2019/03/22
2020年には自動運転が実用化? 日本初の5Gを活用した公道走行に成功
世界中で注目を集める自動運転。その実用化にあたっては、最先端の通信技術と切っても切り離せない関係にある。
自動走行中のクルマからは、クルマ自身の運転状況や、周囲の環境、交通情報といったさまざまなデータがサーバーへ送られる。サーバー側では集めた情報を統合して判断し、個々のクルマにベストなルートや安全に走行できる車線をフィードバック。……将来、自動走行運転が実現した際には、おそらくこれ以上の膨大なデータがサーバーとリアルタイムでやり取りされることになる。
そんな時代を迎えるために、通信に何ができるのか。たとえば、来年から運用される次世代移動通信システム5Gは、自動運転にどう役立つのだろうか? 今、地道な実験が続いている。
2019年2月9日、KDDIはアイサンテクノロジー、ティアフォーなど5つの企業と名古屋大学とともに、愛知県一宮市で次世代移動通信システム5Gを使った自動運転の実証実験を行った。今回は実際に5Gの電波を発信し、自動運転車を走行させたのだ。
日本初の5G自動運転実証実験をレポート
記事冒頭のクルマの写真は、次世代通信システム5Gに対応した自動運転車。5Gを活用し、複数台の自動運転車を公道で走行させる実証実験は、日本初の取り組みである。
愛知県一宮市の片側一車線の公道をコースとして、5G車が自動運転走行した。
5Gの自動運転車に遠隔監視と遠隔制御のためにフルHDカメラ5台、4Kカメラ1台を搭載。高精細映像を近くにあるKDDI名古屋ネットワークセンター内に設営した遠隔管制室へと5G通信で伝送する。
できるだけ公道を走行し知見を深めるのが、現段階での自動運転実証実験の主たる目的だ。実は、公道で自動運転を行うには、遠隔監視システムと、不測の事態を考慮した遠隔操作システムを備えることが必要条件となっている。
遠隔管制室では、オペレーターが自動運転車の走行をモニター。そして、自動運転車が障害物などを検知して停止した場合には、ここから遠隔操作を行う。
レーシングゲームのようにハンドルやブレーキ、アクセルを使って操作するのだが、その指令も5G通信で伝送される。
そして、5Gの自動運転車は時速30kmでの安全な走行に成功。その走行の様子は高精細映像で遠隔管制卓へとスムーズに送られた。
これが、5G通信を使用して自動運転車を走行させた実験の成果である。では、そもそも自動運転において通信がどんな役割を果たしているのか?
そもそも自動運転とは?
まずこちらを見ていただきたい。
この映像は、自動運転で使われる高精細3Dマップを可視化したものである。
KDDIの自動運転分野の技術的責任者である鶴沢宗文に話を聞いた。
「背景になっている白い点々が予め計測した建物や道路などの3Dデータです。自動運転車は『LiDAR』と呼ばれるセンサーでリアルタイムに周囲の状況をスキャンして、自分の現在位置を把握します。ここにアクセル・スピード・舵角(ハンドルを切る角度)などの車両情報を重ね合わせるとコンピュータ上に走行状態が可視化できます」
「LiDAR」は自動運転車の“目”のような存在。クルマの屋根の上でくるくる回りながら道路に向けて赤外線を照射し、そこにどんなものがあるのか、その対象物までの距離がどのぐらいかを計測する。
「今回の実証実験では、クルマが走るコースはマップ上にあらかじめ設定され、“この地点に来たら時速何キロで走行せよ”という点まで細かくプログラムされています。それに加えて『LiDAR』が目の前の障害物を認識してマップ上に表し、進むべきか止まるべきかをクルマ自身が判断するのです」
つまり、ここで見ていただいている動画は“自動運転車のアタマの中”なのだ。自動運転車が世界をどんなふうに見て、なにを判断しているかを目に見えるかたちで表したものである。
そして、この映像もまた遠隔管制室に送られる。そうした自動運転車と遠隔管制室との通信をスムーズに行うことが、自動運転におけるKDDIの技術領域となる。
リアルタイム映像以外になにをやり取りしているのか
将来、自動運転の普及においてだけでなく、現在、公道での実証実験を行ううえでも、自動運転と通信は切り離せない。
「公道を使って無人の自動運転車で走行実験を行う場合、遠隔管制室を設け、遠隔操作できるようにすることだけでなく、様々な規定があります。まず有人運転のときにドライバーが見ている映像は、遠隔卓ですべて見られる必要があります。そのため前方・左右のサイドミラー・バックミラー、さらにスピードメーターを直視できるカメラの設置が必須です。また、遠隔操作時にブレーキを踏んでからクルマが止まるまでの距離も厳しく決められています」
こちらが警察庁のガイドライン。
たとえば、時速15kmでドライバーなしの自動運転をするには、遠隔卓でブレーキを踏んでから4.40m未満で止まらなければならない。通常の運転でも、ブレーキを踏んでもクルマは急に止まれない。自動運転車の遠隔操作の場合、通常の運転にプロセスが2つ加わることになる。
①空走距離とは、ドライバーが危険を感じてブレーキを踏み、ブレーキが効き始めるまでにクルマが進む距離のこと。②制動距離はブレーキが効き始めてからクルマが止まるまでの距離。このふたつを合わせたものが停止距離となる。
