2019/07/11
漁業の課題を通信のチカラで解決したい! IoTを活用したサバ養殖への挑戦
刺し身が美味! 福井県小浜市の「よっぱらいサバ」
近年、日本人の食生活に馴染み深い「サバ(鯖)」がブームになっている。全国各地で新しいブランドサバが続々と誕生しているほか、手軽に食べられるサバ缶も大人気。『ぐるなび』による2018年「今年の一皿」に「サバ」が、そして『クックパッド』による「食トレンド大賞2018」では「サバ缶」が選出されたほどである。
そんななか、日本有数のサバの産地として知られる若狭湾に面する福井県小浜市では「よっぱらいサバ」というブランドサバが生まれ、人気を博している。
このよっぱらいサバの特徴は、餌に酒粕を混ぜて養殖していること。
「酒粕を混ぜた餌を与えることで、一般的なサバと比べてさっぱりした味わいになるんです。ぜひ、お刺身で召し上がっていただきたいですね。脂がしつこくなく、『いくらでも食べられる』とお客様から大好評です」
そう語るのは、“サバ博士”、一般社団法人日本さば文化協会代表理事でもあり、サバ料理専門店『SABAR』を運営する株式会社鯖や代表の右田孝宣さん。
小浜市とタッグを組み、よっぱらいサバを生み出した右田さんは、「小浜産のサバの魅力をより多くの人に伝えたい」と語る。背景にあるのは「小浜のサバを復活させたい」という熱い思いだ。
「鯖、復活」に向けて、養殖に挑戦
小浜市はかつて、若狭湾で捕れたサバを京都へ運ぶ「鯖街道」の起点として賑わった。そんな文化的、歴史的な背景から、2015年、鯖街道は文化庁により「日本遺産」に認定された。それによって注目度が高まった小浜市のサバだが、実は近年、大きな問題に直面していた。
小浜市のサバの漁獲量は、最盛期の1970年代には3,000トンを超えていたが、その後は乱獲などの影響により激減。2014年には1トン弱にまで落ち込んだ。また、漁師の高齢化や後継者不足などの問題もあり、小浜市のサバ漁は衰退の一途をたどっていた。
そんな状況を打破しようと、小浜市は2016年、「鯖、復活」プロジェクトをスタート。かつて大漁で賑わった小浜のサバ漁を、養殖によって復活させようという試みだ。
「鯖、復活」プロジェクトが動き出したきっかけについて、小浜市産業部農林水産課 畑中直樹さんはこう語る。
「鯖街道が日本遺産に認定され、若狭のサバ、そしてサバの食文化を見直そうという機運が高まったものの、漁獲量は減少し、漁師も後継者不足に悩んでいました。そのような状況のなか、かつて多くのサバが漁獲され、鯖街道の起点として賑わっていた小浜を復活させようと、サバの養殖への挑戦を考えたのです」(小浜市産業部農林水産課 畑中直樹さん)
漁師の勘や経験に頼っていた部分をデータ化
サバは繊細な魚で、養殖が難しいとされていた。また、これまでの養殖は漁師の勘と経験が頼り。漁師たちは現場で水温を計り、手帳を見ながら餌やりをしていた。とても手間がかかるうえ、餌が無駄になるなど、非効率な面も少なくなかった。
「鯖、復活」プロジェクトでは、産学官が協力し、養殖の事業化に向けて地元の学術機関である福井県立大学のサポートを受け、サバの幼魚の人工孵化に成功するなど成果を結びつつあったが、この養殖事業をさらに新しい段階に進めるため、それまで漁師の勘や経験に頼っていた部分をデータ化して効率化するべく、IoTの活用に着手。かねてより、さまざまな産業の課題解決のためにIoTを活用した“スマート化”を進めてきたKDDIもプロジェクトに参画し、「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトがスタートした。
プロジェクトを担当したKDDI ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 福嶋正義に、当時の話を聞いた。
