2019/08/08
富士山がより安全&快適に! 通信のチカラで登山を変えるKDDIの取り組みとは
2019年の富士山は、7月1日に山梨県の吉田ルートが山開きを迎え、7月10日には静岡県側の須走・御殿場・富士宮ルートが開かれ、本格的な登山シーズンの幕開けを迎えた。
真夏なのに寒く、そして白い。御殿場市役所の方によると「この時期のもっとも富士山らしいお天気」だという。この霧ではない雲は、晴れの日でもちょうど五合目あたりの高さにかかるらしい。さすがは日本一の山だ。
ここは静岡県側、御殿場市の御殿場口新五合目にある「マウントフジトレイルステーション(通称:トレステ)」。登山客や観光客に安全啓発や環境保全、富士山にまつわる教育、様々な情報発信を行うため2013年のトライアルを経て、2014年に正式に開設された。毎年7〜9月の山開きシーズンにのみ運営されているコミュニティースペースだ。
KDDIは正式開設以来ずっと「トレステ」に協力している。
いや、それ以前から富士山に関する様々な取り組みを続けてきた。
- 富士山へのKDDIの取り組み
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<2013年> 富士山登山道の携帯電話エリア化。
<2017年> 「富士山登山状況見える化」プロジェクト開始。登山口にセンサーを設置し、登山者数をカウントし、動態を分析。
<2018年> 富士山見える化リニューアル。前年の「富士山登山状況見える化」プロジェクトをもとに期間限定富士登山情報サイト「ミエルフジトザン」を開設。登山者数、温度・湿度のデータも提供。トレステや御殿場ルートの山小屋に翻訳タブレットを提供。
また2018年10月には、遭難者の捜索・救助にスマートドローンを活用する実証実験を御殿場市、ウェザーニューズなどとの協力のもとに実施した。
11月には御殿場市と「包括連携協定」を締結。これは地域が抱える課題に対して、自治体と民間企業などが協力しながら、それぞれの長所を生かして解決を目指そうというもの。KDDIは御殿場市の正式なパートナーとして、地域の活性化のため、引き続き様々な取り組みを行っていくことになった。
そして2019年、KDDIと御殿場市は、登山者や観光客のために4つのサービスを提供することが発表された。
2019年の富士登山には4つのサービスを提供
今年のサービスはいずれも、富士登山や観光がより便利になるというものなのだが、実際どんなふうに役立つのだろう。順番に紹介していこう。
①五合目・八合目・山頂の「登山快適度」をサイトでチェック
昨年開設された夏のシーズン限定の富士登山情報サイト「ミエルフジトザン」をリニューアル。
ポイントは大きく二つあるが、まずは気象情報。御殿場ルート、富士宮ルート、須走ルートという静岡県側3つの登山ルートの、それぞれ五合目・八合目・山頂の情報を提供する。「山岳快適指数」「レインコート指数」「気温」「風速」を、わかりやすいアイコンで表示。
現在だけでなく、3時間後、6時間後の予測も見ることができる。
取材の日、「ミエルフジトザン」でお天気をチェックすると、五合目の「山岳快適指数」は「登山中不快が大」という表示。レインコート指数は「必要」と出た。
山の天気は標高や時刻によって全く異なってくる。富士山の麓では晴れていても、いざ登ってみると大荒れなんてことも普通に起こりうる。事前に情報を入手し、備えておくことが安全な登山につながるのである。
お昼12時過ぎ、御殿場駅前はこんなにも晴れているにも関わらず……。
五合目。記事冒頭でも触れたように、周りはもう真っ白。そして寒い。
2018年の「ミエルフジトザン」では、五合目・七合目の気温と湿度のみを提供していた。これが2019年、「ウェザーニューズ」の最新センサーを各ルートの五合目・八合目と山頂に設置。気温・湿度・気圧・照度・赤外線・風向・風速・雨の強弱という圧倒的に精緻なデータを計測できるようになった。
そのなかの気温・湿度・雨・風速を掛け合わせ、独自のロジックで導き出したのが「山岳快適指数」なのだ。
「ウェザーニューズ」も富士山周辺の気象情報の提供は従来から行っていたものの、「富士山そのもの」の気象情報の測定はこれが初めての試みである。
こちらが「トレステ」に設置された気象観測センサー。「ウェザーニューズ」が全国で運用しているものだが、砂塵防止のためのカバーと、環境省からの指導により景観に合うブラウンの塗装が施されているところが富士山仕様だ。
また、週間予報も表示。
御殿場市などの安全啓発が実を結び、近年では富士山へのいわゆる「軽装登山者」は減少傾向にあるという。だが登山客や観光客は増加。引き続き安全な登山のための情報を発信していくことが「軽装登山者」をなくすためにも重要なのだ。五合目、八合目、山頂の細かな気候の違いをわかりやすく示すことは、正しい登山への心構えや準備を伝えることも目的としている。
②五合目駐車場の混雑度合いもサイトで事前にチェック!