「まず、走行の妨げになるなにかが起きたとします。クルマに設置したカメラがそれを伝えなければ遠隔管制室では認知できません。
- (A)はカメラ映像が遠隔制御の卓へ伝送される時間。
- (B)は異常に気づいてブレーキを踏むまでの時間。
- (C)は遠隔管制室でブレーキを踏んで、“止まれ!”と出した指令が、クルマに伝送されるまでの時間
(B)は、有人運転・自動運転ともに変わらないとして、自動運転の場合は、ブレーキを踏む判断をするための(A)の時間と、ブレーキを踏んでからその指令がクルマに伝わる(C)の時間が余分にかかります」
当然、(A)と(C)に要する時間は短いほうがいいというわけだ。5Gが大いにその手助けになるのである。
5Gを使うことでなにが変わるのか
次世代移動通信システム5Gは「高速・大容量、低遅延、多接続」が特徴だ。
昨年5月、福岡で開催された『アジア太平洋地域ITSフォーラム』という自動運転の公開討論会で、KDDIは今回と同じような自動運転の実証実験を行った。
今回同様、遠隔管制室を設置、実際に自動運転車を遠隔操作したのだが、このときは現行の4G LTEのネットワークを使用してクルマとの通信を行った。
「このときは4Gの通信環境でしたので、遠隔管制室への映像の伝送はおよそ5Mbpsに制限されていました。それが今回は5Gを使うことで、1台で4Mbps相当のフルHDカメラを5台、30Mbpsの4Kカメラを1台搭載することができました」
「通信ネットワークを4Gから5Gに変えることで、数値上、これまでの10倍も大容量の映像をより短い時間で送ることができます。つまり、5Gの高速・大容量の特性が先ほどのAの時間を短縮し、映像の精度を上げることができたのです」
そして5Gの低遅延が効力を発揮したのが(C)の部分。
「5Gの場合、遠隔管制室から自動運転車にコマンドを伝送するタイムラグが4Gに比べて大幅に短くなりました。遠隔操作でブレーキを踏むと、自動運転車側で従来よりもすばやく反応するようになった。これによって、4Gネットワーク下の実証実験では時速15kmまでしか認可されていなかったのが、5Gネットワーク下ということで初めて時速30kmで走行できるようになりました。実は、実験に先駆けて行った調査では、数値的には時速40kmまで出すことには成功していたのですが、今回はひとまず安全面を考慮して時速30kmでの認可ということになりました」
日本で初めて5Gを使った実証実験を行い、高精細な映像送信とこれまでよりもずっと遅延のない遠隔操作が可能となり、より高速での走行が実現したのである。
直近のリアルな自動運転のあり方とは
自動運転化された未来は夢にあふれている。カップルが食事やお酒を楽しんでいるあいだに、2人を乗せたクルマが夜景のキレイな場所に連れて行ってくれるなんてことも可能になるかもしれない。渋滞を事前に予測して最短のコースを選んだり、ドライバーの表情からAIが気分にあったドライビングコースを選んだり、クルマがまるでロボット・相棒のような存在になるのだ。あるいは、日本中のどこにいてもスマホでタクシーや乗合バスを呼ぶことができて、無人運転でどこにでも連れて行ってくれる。
「技術的には特定ルートでの自動運転そのものは、2020年には実現できていると思います。実際に公道を走っていいのか、営業する際の認可はどうなるのか、そして事故が発生したときの対応は……といった法整備はまだまだこれからではありますが」
自動運転事業に最前線で関わるものとして、“夢”ではない自動運転のこれからについて聞いてみると「あくまでも個人的な見解」と前置きしたうえで答えてくれた。
「法整備に関しては、地方の交通弱者=免許を返納した高齢者のみなさんなどに対して、自動運転車の走行が許可される特例区間を設定するのが現実的だと思います。病院や日常の買い物に対して、県道何号線のある場所からスーパーや病院のあいだといった限定的なところに自動運転車が通行していて、ユーザーはスマホで呼べるようなイメージです。まずはそのような形で徐々に始まっていくのではないかと考えています」
そんなイメージを踏まえつつ、「高速・大容量、低遅延、多接続が自動運転の役に立つだろうという仮説にもとづいて、5Gを用いた実験を行っている」と鶴沢は話す。
「昔は電話とファックスしかなかったから、通信は上りも下りも同じスピードでした。インターネットの時代になってからは長らく、下りのスピードが求められ続けてきた。自動運転に関しては、上り=クルマからネットワークに情報を送る際のスピードと容量が求められる、おそらく歴史的にも初めての事例になりそうです。そのために、どんなネットワークをつくっておく必要があるのかを通信会社としては知っておかねばならないのです」
完全な自動運転を実現するためには、自動車そのものの開発やAIの進化など多くの要素が必要である。だがその裏で、実用化と安全な走行のために通信のチカラが果たす役割はますます大きくなっていくのだ。
文:武田篤典
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