2021/03/25
水陸両用車や四輪バギーを導入 いち早く通信を復旧するためのKDDI災害対策訓練に密着
2021年は東日本大震災から10年の節目となる。東日本大震災のときには、「なによりも携帯電話を持って避難した」という声が多く聞かれ、被災された方々の安心・安全の拠り所となっていることをKDDIは強く認識した。未曾有の大災害で携帯電話がつながらない。そんなときに通信を一刻も早く復旧するため、KDDIは日々災害対策訓練を行っている。
今回は2021年2月25日に宮城県仙台市の「夢メッセみやぎ」で実施された「2021 KDDI 災害対策訓練」に密着し、東日本大震災から10年のあいだで強化してきた災害対策を紹介する。
発災から30分以内に運用災害対策本部を立ち上げ被災状況を確認
今回の訓練は宮城県沖で震度7、マグニチュード9クラスの地震が起こったという想定で進められた。
大規模な災害が起こったとき、まず行うのは情報収集だ。KDDIでは発災から30分以内に指令となる運用災害対策本部が立ち上がる。訓練では被災地の現状把握や出動要請のシミュレーションが行われた。
まずは宮城、岩手、福島の3県の基地局の被害状況を確認し、全国にある「車載型基地局」や「可搬型基地局」「ポータブル発電機」など移動可能な機材の出動準備を進める。大規模な土砂災害が発生した場合は、実証実験中の「ヘリコプター基地局」を活用した要救助者発見のサポートを行う。
国道が浸水して通常の車両では基地局に向かえない場合は「水陸両用車」を派遣。がれきで基地局に近づけないときには、ドローンによる基地局調査を行い、パラボラアンテナの損傷を確認し、損傷を確認し対策を検討する。
刻一刻と変わる被災状況に合わせて、いち早く通信を復旧するために最適な手段を選択する。続いては実際の機材を使った訓練を見ていこう。
設営時間が大幅短縮。進化した車載型基地局
災害発生後の初動時に活躍するのが車載型基地局だ。こちらはアンテナなどの通信に必要な設備を搭載しており、発災後にいち早く災害現場に向かい、現地で基地局を設営して臨時で電波を届ける。10年前の東日本大震災時、KDDIが所有する車載型基地局は15台だったが、2021年3月現在は50台を所有し、少しでも早く全国各地から被災地へ向かえる体制を整えている。今回の災害対策訓練の会場では、新型の車載型基地局のデモンストレーションが行われた。
トヨタのエスティマハイブリッドをベースにした新型の車載型基地局は、機材をシンプルにすることで設営作業を簡略化。旧型は設営に3人が必要だったが、2人で設営することが可能に。設営時間は旧型が16分14秒、新型が11分22秒と、4分52秒も短縮化することに成功した。
また、基地局の各設備を小型化して持ち運びができる可搬型基地局の組み立ても行われた。可搬型基地局は2011年の時点では使用されていなかったが、現在KDDIでは137台を所有している。
可搬型基地局はバッテリーに発電機を使用しているが、外部に燃料タンクを設置するタイプを採用したことで、これまでは3時間だったのが、連続24時間の運用が可能に。夜間の緊急出動がなくなり作業員の安全にもつながった。
そして下表のように、KDDIは東日本大震災から10年間で災害対策機材を強化してきた。
また、2021年2月13日に発生した福島県沖地震では広域で停電となったが、auのサービスは影響を受けなかった。基地局には停電時に最低3時間は電力保持が可能なバッテリーを備えており、停電発生から3時間以内に現地へ向かい、ポータブル発電機に切り替え、給油を繰り返しながら発電を継続し、電力供給の再開まで待つ。これにより、停電時でもauの通信は途絶えなかったのだ。
現在KDDIでは24時間運用できる基地局バッテリーを2,200局所有している。
悪路には「水陸両用車」や「四輪バギー」を初導入
近年、自然災害は激甚化(げきじんか)している。豪雨による浸水で被災地に進入できない、道路崩落で道幅が狭く車両が通行できないなど、車載型基地局では対応が難しい場合は、水陸両用車や四輪バギーを派遣する。これは国内通信事業者として初の導入となる。
陸路も水上も走れる水陸両用車は、津波や土砂崩れで浸水した場所や散乱物に覆われた悪路などで活躍する。ボート型のキャリアを牽引して荷物などを運搬することが可能で、隔離された被災地に機材を運ぶだけでなく、被災地支援として水や食料などを積むこともできる。
訓練では「水陸両用車」の試乗体験も実施。実際に乗ってみると、激しく揺れながらもタイヤや木片などの障害物をスムーズに乗り越え、走破性の高さが伺えた。
小型で走行性能が高い四輪バギーは、倒木や散乱物、崖崩れで道幅が狭くなるなど、普通車では通れない道路を通行する際に活躍する。後部のキャリアは100kgの積載量があり、災害現場への燃料搬送などに活用できる。
屋外の訓練では、タイヤを雪上用のキャタピラに交換して走行した。雪道でもグイグイと進むことができる。
また、災害が発生すると周辺の道路は渋滞するが、そのようなときKDDIでは機動力や操作性に優れたオフロードバイクを活用する。
このように過酷な環境や悪路でも、迅速な通信復旧が行えるよう、多彩な災害対策機材を導入している。
ドローンを活用して基地局の破損を確認