「ミエルフジトザン」の二つ目の大きなリニューアルポイントが駐車場の混雑状況案内だ。
富士山の登山口は、山梨県側の吉田ルート、静岡県側の富士宮・須走・御殿場ルートの4カ所だ。このうち御殿場ルート以外の3カ所に関しては、夏のシーズン中、マイカー規制が行われる。マイカーが行けるのは麓の駐車場まで。そこでバスに乗り換え、登山口にアプローチすることになる。唯一、御殿場口新五合目だけが、夏の登山シーズンでもマイカー規制がなく、登山口までマイカーでアプローチできるのである。そこで気になるのが駐車場の状況、ということになる。
「ミエルフジトザン」で今年から提供し始めたのが、御殿場口にある2カ所のマイカー用駐車場の混雑状況。
混雑度はアイコンの色で3段階表示。「空き」は青色、「少し混雑」は黄色、「混雑」になると赤色になる。御殿場口新五合目までは東名高速御殿場ICから約30分。到着前にチェックしておけば、駐車場が空いているかドキドキすることもなくなりそうだ。
駐車場入り口に設置されたこのセンサーが混雑情報を提供してくれる。
両端に角度をつけて可視光を発射するセンサーと、中央には赤外線センサーが搭載されている。この3つのセンサーで、何台出入りしたかをカウントする。車体の長さを認識して「クルマである」と判断する仕組みなので、人や自転車、バイクが通過してもカウントされないようになっている。取得したデータは15分ごとにクラウドにアップ。その都度、「ミエルフジトザン」サイトの混雑情報は更新される。
実際に駐車場にクルマがほとんど停まっていない状態で、チェックしてみた。サイト上もアイコンは埋まっていなかった。これを事前に知っていると、現地であたふたすることもなく非常に心強い。
③行き先も料金も観光情報も10カ国語で案内してくれるタクシー
御殿場市は「観光戦略プラン」として、観光振興での地域活性化を目指した5カ年計画を進行中。年間外国人宿泊者数は2016年にはおおよそ1万5000人、これを2020年には2万人へ増やすことを目指している。
そこでKDDIは御殿場市タクシー協会と連携し、3社6台のタクシーに翻訳機能のついたタブレット端末を搭載した。
英語・中国語・韓国語・フランス語・ベトナム語・台湾語・タイ語・スペイン語・ミャンマー語・インドネシア語の10カ国語に対応。言語を選んで話しかければ、運転手さんの手元のモニターに日本語が表示される。運転手さんが日本語で答えれば、その国の言葉に翻訳されてタブレットに表示され、音声でも再生されるのだ。
この「翻訳タクシーサービス」は、6月末からトライアルが行われており我々が乗ったタクシーの運転手さんによると「たいそう重宝している」とのこと。
「『フジサン!』とおっしゃる方に『御殿場口ですね?』って念を押して向かったのに、着いたら『ここじゃない!』ってお叱りを受けたり。英語圏以外のお客さまだと単語すら言えなくて、全然コミュニケーションできなかったんです。中国や、最近とくにタイからのお客さまがすごく多いので。それが翻訳タブレットのおかげで、運転に集中できるようになりました。事前におおよその料金をお知らせしておいて、トラブルも回避できるようになりましたし」
また翻訳だけでなく、御殿場市が制作した観光情報も提供されている。御殿場市のお楽しみスポットは富士山だけではなく、富士山とともに様々な場所を回遊してほしい、という地域の思いを汲み取ってスタートした取り組みだ。富士登山への安全啓発はもとより、観光情報やおすすめのラーメン店や居酒屋などの情報も10カ国語で見られるのである。
④山小屋もキャッシュレス。「au PAY」でお財布いらず!
御殿場ルートにある2カ所の山小屋で、富士山では初となるQRコード決済サービスの提供がはじまる。QRコード決済「au PAY」以外に「AliPay」「WeChatPay」が使用可能。キャッシュレス大国である中国からの観光客への対応もはかられている。
今年から使えるようになるのは「赤岩八合館」「砂走館」という御殿場ルートにある2カ所の山小屋だ。こちらは標高3,300mに位置する「赤岩八合館」。
宿泊費も食事代もトイレ代もすべて「au PAY」で支払うことができる。
使い方は、会計時にボードのQRコードをスマホで読み取るだけ。
ちなみに筆者は上着のポケットにスマホを入れているので、すぐに取り出して決済することができた。とくに登山の時など、巨大なバックパックの中から財布を探し出すのは非常に億劫だ。それがスマホだけで決済できてしまうがゆえの「お財布いらず」である。支払いがストレスなくできるだけでも大きなメリットを感じた。
富士登山がますます便利に!
