2019/04/16

自転車ながらスマホをなくしたい! 高校生がVR授業で“恐怖”を疑似体験

鶴見大学附属高等学校でVRを体験する高校生

VRゴーグルをした生徒が自転車に乗り、スマホとリモコンを持つ。映像を見ながら頭を上下に動かし、驚いたり、笑ったり……。彼女が見ているのは「自転車ながらスマホ」のVR映像だ。実はこちらは3月に神奈川県の高校で行われたVRを活用した授業の風景。いま、自転車ながらスマホが新たな社会課題になっている。まずはその背景から伝えたい。

自転車ながらスマホは新たな社会課題のひとつ

スマホの利用率が上がるにつれ、歩行中や運転中の「ながらスマホ」によって、さまざまな事故が起こっている。なかでも特に注意したいのが過去に死亡事故も発生している自転車ながらスマホだ。自分がケガをする可能性はもちろん、加害者になった場合は、1億円に近い高額な賠償金を請求されるケースも。

自転車ながらスマホのイメージ

そんな背景もあり、全国で自転車保険の義務化が進んでいる。2019年3月時点で、自転車保険の加入を「義務」としている政令指定都市および都道府県は9自治体、「努力義務」が10自治体にのぼる。そして、この4月からは仙台市(宮城県)が義務化したほか、神奈川県、静岡県、長野県も2019年10月に義務化する予定だ
※2019年3月現在

自転車保険の義務化を推奨する全国の自治体。2019年2月現在 au損保調べ 自転車保険の義務化を推奨する全国の自治体。2019年2月現在 au損保調べ

また、2018年12月には警察庁がながら運転の罰則強化と反則金の引き上げを行う方針を固めた。罰則は、現行の「5万円以下の罰金」から、「6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金」になる見込み
※2019年3月現在

さらに、警察庁の統計データによると、自転車事故の死傷者数は「16歳」がもっとも多い。10代前半および20代は年間約1,500人から2,000人に対し、16歳では約3倍の5,638人にのぼる。16歳といえば、高校での自転車通学がはじまり、行動範囲が広がる時期である。

年齢別で見た自転車乗用中の交通死傷者数(2012年〜2016年/警察庁まとめ) 年齢別で見た自転車乗用中の交通死傷者数(2012年〜2016年/警察庁まとめ)

一方で、内閣府の調査ではスマホの所有率は中学3年生で約5割だったのが、高校1年生で約7割にはね上がり、高校3年生では約9割という結果に。高校1年生にとって身近で危険なものが自転車ながらスマホといえるだろう。
※青少年のインターネット利用環境実態調査(H29年度版内閣府)

日本初! 自転車ながらスマホを防ぐVR授業

神奈川県の鶴見大学附属高等学校

KDDIとau損保は、自転車ながらスマホの撲滅と高額賠償への備えに関する意識向上を目的に、「自転車安全・安心プロジェクト第3弾」として、高校を対象とした、「自転車ながらスマホを防ぐVR授業キット」を作成。VR授業キットを学校に貸し出し、それをもとに先生が授業を行うかたちで、3月19日に神奈川県の鶴見大学附属高等学校で、はじめて授業が実施された。

鶴見大学附属高等学校でのVR授業

自転車ながらスマホと通常運転の違いをVRで体験

鶴見大学附属高等学校でVRを体験する VRを使った授業風景、代表者は自転車に乗って体験

授業のメインは自転車ながらスマホなどを擬似体験できる「STOP!自転車ながらスマホ体験VR」だ。今回は3人1組になって、1人ずつVRを体験する。VRゴーグルとヘッドフォンを装着し、スマホと、VRコンテンツでブレーキを押すためのボタン付きのリモコンを持ってスタンバイOK。

VRコンテンツは、ながらスマホで自転車を運転するリアルな映像からはじまる。

鶴見大学附属高等学校でのVR授業。VRの画面 VRではスマホを手に持って自転車を運転する映像が流れる

目線を手元のスマホに落として運転していると、手前にクルマが現れ、その後ろから歩行者が飛び出してくる。だが、目線はスマホにあるため視野が狭く、注意力も失われている。慌ててリモコンのボタンを押してブレーキをかけると目の前に歩行者が……。そして、画面に数字が表示される。「3.67」なら、歩行者が現れてブレーキをかけるまで3.67秒かかったということだ。

「STOP! 自転車ながらスマホ体験VR」のイメージ 「STOP! 自転車ながらスマホ体験VR」のイメージ

続いて、スマホをもたない通常の自転車運転の映像が流れ、同じように歩行者が飛び出してくる。もちろん、正面を見ているので歩行者を見つけるタイミングが早く、ブレーキの反応も早い。「1.23」など、秒数も当然早くなる。

このように、VRを使って自転車ながらスマホ時と通常運転時の視野やブレーキ反応速度の比較を疑似体験できるのだ。

鶴見大学附属高等学校でVRを体験する
鶴見大学附属高等学校でVRを体験する

体験した生徒に話を聞くと、「ながらスマホではブレーキをかけるまで3秒かかったのが、普通の運転では1秒でした。スマホに集中するとこんなにまわりが見えないんだって驚きました」という声が。

また、教室では見慣れない機器を装着するクラスメイトの姿に、クスクスと笑いがおきながらも、「すげーリアルじゃん!」「オレ、ぶつかっちゃった。ながらスマホ怖いな」といった声があがる。生徒たちはVRの動画を楽しみながら、ながらスマホの危険性を再認識できたようだ。