がれきで基地局に近づけないなど、寸断された道路の先の状況を確認するためにはドローンを使用することもある。ドローンと遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」を連携し、ARを活用してドローンで撮影した映像を離れた場所でリアルタイムにチェックする。
モニターは災害現場でドローン操縦者が見ているもので、運用災害隊対策本部のPCにも同じ映像が投影される。ドローンが調査箇所に近づくと、モニターやPCでも近づいている様子がわかる。
ドローンの映像からパラボラアンテナの破損を確認。運用災害対策本部がPCで破損個所を赤い円でマークすると、操縦者のモニターにも赤いマークが表示される。その表示を確認した後、操縦者はアンテナの破損個所をよりクローズアップ。
これによりパラボラアンテナの一部が破損していることをが確認できる。
このようにドローンを使うことで、対策本部と被災地で双方向でのリアルタイムのコミュニケーションが可能になる。ほかにも、ドローン基地局として通信エリアの復旧や災害救助の支援など、今後はさまざまなシーンでの活用が期待されている。
ヘリコプター基地局で被災者の早期発見に役立つ
災害や海難捜索救助などにおける要救助者の発見を支援するため、ヘリコプター基地局の実証実験も行われている。
仕組みはこのようになっている。軽量コンパクトな航空機型基地局を搭載した「ヘリコプター基地局」が遭難地点に急行。遭難者が持っている携帯電話からの電波を探索し、遭難者がヘリコプター基地局の電波圏内に入ると、ヘリコプターから電波を送ることで遭難者の携帯電話が通信圏内に。遭難者の携帯電話とヘリの間での相互通信が可能になり、直接の通信によって避難者の状況などの情報を収拾する。
また、地上に設置した可搬型基地局とネットワークを接続し、ヘリコプター基地局から通常の携帯電話ネットワークに接続することも可能に。ヘリコプター基地局と可搬型基地局を連携させることで、迅速かつ効率的な救助活動につながるのだ。
今回の訓練では、実際にヘリコプター基地局の体験搭乗が行われた。
会場である「夢メッセみやぎ」を出発。
東日本大震災で被害を受けた後に復興を果たしたキリンビール仙台工場や新仙台火力発電所へ向かい、約5分の搭乗体験は終了。ヘリコプターが飛行する上空150mから、海上の船舶などの捜索を目視で行うのは困難なことがよくわかった。だからこそ、遭難者が持つ携帯電話を活用して場所や状況などの確認ができれば、捜索救助の大きなサポートとなるはずだ。
「00000JAPAN」の提供や通信インフラのサポートも行う
災害時には避難所などで、通信インフラのサポート活動も行っている。たとえば、携帯電話が使えないときに連絡手段として使用するイリジウム衛星携帯電話や、さまざまな携帯電話に対応した充電ボックスの貸し出しなどがある。
訓練では、大規模災害が発生したときだけに使用できる無料公衆無線LANサービス「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」の提供も行われた。写真のように被災地にアクセスポイントを臨時に設置して「00000JAPAN」を無料開放することで、周辺エリアではどの通信会社の携帯電話でも無料でWi-Fiへの接続が可能となる。
通信インフラのサポートは避難所だけでなく、県庁や市役所、役場といった重要施設でも行われている。
被災地で携帯電話がつながると安心が広がる
東日本大震災から10年後に、宮城県で行われたKDDIの災害対策訓練。全国の災害対策や訓練を取り仕切るKDDIネットワーク強靭化推進室 尾方淳一にその思いを聞いた。
「かつては災害時に避難する際は財布を持って逃げる人が多かったのですが、東日本大震災では“携帯電話を持って逃げる人が多かった”と聞いています。被災された方が携帯電話を持っていると、『誰かから連絡が来る』『こちらからも連絡ができる』と安心感が得られるようです。東日本大震災では1,933の基地局が機能を停止し、エリアが復旧したのは震災から約40日後でした。そのあいだ、被災された方はものすごく不安だっただろうと思います。だからこそ、我々は早期に通信を復旧できるように訓練と改善を行ってきました。
とはいえ、近年の自然災害は激甚化し、豪雨による浸水で被災地に入れないなど、これまでの機材では対応できない事象も発生しています。そこで自力で被災地にたどり着き、通信の復旧ができるよう『水陸両用車』や『四輪バギー』など、さまざまな災害対策機材を導入・検討しています。
そして、東日本大震災から10年後に仙台で災害訓練対策を行ったのは『いまはより安心して携帯電話をお使いいただけるようになっています』と、東北のみなさんにお伝えしたかったからです」
大災害が起こったときに通信というインフラがあれば、人々に「安心」を届けることができ、要救助者の発見を支援することもできる。だからこそ、災害時には少しでも早く通信を復旧できるよう、KDDIは日々、災害対策訓練を行っている。災害にも強い通信ネットワークを構築することがKDDIの使命なのだ。
文:TIME&SPACE編集部
写真:魚住一夫
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