KDDIの富士山への取り組みは7年目になる。麓と変わらず携帯電話が使えるよう、登山道のエリア化からスタート。御殿場市と協力し、通信技術を駆使して富士登山をより安全で快適なものにしようと努めてきた。
KDDIとともに富士山の魅力や、安心な登山のための情報を発信してきた御殿場市産業スポーツ部観光交流課の瀬戸祐太郎さんと熊谷友彦さんに、その思いを聞いた。
「観光地として世界的に知られる富士山ですが、山である以上、登山には危険が伴います。これまで御殿場市では『マウントフジトレイルステーション』からの情報発信や注意喚起を通じて成果も出していると思っていますが、まだ十分とはいえません。一層の情報発信ができるよう、KDDIさんとの連携は重要だと考えています」(瀬戸さん)
実際に御殿場市の地道な啓発活動によって、サンダルなどでの軽装登山者は少しずつ減ってきているものの、富士山での遭難や事故は変わらず起きている。情報発信を継続していく必要はある。そして今後、富士山の取り組みとして目指していくのは、「満足度」の向上だという。
「御殿場市のメリットというよりも、富士山に来て楽しかったなという満足度の向上を目指したいんです。そういう意味で、今回のキャッシュレス決済の導入などは非常に期待しています。実際に、山小屋の方からも『現金を準備するよりオンライン上でお金の管理できるのはありがたい』という声も出ています。登山客のみなさんにも快適に過ごしていただけるのではないかと思っています」(瀬戸さん)
登山者や観光客の利便性を高め、体験価値を向上させることが地域への好感につながる。「来てよかった」「またここに来たい」と、利用者に思ってもらうことが何よりの自治体のメリットなのかもしれない。
「駐車場に関しては、御殿場口のみマイカー規制がないので、混雑情報の需要を感じていました。実は数年前から私たちのところに、『クルマで行っていいのか』『今駐車場は空いているのか』といった問い合わせが多数寄せられていたんです」(熊谷さん)
熊谷さんたちの部署は、駐車場の問い合わせ先でもある。そういったいわば「生の声」に応えるかたちで駐車場の混雑度の見える化が実現した。
「今回、KDDIさんが駐車場の混雑情報を提供してくれるようになったのは大きいですね。そうしたお問い合わせに対応しなくても、みなさんが情報を得ることができるのはすごく喜ばしいことだと思います」(熊谷さん)
富士山の本格的な登山シーズンは7月〜9月と短い。毎年、登山シーズン終了時にその年を振り返って、次のシーズンに向けた課題を洗い出す。それをもとに御殿場市、KDDIがそれぞれ提案をし合いながら新たなサービスの開発を行っていく。
「タクシーの運転手さんは訪日外国人観光客のみなさんとうまくコミュニケーションが取れず苦労されていると聞きます。翻訳タクシーの導入はタクシー会社の課題解決につながったのはもちろん、訪日外国人のみなさんにも喜んでいただけています。合わせて観光情報を提供しますので、富士山だけでなく御殿場市全域の見どころをもっと楽しんでいただけるのではないかと期待しています」(瀬戸さん)
「とにもかくにも、目指すは安全登山ですね。事前に様々な情報を提供することできちんと計画を立てて、安心・安全に富士山を楽しんでいただければと思っています」(熊谷さん)
日本の地方創生に、通信のチカラで貢献していく
たとえば、訪日外国人向けのタブレットを利用した翻訳タクシーサービスは、鳥取市や沖縄県でも運用されている。福井県小浜市では、漁師の勘と経験に頼っていた鯖養殖のポイントをデータ化。IoTを活用して養殖の効率化を目指している。また日本の離島の地産品販路拡大やマーケティング支援に関しても、KDDIは通信のチカラで地方創生に貢献している。
通信は私たちの日常生活を支えるインフラであるだけでなく、さまざまな地域が抱えている独自の問題に対し、ときに自治体と、ときに地域住民と協力しながら解決し、地域の未来に向けて新しい体験価値を創造している。
富士登山シーズンはまだまだ半ば。新しいサービスがどんなふうに利用者のみなさんに貢献することができるのか? KDDIの取り組みはまだまだ続いていく。
文:武田篤典
写真:中田昌孝
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