2019/12/26
総延長は地球30周分! 日本と世界の国際通信をつなぐ『光海底ケーブル』のヒミツ
太平洋を望む千葉県南房総市に位置する、「KDDI千倉海底線中継所」。日本と世界の通信ネットワークをつなぐ光海底ケーブルを文字通り「中継」する、とても重要な場所だ。
2019年9月、日本と東南アジアを結ぶ光海底ケーブル「SOUTH EAST ASIA-JAPAN 2 CABLE(以下SJC2)」がこの地に陸揚げされた。陸揚げとは、海底に設置されてきたケーブルを地上に引き揚げる作業のこと。
「SJC2」は日本とシンガポールを直接つなぎ、韓国、中国本土、台湾、香港、ベトナム、タイに分岐する、総延長約11,000kmの光海底ケーブルだ。東南アジア・東アジア間の通信需要の増加に対応し、各国のデジタル化や技術革新を促進する役割を担うことが期待されている。
国際間の通信需要が増えるにつれて、どんどん増える光海底ケーブル。さて、そもそも光海底ケーブルとはどういうものなのか? 総延長約11,000kmもの光ケーブルをどうやって海底に敷いているのか? そして、光ケーブルを使ってどのように通信しているのか?
本記事では、国際通信の仕組みともいえる光ケーブルにまつわる不思議を紐解いていく。いったい世界の通信ネットワークはどうやってつながっているのだろうか。
そもそも光海底ケーブルってなんだろう?
光ケーブルとは、光ファイバーという髪の毛程度の細さの透明な線を束ね、周囲を保護したケーブルのこと。電気信号を光の信号に変換して、光ファイバーを通すことで通信する。電気信号を金属の線に通すメタルケーブルで送信するのに比べて、長い距離を伝送しても減衰が少ない特長がある。
また、1本の光ファイバーでも、光の波長(色)や位相情報などを利用して複数の信号を同時に送信できるので、より大量の情報を送ることができる。こうした技術の組み合わせにより、高速大容量の通信が可能になる。
短波無線から通信衛星と海底ケーブルへ
ここで国際通信の歴史を振り返ろう。20世紀中盤、国際通信サービスが始まった頃に用いられていたのは短波無線だ。しかし、電離層による反射を利用して長距離を通信する短波無線は、通信品質が不安定だった。また、利用できる周波数に限りがあるため、国際通信の需要増加につれて帯域がひっ迫してしまう。そのため、より安定して大容量の通信ができる通信手段が必要となった。
そこで短波無線に取って代わったのが、通信衛星と海底ケーブルだ。1964年の東京オリンピック中継では、衛星中継により競技の映像が世界中に配信された。同年、KDD(KDDIの前身)やアメリカの通信会社AT&Tなどにより太平洋横断海底ケーブル「TPC-1」が開通し、1990年まで日本とアメリカ西海岸の通信をつなぎ続けた。
その後も国際通信需要は急速に増大。通信衛星は電波を使用するため、地上の通信インフラが限られる南極のような場所や、災害時などでも安定して通信できるという長所があるが、その反面、通信容量の拡大には限界がある。一方で海底ケーブルは、技術革新により大容量化を進めていくことができる。こうして海底ケーブルはメタルケーブルから光ケーブルへ進化し、さらなる大容量化が進むこととなった。
大リーグの試合も「光海底ケーブル中継」
いまや国際電話やインターネットの通信だけでなく、国際間のスポーツやニュースの映像中継も光海底ケーブルにより行われている。高度36,000kmの静止軌道上にある通信衛星を利用した中継に比べ、地球の海底にある光海底ケーブルを使った中継のほうが伝送距離が短いため、タイムラグがほぼなく、高品質な映像を世界中に配信できる。
そもそも、KDDIの光海底ケーブルの中継所が千葉県南房総市にあるのは、ここが北米とユーラシア大陸諸国を結ぶ線上にあるから。日本とアメリカ、日本からアジア諸国の両方に最短距離で届く場所なのだ。
日本から海外への通信は、国内の光ネットワークを通ってここに集まり、光海底ケーブルに乗り換えて世界に届く。そして日本国内向けの通信も世界中からここに集まり、国内の光ネットワークを通って日本中に届けられている。TwitterのつぶやきもInstagramの写真もYouTubeの動画も、みんな光海底ケーブルを通って手元のスマホに届いているのだ。
光ケーブルの総延長は、なんと地球30周分!
