2020/08/14
音楽コンクール中止の合唱部にエール! Nコン課題曲リモート合唱を『音のVR』ライブ配信した舞台裏
2020年7月31日、東京芸術劇場で東京混声合唱団が出演する「コン・コン・コンサート2020」で、「新音楽視聴体験 音のVR」アプリによるライブ配信が初めて行われた。
「コン・コン・コンサート」は、「NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)」や「全日本合唱コンクール」のコンクール参加者に向けて、課題曲の新たな音楽的アプローチの提示を目的に開催されている。今年は、新型コロナウイルス感染症の影響でこれらのコンクールが中止になったことを受け、東京混声合唱団とKDDIは、コンクールに参加できない全国の中学や高校の合唱部のみなさんに、一緒に歌う楽しさや思い出を提供しようと、中高生とリモート共演するコンサートの模様を「音のVR」でライブ配信することを企画した。
東京混声合唱団と合唱部の思いを新しい音楽鑑賞で具現化
こちらが「音のVR」によるライブ配信の模様だ。
「音のVR」とは、KDDI総合研究所が開発した独自技術で、スマホやタブレットでコンテンツを再生し、見たい・聴きたいパートにフォーカスすることで、さまざまな音色を楽しみながら臨場感あふれる音楽視聴体験ができる。
「新音楽視聴体験 音のVR」アプリのダウンロードはこちら
※2020年8月3日現在、iOSのみでの配信となります。
ではさっそく、「新音楽視聴体験 音のVR」のデモムービーをご覧いただこう。
今回、ライブ配信したのはNコン2019年高校の部課題曲の「僕が僕を見ている」と、同じく中学の部課題曲の「君の隣にいたいから」の2曲。
ステージ上のスクリーンに中学・高校合唱部の歌唱映像が投影され、それを東京混声合唱団が取り囲むようにして、ソプラノ・アルト・テノール・バスの四部合唱を行う。視聴者は、スマホやタブレット上に映し出された360度映像をスクロールさせて好きな箇所を見たり、ピンチアウトして気になるパートを拡大することで、その歌声に寄ることができ、まるで会場にいるかのような疑似体験ができる。
「逆境での新しい表現のひとつとして」(東京混声合唱団)
「コン・コン・コンサート2020」の公演/配信にはさまざまな立場の人が関わっている。コロナ禍で活動自粛を余儀なくされているなかで、全国の中高生合唱部を激励すべく本公演を企画した東京混声合唱団。その趣旨に賛同し、参加してくれた中高合唱部のみなさん。そして両者をつないで、その思いを通信のチカラで届けるKDDI。
それぞれが、どのような思いで参加し、協力し、つくりあげていったのか。
東京混声合唱団はこの日、5カ月ぶりの公演となった。コロナ禍での相次ぐ公演の中止にともない、リハーサルもすべて中止。リモート演奏に挑戦し、積極的に活動を続けてきた。
この公演の開催決定後、まず「歌えるマスク」の開発に着手。上部はワイヤー入りで鼻にフィットし、下部は通常のマスクよりもロング丈で鎖骨のあたりまで覆う。締め付けがないので呼吸を妨げず飛沫は防ぐ構造になっている。試行錯誤の末、実用の目処が立ってからマスクを付けて、半数ずつのメンバーで練習を再開。そして、来場者を絞り、客席でも舞台上でもソーシャルディスタンスを守って、32人で歌う今回のコンサートを実現した。
東京混声合唱団事務局長の村上満志さんは、今回、観客を動員した状態でこのコンサートを開催した背景について語る。
「コロナ以降、日本で合唱の演奏会が行われるのは初めてです。きっと、全国の合唱団の方々が注目してくださっていると思います。人と人との距離感や、今回私たちが装着している『歌えるマスク』など、今後合唱していくうえでの心構えをできるかぎり具現化しました。
“なにが安全か”だけを考えるなら、なにもやらないのがベスト。でも、私たちは安全面に最大限、配慮しながら、さまざまな制約のなかで一歩踏み出しました。いま自分たちが置かれている状況をすべてポジティブに捉え、新しい表現へのヒントだと考えて、前に進みたいと思っています」
そして、その目は全国の中学・高校合唱部にも向けられている。
「コンクールが中止になってしまった中学・高校の合唱部のみなさんに力を取り戻してほしい。その思いで、リモートではありますが一緒に歌える機会をつくりました。今回は、映像で合唱に協力いただいた中高生のみなさん、視聴いただいている中高生のみなさんが主役だと思っています」(村上さん)
東京混声合唱団の団員のみなさんも熱い思いを語ってくれた。
「映像との共演や『音のVR』での配信は、コロナ禍での新しい表現のひとつだと思います。目に見えている映像をズームするとその部分の音に近づいたように聴こえるなんていう、夢にも思わなかった技術がこうしてライブでも配信できるようになるなんて! アップデートしていく技術と連携して、さらに表現が多様化していけば面白いですね」(テノール・秋島光一さん)
「合唱部のみなさんの表情を見て、“声を合わせて歌うことがこんなに楽しかったんだ!”と、再確認させられました。何カ月ぶりかに集まって歌う笑顔に、合唱はこんなにうれしくて気持ちいいことなんだなって、あらためて実感しました」(ソプラノ・松﨑ささらさん)
この日、指揮を執ったキハラ良尚さんは「今こうしてコンサートを実現できたことに感謝です。合唱部のみなさんのすごく素敵な動画に、私たちが声を合わせて共演することはまさに化学反応といっていいですよね」と語った。
「みんなで一緒に歌える機会になった!」(桐光学園・多摩高校)
