2019/12/24
通信を止めない! 台風被害のなかスマホをつなぎ続けたKDDI『給油部隊』
震災の記憶と経験を、つなぐ
2011年3月11日14時46分、東日本大震災が発生。地震の影響によって、東北地方への中継ルートの一部寸断、通信設備が倒壊するなど、携帯電話の通信サービスは一時的に利用できない状況に陥った――。
「あの日を絶対に忘れない」
「いかなる状況であっても情報通信サービスをお客さまに届ける」
KDDI社員の胸に刻まれたその思いは、翌年4月、運用管理部「特別通信対策室」としてひとつの形になった。東日本大震災の経験を教訓に、災害にも強い通信ネットワークを構築し、災害が起こったときには、いち早く通信エリアを復旧することを目的に新設された。
2019年10月12日18時、台風19号が伊豆半島に上陸。その後、東日本1都12県に大雨特別警報を出させるほどの非常事態を招いた。台風15号の爪痕が残る千葉県では、再び大規模な停電が発生。通信に影響が出ているのは明らかであった。
危機管理の最前線基地
非常時にKDDIの危機管理最前線基地となるのは、東京・KDDI新宿ビル内に設置されている「運用対策本部 新宿危機管理対策室」。災害発生時時には、ここに運用管理部をはじめとするメンバーが集まり、復旧対策の指揮を執る。
2019年に発生した台風15号、19号による被害発生時には、彼らの尽力によってKDDIは迅速な携帯電話の通信エリア復旧を果たすことができた。その裏には、部門を超えて志願者により特別編成された「給油部隊」の努力があった。
災害時に土砂崩れや停電によって基地局の電源が停止した場合、緊急対応としてポータブル発電機を活用して電源供給を行い、基地局を再稼動させる。しかし、ポータブル発電機を動かすガソリンの容量は多くなく、1回の給油では4時間程度しか発電することができない。基地局を稼働させ続けるためには、1日に6回の給油を行わなくてはならないのだ。
一度、復旧した以上、再び基地局を停波させることは絶対に許されない。「給油部隊」の昼夜を問わない対応によって、電気が復旧するまで再び停波することなく、被災地の通信環境を維持することができたのだ。
近年、自然災害は大規模・激甚化する傾向にあり、従来の復旧体制では対応が困難になってきている。
「通信を守るために、全社一丸となって対応するしかない」
KDDI 運用管理部の小林諭と長嶋崇は、部門の壁を超えた復旧体制の構築を決意。2019年度から特別編成の「給油部隊」が組織化された。
使命感に突き動かされて
2019年9月の台風15号および10月の台風19号発生時には、部門を超えた約100名の社員が志願者として「給油部隊」に名乗りを上げた。
台風19号の発生時に志願したメンバーのひとり、鈴木善之(技術企画部)は「実は4年前に『特別通信対策室』に在籍していました」という。災害発生時に現場がどれほど過酷な状況に置かれるか、自らが最前線に関わっていた経験から理解していた。
福嶋洋一郎(技術企画部)は、「15年ほど前に基地局の保守業務を担当していたので、現地の様子は容易に想像がつきました」と語る。鈴木も福嶋も現在は技術企画部で別業務に携わっているが、「少しでも自分たちにできることがあれば力になりたい」と給油部隊への参加を志願した。
山口浩(エリア設計部)は「台風15号のときには支援に行くことができなかったから、今回は絶対に参加したかった」と早々に参加を決意したという。
西日本豪雨での復旧対応も経験した久染忠弘(エリア設計部)も「自分も現地に行かなければと、考えるよりも先に体が動いていました」と話す。
彼らはこれまでに、被災者にとって携帯電話がいかに頼みの綱になるかを、まざまざと思い知らされてきた。だからこそ、居ても立ってもいられなかったという。
停電、闇に包まれた街で
2019年10月13日19時、運用管理部からの号令を受け、台風19号の被災地である千葉県南部を目指す車中。第一陣として出発した山口と久染は、不思議な感覚にとらわれていた。大規模な停電に見舞われたその街を明るく照らすのは、山口らが乗る自動車のヘッドライトのみ。まるで街全体が眠っているかのように暗く、そしてなにより静かだった。
「こんな経験は初めて。東日本大震災のときともまた違う、異世界のようでした」(久染)
16日11時。第二陣の福嶋と鈴木は給油先の基地局に向かう車中で、災害の生々しい爪痕を目の当たりにする。
「見渡す限りの家屋の屋根がブルーシートで覆われているんです」
「いたるところで樹木の倒伏や土砂崩れも発生していました」
と、2人は現地の状況について語った。ニュースでは報道されていない現地の状況を次々に見て、台風19号による被害がいかに大きかったのかを実感した。
土砂崩れなど危険な状況で、夜間は近寄れない基地局もあった。そのため、給油部隊は綿密なスケジュールを立案し、基地局ごとに給油するタイミングに細心の注意を払った。電気が復旧し始めてからは、復旧した地域に給油部隊が向かってしまうことがないよう、メンバー間でチャットツールを使い、常に状況の情報更新を行い続けた。
時々刻々と現地の状況が変わるため、給油部隊の行動も当初の計画通りにはいかないことも多かった。危険と背中合わせの状況だったが、黙々と給油活動に臨む隊員たち。彼らを突き動かしていたのは、通信会社で働く従業員としての使命感だった。
最前線を支えた、誇りと使命感
「ライフラインを守ることは、通信会社としての責務ですから」
携帯電話で必要なときにすぐ情報が得られる今、災害時に“当たり前”ができなくなると、お客さまは不安に陥ってしまう。だからこそ、通信を途切れさせることはできなかった。
「『ずっと、もっと、つなぐぞ。au』を合言葉に、運用本部やパートナー企業のみなさんが365日、大切な通信基盤を守ってくれています。今回の台風では、技術部門以外の事業部門や全国の支社でもたくさん対応されたと聞いています。これからも緊急時には部門の壁を超えて、『みなさんとともに365日守ることが使命』という気持ちで頑張っていければと思います」
給油部隊の隊員たちは口々にそう語った。
進化を続ける災害対策
台風19号による復旧対応では、全国各地から数千名の人員が駆け付けた。だが、それでもまだ納得のいく結果は得られていない。事前に影響がおよびそうな地域を想定したうえで復旧準備を進めていたものの、一部の地域では復旧が1日遅れてしまったのだ。
「自然災害を防ぐことはできません。ですが経験を次に生かすことはできます。給油部隊も含め、復旧対応に参加してくれたみなさんから上がってきた課題を、次の災害が発生するまでにひとつずつ確実に潰していく。短時間で効果的な復旧ができる体制を整えていくことが我々、特別通信対策室の使命だと思っています」と、KDDI 運用管理部の小林と長嶋は力強く語った。
「次は1日の復旧遅れも許さない」……進化を止めない彼らの災害対策への決意は固い。
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