鶴見大学附属高等学校でクラスメイトもVRを体験する

どうすれば自転車ながらスマホがなくなる? 「ワークショップ」で議論

VR体験のあとは、自転車ながらスマホのリスクや、この行為をなくすための方法をみんなで考える「ワークショップ」を行う。

鶴見大学附属高等学校での「ワークショップ」の様子
鶴見大学附属高等学校での「ワークショップ」の様子

各グループで意見をまとめて代表の生徒が、自転車ながらスマホをなくすアイデアを発表。下記のような意見を聞くことができた。

「クルマの自動運転のようなものを自転車に取り付けて、前から歩行者が来たら強制的にブレーキがかかるシステムがあればいいんじゃないでしょうか」

「自転車を買うときに、いまのVRを体験してもらえば、意識が変わるんじゃないかと思いました」

生徒たちは自転車ながらスマホの危険性を自発的に考え、意見を交換しあうことができたよう。

「ながらスマホは本当に危ない」「親にも迷惑がかかってしまう……」

授業を終えて、実際に生徒の意識はどのように変わったのだろう? 感想を聞いてみた。

VRを体験した生徒 VRを体験した生徒

「VRの映像がすごくリアルで、突然、人が出てくるのが怖くてびっくりです。授業を受けて、あらためて自転車に乗りながらのスマホ操作は危険だと感じました。事故を起こして人を傷つけてしまうかもしれないし、賠償金とかで親にも迷惑がかかることがあったら本当に申し訳ないですね。絶対にながらスマホはしてはいけないと思いました」

 

VRを体験した生徒 VRを体験した生徒

VRでながらスマホをしていると、視野がとても狭くなって怖かったです。スマホを見ているだけで、ブレーキをかけるまでの時間が全然違うんだ! って驚きでした。『ながらスマホは絶対にダメ』ってことを、私だけじゃなくて、友だちや親などにもすごく伝えたい。あと、普通に乗るだけなら自転車保険は入らなくていいと思っていたけど、授業を受けてやっぱり保険に入ったほうがいいと思いました」

 

VRを体験した生徒 VRを体験した生徒

「自転車事故で何千万円の賠償金が発生した話は聞いたことがあったけど、どこか他人ごとのような気がしていて……。親に迷惑をかけてしまうことも含めて、授業であらためてその怖さに気づきました。今まで、ながらスマホはぼんやりと危険だと思っていましたが、VRは自分が体験している感じがするので、本当に危ないって思いました。口頭で説明されるよりもVRで体験するほうがわかりやすかったです」

VRで体験すると、ながらスマホを“ジブンごと化”できる

ながらスマホに対する生徒たちの意識は大きく変わったようだ。授業を行った永澤一久先生はどのように感じたのだろう?

授業を担当した永澤一久先生 授業を担当した永澤一久先生

「普段の授業で教科書を読み上げたり、体験談を話したりしても、生徒は他人ごととして捉えがちです。でも、VRで実際に視界が狭まって見えないことを体験することで、具体的な感覚や経験として自分の意識や脳の中に残ると思うんです。彼らがながらスマホをしそうになった際、そのときの体験が頭に浮かぶはず。VRで体験することで、生徒たちはながらスマホの危険性を“ジブンごと化”して捉えることができたと思います。普段の学習では得ることができない、非常に良い経験ができたと感じました」

VR授業キット VR授業キット

今回はVRキットを貸し出して、先生が授業を行うという取り組みであった。それに関して永澤先生は、「ボタン操作がひとつで簡単ですし、機器も少ない。VRの機器などに不具合がなければ、スムーズに授業ができると思います」。生徒はもちろん、先生にとっても、今回の授業は有意義なものとなったようだ。

「自転車ながらスマホをなくしたい」

自転車ながらスマホの撲滅と高額賠償の備えに関する意識向上を目的とした今回の授業。KDDIがこのような取り組みを行うのはどのような背景があるのか? KDDI サステナビリティ推進室の鳥光健太郎に聞いた。

KDDI 総務部 サステナビリティ推進室長 鳥光健太郎 KDDI 総務部 サステナビリティ推進室長 鳥光健太郎

「全国的に自転車ながらスマホがきっかけの事故が増えており、残念ながら死亡事故や、損害賠償が発生する事故も起きています。自転車ながらスマホをなくすことは、スマホを提供している私たちの大きな社会課題であり、使命だと考えています。また、私たちが学校に赴いて授業を行うのではなく、先生方にVR授業キットを活用していただくことで、より多くの生徒さんに体験していただけると思います。これからは全国の学校の依頼に応じてVR授業キットを貸し出し、自転車ながらスマホ撲滅に向けた啓発活動を強化していきます」

スマホはみんなの生活を便利で豊かにしてくれる。だが、その使い方を間違えてしまうと、予測もつかないような事故をひき起こす可能性もある。そうならないよう、スマホを使うときは自転車を安全な場所に止めて、ながらスマホは絶対にしない。万が一に備え、自転車保険にも加入しておきたい。

スマホを提供するKDDIは、企業の社会的責任として、自転車ながらスマホの撲滅を目指し、今後もさまざまな取り組みを行っていく。

文:TIME & SPACE編集部
写真:稲田 平

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