最新の光海底ケーブル「SJC2」の最大設計容量は、1FPあたり18Tbps(テラビットパーセコンド)。家庭用の光インターネットの最大容量が1Gbps(ギガビットパーセコンド)程度なので、およそ14万倍ものデータを送受信できる。
1本の長さが数千km以上にもなるケーブルを敷設するのは、「ケーブルシップ」と呼ばれる船だ。あらかじめ敷設する長さのケーブルを陸上でつくり、綿密なテストをしたうえで積み込む。長いケーブルの場合、積み込みだけでも1カ月以上かかるのだという。
ケーブルシップはゆっくりとケーブルを海底に降ろしながら、目的地に向かって進む。ケーブルは海底を這わせるように敷設され、陸地に近い水深の浅いところでは、ロボットを使った埋設も行われる。両端の陸揚げは、沖合に停泊したケーブルシップから、ケーブルの先端に結び付けたロープを陸地まで引っ張り、引き上げる。
こうして世界全体では、延べ120万km、およそ地球30周分もの長さの海底ケーブルが張り巡らされている。
数千kmの長さをどうやって通信しているの?
数千kmの長さを通信するためのケーブルには、さまざまな工夫が施されている。そのひとつが、敷設する水深によって太さを変えていることだ。
水深が浅いところでは、潮流や波で揺らされたり、船舶や漁網に引っかかって破損するリスクがあるため、光ケーブルの外側を鋼鉄線で補強した外装ケーブルを使用する。一方で、深海では、海流の動きがほとんどないため、軽い無外装ケーブルを使用するなど、深さによって何段階か太さを変えることで、なるべく軽く、かつ丈夫なケーブルシステムを実現している。
もうひとつの工夫が、「海底中継器」による光信号の増幅だ。電気信号に比べて減衰の少ない光信号だが、さすがに数千kmの距離を一気通貫で到達するのは難しい。そのため、光海底ケーブルには数十kmごとに海底中継器が設置されている。到達するまでに弱まった光信号を再度増幅し、次の海底中継器にリレーすることで、より遠くへと到達させることができる。
もし、光海底ケーブルが切れたら?
こうして丁寧に敷設されている光海底ケーブルだが、故障することはないのだろうか。答えはもちろん、「ある」。しかし、光海底ケーブルは24時間体制で監視し、故障した際はほかの光海底ケーブルを迂回することで、通信が途切れない仕組みになっている。
切れたケーブルをつなぎなおすには、まずどこで切れたかを特定しなければならないが、そんなときにも海底中継器が役立つ。どこの海底中継器まで信号が届いているかがわかれば、その先の海底中継器との間に障害箇所があることがわかるからだ。
ほかにもさまざまなテストを行い、だいたいの位置を特定したら、ケーブルシップで現地に向かい、海底作業ロボットで切断箇所を探し、船上に引き上げて接続する。接続時に少しでもずれると通信できなくなってしまうため、細心の注意を要する作業だ。さらに、ケーブルシステムによって使用するケーブルが異なっており、作業担当者には高度な知識と技術が求められる。
故障の原因として多いのが、底引き網などの漁具にひっかかってしまうというもの。海底の岩に擦れて切れてしまうこともあるほか、大きな地震が発生したときには地滑りや海底の地形の変化により、複数のケーブルが複数の地点で同時に切断されることも珍しくない。東日本大震災のときには、20地点以上の切断箇所を4カ月以上かけて修復したという。
世界をつなぐ通信網を支え続けるために
いまや光海底ケーブルは世界の通信の99%を担う大動脈、欠かせないインフラとなっている。そのためKDDIでは2014年4月に、大規模震災発生時でも津波の影響を受けない海抜約28mの高台エリアに「千倉第二海底線中継所」を開設。津波の被害を受けず、かつ仮に被災したとしてもネットワークの早期復旧が図れるような対策を行っている。
国際通信や国際映像伝送など世界をつなぐ光海底ケーブルは、インフラの整備や通信を途切れさせない徹底した対策、日々の丁寧なメンテナンスによって支えられているのだ。KDDIは、これからも世界の通信網を支え続けていく。
文:板垣朝子
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