合唱部のみなさんはどうコロナ禍を過ごし、このコンサートにどんな思いで参加してくれたのだろう。今回、参加したのは桐光学園高等学校と神奈川県立多摩高校、そして桐光学園中学校と町田市立鶴川第二中学校。このうち桐光学園と多摩高校にお邪魔し、話を聞いた。
2月末からの休校措置が解除になったのは6月に入ってから。本来ならば、夏のこの時期は両校とも、11月に予定されていたNコンに向けての練習の真っ最中だったという。
桐光学園合唱部を指導する上田武夫先生は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を振り返る。
「桐光学園の場合、合唱部の主軸は2年生で、毎年、進級直前の3月いっぱいで実質引退ということになっています。部活の最後となるタイミングで大切なイベントが数多く中止となり、今の3年生は、合唱部の集大成を体験することなく引退してしまったんです。さらに今の2年生は、今年のコンクール中止を受けて、去年参加したのが最後のコンクールになってしまいました」
「今回の企画では、リモートではありますが東混さんと一緒に歌える機会をいただき、収録では、3年生も参加してくれて、みんなで歌えたことに涙を流している子たちもいて、生徒が歌う楽しさをあらためて実感していたことを、とてもうれしく思いました」
2年生の新部長・森愛珠さんにも話が聞けた。
「在宅期間中には先の見えない部活と、部員たちのモチベーションの維持に悩んだこともありました。今日は3年の先輩方も来てくださって、去年のメンバーで一緒に歌えるのがすごくうれしいです。桐光らしさを出して、聴きに来てくださるお客様に元気になっていただけるような歌の一部になれればと思います」
多摩高校合唱部を指導する福王寺佑子先生もまた、部活の区切りがつけられずもどかしさを感じていたという。
「多摩高校合唱部は毎年3月に定期演奏会を開催しています。3年生になっても部活に残ってコンクールを目指す子も、受験に向けて部活を離れる子も部活を一旦締めくくるための場なんです。それが今年は休校措置のため中止になってしまい、さらにコンクールまで中止になったので、宙ぶらりんのままになってしまったんです」
「だから余計にみんなで歌いたいという思いがあって。でも私がその場を用意することはできない。そんななかで今回のお話をいただきました。いつもは合唱部の子たちに相談して決めるんですが、このお話は二つ返事で“やりたいです!”って答えていました。絶対みんな喜ぶだろうって思ったし、私自身もすごくうれしくて」
収録には、残った3年生はもちろん、仮引退し部活を離れた3年生たちも姿を見せ、総勢15人であらためて一緒に歌う機会を得た。
3年生の谷口明日香さんは率直な気持ちを話してくれた。
「定期演奏会とコンクールがなくなっても部活を続ける気持ちは揺るがなかったんですが、“やりきれるものがほしいな”って思っていました。そこに“間近なゴール”というか、こんな状況下でも歌える場を用意していただいて……。人って、あまりにうれしいときには呆然としちゃうんだなということをはじめて体験しました(笑)」
また、収録現場で両校の生徒さんたちに「音のVR」を試してもらった。
「管楽器や低音のコントラバスを集中的に聴けるのはすごくいいなと思いました。個人的には中低音の楽器が好みなので、裏旋律や対旋律を自分で選んで寄って聴けるのがすごく楽しい!」(桐光学園2年女子)
「拡大したらパートの声が、その場にいるような感じで違和感なく聴こえて、練習を収録しても使えますね」(桐光学園2年男子)
「普通の動画で見るよりも、はるかに音圧を感じます。自分がホールにいて、それぞれの歌い手さんに寄っていっているような感覚」(多摩高校3年男子)
収録を控えた緊張の時間帯にも関わらず、みんな例外なく盛り上がってくれた。
「場の空気感をリアルタイムで共有」(KDDI)
今回のコンサートでの新たな試みについて、音のVRを開発したKDDI総合研究所の堀内俊治は、多くの知見が得られたという。
「舞台上の合唱団のみなさんとスクリーンに映った中高生のみなさんの合唱を会場でもアプリでも違和感なく見て聴いていただくために、音と映像の撮影収録方法や投影再生方法、照明も含めて、実際の舞台でリハーサルすることではじめてわかることがありました。
音のVRは、現場の音と映像により、場の空気感を伝えられる技術だと思っています。それがライブならば、同じ時間も共有できることになり、より一層感動をお届けできるのではないかと思いました。今回は特に、コンクールがなくなった中高合唱部のみなさんと一緒に歌う、という象徴的な試みですので、ライブでやれて本当に良かったと思っています」
ネット上には、「コロナ禍に立ち向かう姿に感動を覚えました」「中高生の姿見てたら、涙があふれてきました」「こんな世の中だけど合唱やめてたまるかよ」「一緒に歌いたい」というコメントが多く寄せられ、舞台からの思いが広く届いている様子がうかがえた。
ライブパフォーマンスや、それを現場で鑑賞することが容易ではなくなってきている昨今、「音のVR」のような通信のチカラが果たす役割は大きくなってくるだろう。社会課題の解決や、ワクワクを提案し続けるために、KDDIはこれからもパートナーとともに新しい体験価値を提供し、社会の持続的な成長・発展を目指していく。
文:TIME&SPACE編集部
写真:落合由夏
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