「KDDIは2015年から、水産分野におけるデジタル活用に取り組んできました。漁業の課題解決にKDDIの技術や知見が活用できないかという試みです。そうした経緯から、クラウド漁業の右田さん、小浜市の畑中さんと出会い、目的は『漁業者の収益向上!』との思いも一致して意気投合し、私たちも『鯖、復活』養殖効率化プロジェクトに参加させていただくことになりました」(KDDI ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 福嶋正義)
タブレットの導入に漁師さんは反対したが……
このプロジェクトでKDDIは、水温や塩分、酸素濃度を1時間おきに自動で測定、記録するセンサーをいけすに設置したほか、アプリケーションを開発。漁師が手元のタブレットでサバの成育環境をリアルタイムに把握できるようにするとともに、餌やりの記録などもタブレットを通じてクラウド上で管理する仕組みを構築した。
タブレットを導入する際の状況について、福嶋と同じ地方創生支援室の石黒智誠はこう話す。
「当初、漁師さんはデジタル化に反対でした。みなさん普段からガラケーをお使いで、『スマホもタブレットも使ったことがない』『新しい機械は、使い方をおぼえるだけでも大変だ』と。そこで私たちは漁師さんたち、利用者が使いやすいアプリケーションづくりを目指し、スケッチブックに絵を描き、紙芝居のようにして、どんな画面、どんなボタン配置だったら使いやすいかをヒアリングしながら開発を進めていきました。画用紙を使ったアジャイル開発みたいなものです」(KDDI ビジネスIoT推進本部 地方創生支援室 石黒智誠)
小浜市でサバの世話を行う漁師の浜家直澄さんは、「最初は、はっきりと『いやだ』『できん』と言いました(笑)。しかし、実際に使ってみると、こちらのほうがはるかに効率的。もう以前には戻れないですね」と振り返る。
地方が抱えるさまざまな課題を“通信のチカラ”で解決したい
自治体である小浜市が旗振り役となり、現地の漁師の現場を、地元学術機関である福井県立大学の知見を活かし、KDDIがIoTで、鯖やグループのクラウド漁業が流通面でサポートする。それら産官学が一体となることで進行している「鯖、復活」養殖効率化プロジェクト。今後はどのような展開を考えているのだろうか?
「KDDIは小浜市だけでなく、日本全国で、漁業をはじめとした地域の産業の課題解決に向けた取り組みや、当社の持つ先進技術やパートナー企業のノウハウを活用して各地の特色にあった地方創生を進めています。たとえば、宮城県東松島市ではブイで測定した海洋データの分析を行い、サケの定置網漁における漁獲量の事前予測を、長崎県五島市では、ドローン、画像解析技術を活用し、養殖クロマグロの大量死を招く赤潮を早期に検知する取り組みを行っています。これからもKDDIは、漁業に限らず地域産業の現場が抱えるさまざまな課題を通信やIoTをはじめとした当社ならではの技術で解決し、地方を元気にしていきたいと考えています」(KDDI 石黒智誠)
「『鯖、復活』養殖効率化プロジェクトは、自治体や地元の学術機関、現地の漁業者と企業が協力して漁業の課題解決に取り組んだ先進的な事例です。今後、ほかの地域で同様の事例が生まれれば生まれるほど、私たちの取り組みやよっぱらいサバの価値も高まっていくはず。私たちとしても、このプロジェクトで得た知見をほかのケースでも生かしていきたいですし、私たち飲食業が持っていない通信やIoTなどの技術や知見を持っているKDDIさんと連携することで、今後も漁業の現場を元気にするさまざまな取組みをいっしょに進めていきたいですね」(鯖や / クラウド漁業 右田孝宣さん)
勘や経験が頼りの漁業から、IoTを活用した効率的な漁業へ――。その試みはまだ始まったばかりだが、「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトに携わる人たちの熱い思いを聞くと、その取り組みが実を結び、小浜市で捕れたおいしいサバがまた普通に食卓に並ぶ日が来ることを期待せずにはいられない。
なお、小浜市「鯖、復活」養殖効率化プロジェクトの概要は下記の動画でもまとめられているので、ぜひご覧いただきたい。
文:榎本一生
撮影:有坂政晴(STUH)
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