2020/08/25

自衛隊ヘリから降下も 7月豪雨災害に対応したKDDIの基地局復旧作業の全記録

2020年7月に発生した豪雨災害(令和2年7月豪雨)は、熊本県を中心に九州、中部、東北地方をはじめ、広範な地域において甚大な被害をもたらした。

令和2年7月豪雨により濁った熊本の河川 令和2年7月豪雨により濁った熊本の河川

豪雨のなか、九州各地で発生した停電や土砂災害の影響で、通信に不可欠な基地局も大きな被害を受け、一部の地域では一時的に携帯電話やインターネットがつながりにくい状況が続いた。

本記事は、令和2年7月豪雨によって被害が発生した熊本県の基地局の復旧にあたったKDDIスタッフたちの記録である。

7月4日4時50分、大雨特別警報が発令

2020年7月4日4時50分、気象庁は熊本県に大雨特別警報を発令した。猛烈な雨が一気に降り注ぎ、警報が発令されてからわずか1時間後には球磨川が氾濫する。

その頃、九州エリアの通信インフラの保守運用を行っているKDDI西日本テクニカルセンターの水田秀之は事務所に向かっていた。

KDDI西日本テクニカルセンター 水田秀之 KDDI 運用本部 西日本テクニカルセンター 福岡フィールドG 水田秀之

これほどの雨だ。河川の氾濫、土砂崩れなどの影響を受け、携帯電話基地局の電源や回線が喪失し、基地局が停波してしまうことは容易に想像ができた。ましてや今回の豪雨は明け方のできごと。避難準備が間に合わず、自宅に取り残された住民も数多くいることだろう。いつ家屋が流されてもおかしくない。

災害時に通信が止まることは、お客さまの命にかかわる可能性がある。事務所に到着した水田は、すでに参集していたスタッフに向かって声を張り上げた。

「お客さまの命のためにも、一秒でも早く、通信を復旧させるぞ!」

豪雨によりいたるところで道路が寸断

「水田さん! 道路が寸断されていて、これ以上先には進めそうにありません」

現地班から次々と上がってくる報告を聞き、水田は頭を抱える。

令和2年7月豪雨によって土砂崩れが発生した道路

球磨川流域周辺では、各地で土砂崩れや道路の崩落などの被害が相次いでおり、一部の地域では陸路から基地局の確認に向かうのは困難だったのだ。行ける範囲から基地局の状態を確認し、アンテナなどの通信に必要な設備をクルマに搭載した「車載型基地局」や、基地局の各設備を小型化して持ち運びができるようにした「可搬型基地局」を速やかに出動させ、復旧対応を進めていく。

この数年間だけでも大きな自然災害に何度も見舞われた九州だが、「数十年に一度」と呼ばれたこれらの災害よりも今回の事態は深刻であると水田は感じていた。

令和2年7月豪雨によって土砂崩れが発生した道路

避難所で実感した通信の重要性

水田が復旧対応を始めたのと時を同じくして、九州地域での災害時に最前線で戦うメンバーのフォローや統制を担うKDDI九州総支社の古賀理一も被災地支援を開始していた。

KDDI九州総支社 古賀理一 KDDI 九州総支社 管理部 古賀理一

避難所に公衆無線LANや充電設備の設置を行っている傍ら、地元住民たちが集まってきて古賀らに声をかける。

「自宅のここまで水がきたんだ、もう少しで俺は死んでいたかもしれない」と、そのときの写真を見せてくれた方。ダムを放流するかもしれないという連絡を受け、「もし、放流が実施されていたら自宅がなくなっていた」と話してくれた方。自宅周辺が圏外のために、「電波がつながる場所を求めて数kmさまよった」という方。他社の携帯がつながらず困っていたが、「公衆無線LANのおかげで自分の安否を伝えることができた」と感謝してくれた方。

令和2年7月豪雨で被災した方々の避難所

それぞれの方が語ってくれる話を聞きながら、古賀は彼らの話には必ず「携帯」や「通信」が関係していることに気づく。自分たちが日々行っている業務は、誰かの安心につながっている。あらためて、自分たちの仕事への責任を感じていた。

自衛隊への協力要請

「お客さまのために通信を」

その言葉を胸に、水田と古賀はこまめに連絡を取りつつ、できる対策を一つひとつ実行していった。しかし今回の豪雨による被害は大規模かつ広範囲にわたっており、熊本県南部に位置する山江村や相良村といった一部の地域には、まだ直接足を踏み入れることができずにいた。

