリア品質管理部の木下敦史(右)と池田学駿(左)

この日、ふたりは「徒歩」で調査を行った。エリアは、東京都港区のJR新橋駅から中央区銀座の歌舞伎座前付近。

「まず基地局を建てたエリアについてビッグデータで解析を行いますが、実際にそのエリアでスマホを使用されるお客様の目線でチェックするために現場に出向くのです。現地調査を行うことで、より快適にご利用いただけるよう、さらなる改善につなげています」(木下)

こちらは木下が調査に使用したタブレットのマップ。緑色の点線が調査の際の移動の軌跡だ。

この日行われた新橋〜銀座間の調査エリア 新橋〜銀座間で調査を実施。緑色の点線が歩いた軌跡だ

調査は今回のようにふたり1組が基本。それぞれ異なる機材を携行する。

池田が持つプラスチック製のケースには、調査用のスマホが3台装着されている。それぞれ4G LTEと5Gのデータ転送速度や、遅延時間、ネットワークの混雑状況などが一度にモニタリングできる。

池田は3台のスマホを手に調査 池田が手にしたプラスチック製のケースには調査用のスマホが装着されている

「電波測定アプリをインストールしていますが、スマホ自体は市販品です。つまり、実際にお客様が街なかでスマホを使用しているのと同じ条件で、どの程度の通信の品質が保たれているかを調査するためのものです」(池田)

一方、木下が背負っているリュックにはアンテナが入っており、auの基地局からそのエリアに向けて発射されているすべての電波をキャッチする。そして、手にしたタブレットで、どの場所でどのような電波がどのぐらいの強度で流れているかを確認し、記録することができる。

木下の電波調査の模様 木下は周囲に飛んでいるKDDIの電波をすべてキャッチできるアンテナを装備し、タブレットでモニタリングを行う

「携帯電話が、今いるエリアに対応する基地局から発射されている強い電波を捕捉していればいいのですが、ときどきよその基地局の微弱な電波を捕捉していることがあるんです。その微弱な電波の発信源を特定し、対処するためにこのアンテナが必要となります」(木下)

新橋〜銀座間で調査を行った2つの理由

こうした調査はもちろん闇雲に行われるわけではない。今回、新橋〜銀座エリアを対象にしたのには、大きく2つの理由があった。

「現状5Gスマホは、5Gエリアで使用すると5Gの電波をキャッチし、4G LTEエリアに移動した場合、4G LTEの電波に切り替えて通信を行います。新橋〜銀座間では5Gエリアと4G LTEのエリアが混在するため、その切り替えがスムーズに行われているのかを現場で確認したい、というのが第一の理由です」(木下)

そして、もうひとつの理由は、このエリアが都内でも有数の繁華街であるという点。

「新橋〜銀座間は、実際にお客様がよくスマホを使われるエリアでもあるからです。“ここでスマホを使いたい”というお客様のニーズをきちんと満たすために、利用者数の多いエリアから調査を行います」(木下)

調査のスタートはJR新橋駅前から。お台場に向かうゆりかもめの駅前からSL広場を経て銀座方面へ向かう。

現地調査中のKDDI木下と池田 JR新橋駅前から歩き始める調査班のふたり

ところどころで止まっては手元のタブレットとスマホでデータを確認する。数値は記録され、検証は会社に戻ってから行うが、現地調査中も正常に取得されているかを確認する。

そして、銀座中央通りを6丁目から4丁目に向かって移動。

現地調査中のKDDI木下と池田 GINZA SIX前を経由して銀座4丁目交差点にたどりつく

銀座4丁目交差点を「和光」のほうに渡り、「三越」から進路を東へ。ショッピングや食事などで人々が行きかうなか、大きめのリュックを背負った木下と池田が通り過ぎていく。

現地調査中のKDDI木下と池田 銀座三越前を経て晴海通りを東へ進んでいく

昭和通りを越えて「歌舞伎座」へと至る。またここでもタブレットとスマホをチェック。

現地調査中のKDDI木下と池田 到達したのは東銀座の歌舞伎座前。ここも多くの人がスマホを使用するスポットだ

まるで界隈の有名ショッピング&観光スポットを巡っているように見えるが、あながち間違いでもない。

「そもそも、電波調査はお客様が実際によくスマホを使用されるスポットを想定して行うんです。今回は、新橋から銀座までの間の6カ所。待ち合わせによく使われるSL広場や和光前、歌舞伎座は、写真を撮ってSNSにアップされる方も多いですからね」(池田)

今回の調査ルート

今回のこのエリアの調査は、歩けば15分程度、約1.2kmの道のりを2時間かけて行った。そして、すでに第2弾の調査が決定している。

次回はこの地図の範囲内すべての道を対象に、きちんと電波が機能しているかを確認する予定。そのためには、表通りだけでなく路地裏まで1本ずつしらみつぶしに歩きながら電波状況をチェックするのだと言う。

全国で行われている電波の調査と品質維持

auの基地局は日本全体で数十万局ある。こうした調査は、今回密着した東京都内だけでなく、全国各地の拠点を通じて、それぞれの地域で行っている。

たとえばこちらは、宮城県石巻市の離島・金華山。国の登録有形文化財「金華山灯台」があり、パワースポットとして有名な「金華山黄金山神社」で知られる。

石巻の金華山灯台 日本の灯台50選にも入っている宮城県石巻市の金華山灯台

島の住人は神職に携わる5人のみ。だが、観光地として多くの人々が訪れるため、2021年6月、新たに基地局を建設。灯台周辺でauが使えるようになった。

金華山灯台と新たに設置された基地局 赤丸が金華山灯台、画面左のポールが基地局だ(左)。基地局にはパラボラアンテナも設置(右)

ここでも前述の新橋〜銀座間と同様、電波調査を行っている。灯台の周囲でスマホを使って電波をキャッチするのはもちろん、島内全域での携帯電話のつながり方を確認。ときには道を塞ぐ倒木を乗り越え、道なき道を行くこともあった。

金華山の電波調査の模様 灯台が見える場所での調査(左)。倒木を乗り越えて島の斜面を進んでいく(中)。島には野生のシカが500頭生息しており、実はフンだらけ(右)

チャーター船で島に渡り、港から灯台までは片道約6km。当時、震災や台風などの影響で島内の遊歩道は約7割が崩落しており、道なき道をヒヤヒヤしながら歩き、調査は行われた。

鉄道の主要路線や幹線道路でもユーザー目線で調査

今回の新橋〜銀座間の調査を担当したKDDIの池田によると、こうした調査は徒歩だけでなく、鉄道や幹線道路でも行っている。

「路上の徒歩での調査と同様に、鉄道や道路も利用者の多いところで行います。国土交通省の前年度の利用者情報や、我々が独自に取得しているビッグデータを複合的に見て、調査対象となる路線を選定します。可能な限り乗客が多い時間帯で、乗客の多い駅間を選んで調査するようにしています」(池田)

スマホ利用者の多い鉄道でも調査 乗客の多い路線、駅で調査を行う(実際の調査風景ではありません)

路上と同様の調査を行うが、携行するアンテナは車内で迷惑にならないよう、ひと回り小さいサイズのものを使う。

「内容的に路上と違うのは、電車内のお客様と同じようにスマホを使用してみるという点です。実際にブラウザを使ってウェブサイトにつないだり検索したりしたときに、何秒で応答が得られるか。また、動画を観たとき途切れないか、解像度はどうかなどをチェックします」(池田)

ちなみにチェックのために観る動画も、再生回数が多いミュージックビデオや直近で人気の動画など、アクセス数が多いものを選んでいる。

主要幹線道路では、車内でお客様がスマホをどのように使っているか、という視点から実際にクルマで走行しながらの調査を実施する。2名以上で乗車し、ブラウザや動画視聴に加えて、最近ではナビ代わりにスマホを利用する人も多いため、そうした使い方も試しながら調査を行っている。

主要な幹線道路でも調査 鉄道同様、実際のお客様のスマホの使い方を想定して調査(実際の調査風景ではありません)

鉄道同様、利用者の多い道路を選んで調査。徹底的に「お客様が実際に使うこと」を想定しているのだ。

快適な通信維持は人知れず。サイクルは終わらない

徒歩で、電車で、クルマで、各エリアごとに行われる調査は、そのエリアの通信状況を改善するためだけに活用されるわけではない。

それぞれの調査後には、過去の調査結果と比較できるようレポートを作成。新たに発見した事象や問題点を解析専門の部署に展開し、実際に基地局の調整などの対応を行う。そこで明らかになった問題点や解決手段は、新たな知見として木下と池田の部署に蓄積され、次にまた日本のどこかで同じような事例があった場合に活用される。

そしてまた並行して、スマホがきちんとつながっているかの調査は続けられていく。

「またそこからが新たなスタートです」と、KDDIの木下は言う。

KDDI エリア品質管理部の木下敦史 KDDI エリア品質管理部の木下敦史

「私たちが見つけた事象が改善されたからといって、それはゴールではありません。そこからまた新しい改善のサイクルがはじまります。だからずっと調査し、ずっと改善していくのです」(木下)

KDDI エリア品質管理部の池田学駿 KDDI エリア品質管理部の池田学駿

「とにかくお客様に良いものを届けたいと考えています。一つひとつのエリアを磨き上げることで、いち早く多くのお客様に5Gを体感していただきたいと思っています」(池田)

いま5Gのエリアが急速に広がっている。5Gならではの高速通信を体感していただくのはもちろん、これまでの4Gエリアに関しても快適につながり続けること。

そのために、ビッグデータに加えて現場に出動して、より高い電波品質を維持することに努め、実際にどのようにスマホが使われているか、お客様目線での調査を徹底。KDDIは先端テクノロジーを追究する一方で、“人力”というアナログな手法も取り入れて、全国数十万局の通信品質の維持にこれからも取り組んでいく。

全国で行われている電波品質の調査の模様
全国で行われている電波品質の調査の模様

文:TIME&SPACE編集部

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