通信を届けることができない住民の方たちは、いまこの瞬間も不安な気持ちと戦いながら通信の復旧を待っているはずだ。

「通信事業者としての責務を果たす、お客さまに電波を届けるんだ」

KDDI九州総支社と陸上自衛隊西部方面隊のミーティング

水田と古賀は、KDDI九州総支社と災害時における通信確保のための相互協力に関する協定を結んでいた陸上自衛隊西部方面隊に、協力要請を行うことにした。

ヘリから見た被災地の現実

えぐり取られた道路、土砂によって押しつぶされた住宅。事前視察のために自衛隊のヘリコプターに乗り込んだ水田と古賀の目の前に被災地の凄惨な光景が広がる。

令和2年7月豪雨による土砂崩れ

「これほどまでとは……」

被災地の現実を前にして言葉を失うふたりの胸中に不安が走る。上空からいくら探してみても、ヘリを降ろせる場所がないのだ。陸路もだめ、空路もだめ、ではどうすればいいのか。水が引き、瓦礫が撤去されるのを待つことはできない。

令和2年7月豪雨による土砂崩れ

「ヘリコプターから人員と物資だけを降下させることはできないでしょうか?」

無茶を承知で、水田は陸上自衛隊西部方面航空隊に提案した。KDDI社員にヘリから降下したことがある経験者などいない。もちろん陸上自衛隊側も、未経験の通信技術者をヘリから降下させた経験などなかった。

「……わかりました。やってみましょう!」

水田の熱意に心を動かされただけではない。近年の災害救助活動の経験から、被災地における通信の重要性を隊長も十分に理解していたのだ。

初めてのヘリからの降下

急遽決定したヘリコプターからの降下作戦。KDDIの現地班から4名が選抜され、降下に備えて訓練を始める。

自衛隊員から降下訓練を受けるKDDIスタッフ

自衛隊員に抱き抱えられた状態とはいえ、地上10〜15mの高さを飛ぶヘリからの降下である。怖くないわけがなかった。

「降下!」

かけ声のもとひとり、またひとりと地上に降り立つメンバーたち。「これで孤立した地域のお客さまに電波を届けることができる」。KDDIスタッフも、自衛隊員も、胸中にある思いはひとつだった。

復旧に向けたそれぞれの役割

復旧対応を阻む障害はすべて取り除かれた。だが、令和2年7月豪雨の被害により停波したKDDIの基地局は103局にものぼる。そのため、車載型基地局や可搬型基地局などを各地から集結させ80台を設置、また停電対策として移動電源車やポータブル発電機を46台配備した。

各々がそれぞれの持ち場で、自分の役割を、通信事業者としての責務を果たしていく。ある者は車載型基地局の設営、また、ある者は停電している地域の基地局を稼働し続けるためのポータブル発電機の給油部隊として。

令和2年7月豪雨による瓦礫道を歩く

水田も自ら率先して重さ20kgほどのポータブル発電機を担ぎ、足元が不安定な山道を1時間半ほど歩いて基地局を目指す。

令和2年7月豪雨による瓦礫道を歩く

基地局にたどり着くと、故障した箇所を修理。停電している地域ではポータブル発電機をつなぎ、電気が復旧するまで数時間おきに給油作業を続ける。

基地局を復旧させるKDDIスタッフ

復旧にあたっているメンバーたちも安全を第一とし、慎重に事を進めるが、作業場所によっては、被災した方々と同じように通信がつながらなくなることがある。

「作業をしているメンバーと連絡が取れなくなると不安になります。そのたびに、お客さまはその何倍も不安なはずだと、早急な復旧作業の必要性を再認識しました」

「守りたいからこそ攻め続けたい」

私たちの取材の最後に水田はこう話してくれた。

「僕らの仕事は通信環境を維持すること。そのため、“守る”という印象を持たれがちですが、逆なんです。守り続けるからには常に攻めの姿勢でいなければなりません」(水田)

続けて古賀はこう語る。

「今回の復旧では、陸上自衛隊西部方面隊や自治体の方々をはじめ、KDDIのさまざまな部門のスタッフと協力し合い、復旧対応にあたることができました。今後も、みなさんと連携しながら通信を守っていきたいと思います」(古賀)

「みなさんのお力をいただいたからこそ、今回の対応ができました。大変感謝しております」(水田)

毎年のように起こる自然災害。自然の大きな力に抗うことは容易ではない。それでもKDDIは、お客さまの安心安全のために通信を守り続ける。

自衛隊のヘリコプターの前に立つKDDIスタッフ

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