2019/01/11
| 更新
2019/01/16
自動運転車に乗ってVRゴーグルをつけたら… バーチャルキャラが観光ガイド
自動運転×VRコンテンツの実証実験を敢行
2018年11月3日、KDDIと長野県飯田市が自動運転と連動したVRコンテンツ提供の実証実験を行った。
今回のポイントは、自動運転用の3Dデータを活用して、乗車中に走行場所と連動したVRコンテンツを楽しめるエンターテインメントの提案だ。
車内の様子がこちら!
乗車してVRゴーグルを装着すると、車内に「レナ」が現れる。彼女はKDDIのXR技術推進のためのバーチャルキャラクター。おおよそ600mの自動運転の旅のあいだ、まちの有名店や観光名所の案内をしてくれる。
左の女性が右手を差し伸べているが、その先に「レナ」が座っているのだ。
このような感じで。
体験者が見ているのは、ゴーグルに搭載されたカメラが捉えた映像。現実の風景をほぼリアルタイムにゴーグル内に投影し、そこに「レナ」をはじめ、さまざまなVRコンテンツを重ね合わせる仕組みだ。
実証実験は、第12回を迎えた飯田市最大のイベント「飯田丘のまちフェスティバル」(丘フェス)の1プログラムとして行われ、体験者は一般のお客様。
「レナ」が紹介してくれる窓の外にも……。
同時開催されているイベントやお店の紹介、観光名所への道案内の看板などが登場する。ちなみに、看板を持っているのは「いいだ人形劇フェスタ」のマスコットキャラクター「ぽぉ」である。
そして、「飯田丘のまちフェスティバル」のマスコットキャラクター「ナミキちゃん」もごあいさつ。
では、動画でご覧ください。
自動運転車が走行したのは、飯田市の「東和町ラウンドアバウト」(環状交差点)。
ラウンドアバウトとは、「環道」の中を時計回りに通行する車両が優先され、安全性の高い円形の交差点。これを日本で初めて、既存の信号機を撤去して導入したのが飯田市である。
ちなみにこちら、全国の市長を束ねる「全国市長会」副会長でもある牧野光朗・飯田市長である。体験後には「素晴らしい!」を連発。
今回の実証実験の狙いとは?
では、なぜ今回、KDDIと飯田市がこの実験を行ったのか。
こちらが今回の実証実験のKDDI側の中心的なメンバー。
長野県飯田市は県南部にあり、アクセスには東京からだと高速バスで約4時間、鉄道ならばそれ以上。名古屋からでも2時間ほどかかる。ここに、2027年開業予定のリニア中央新幹線の駅ができるのだが、現在の飯田駅や市内中心部とは少し離れた地域になる。そこで、リニア新駅からの移動に自動運転を用いた観光タクシーが普及するという想定のなか、その車中で観光気分を高めるエンターテインメントをどのように提供できるか、を現在の技術で形にすることが狙いだった。
KDDI商品企画本部プロダクト開発1部の水田修はいう。
「今回は、自動運転の実証実験においては珍しい例だと思います」
「これまでの自動運転は、まずは“公道を”“お客様を乗せて”“無人で走る”みたいな点がフォーカスされがちでした。私たちが着目したのは、“自動運転になったときに、車内でどんなふうに過ごすか”です」
KDDIでも自動運転の技術を研究しているが、今回は「自動運転の上に乗せるコンテンツについて考えた」のだという。
「リニアの駅が、現状のJR飯田駅から少し離れた場所にできるそうです。そこで駅間を移動するときや、リニア駅から観光地に行くときなどに、ただ移動するだけだと面白くないと思うので、自動運転の観光タクシー的な用途を前提として、コンテンツを考えてみました」
もちろん、技術的にも新しいものが盛り込まれている。
車内の「レナ」はもとより、歩道から色々とアピールしてくる「ナミキちゃん」や「ぽぉ」たちは、“現実世界にいるかのように表示”されている。彼らのそばを自動運転車が通り過ぎるとき、ゴーグル内ではこんな映像が展開されている。
こちらは飯田市の「ナミキちゃん」。
車が進むにつれ……
よく見ていただきたいのだが……「ナミキちゃん」が近づいてくる。
表情やヘアアクセサリーがりんごをモチーフにしていることなどがわかる。さらに車が進むと、車外にいる「ナミキちゃん」は風景として流れ、見えなくなる。現実の風景なら当たり前だが、これはVRゴーグル内の映像である。
「自動運転に必須な走行地図のデータを活用しています」そう語るのは、同じくKDDI商品企画本部プロダクト開発1部の冨林豊。
「自動運転をする際には地図データを作成します。それに則って実際に走行していくわけですが、その “走行地図”を使って、車外にいる「ナミキちゃん」をはじめ、さまざまな案内をするCGの位置を決め込むわけです」
具体的に場所が指定されたCGのなかを走行していくので、あたかも本当の風景のように車窓にキャラクターや看板が現れるのである。
水田が補足する。
「自動運転を一般化するためには、間違いなく日本全国の走行地図を作ることになるはずです。そのときに、その地図を活用してどんなことができるかを考えるのは、すごく可能性の広がる話ですよね」
そもそも、なぜ飯田市とKDDIの共創が始まったのか
この“痛車(いたしゃ)”、実は飯田市の公用車である。そして、今回実験を行った「丘フェス」の模様がこちら。
もともと、人形浄瑠璃などが盛んだった飯田市は「人形劇のまち」としても知られ、フィギュアやキャラクターなどを現代の人形と捉えて、2006年から「丘フェス」を開催。毎年11月3日には、人口約10万人の飯田市に5万人のゲストがやってくるほど、大規模なイベントになっている。
KDDI商品企画本部プロダクト開発1部の大川祥一は、2016年に知人の紹介で「丘フェス」を訪れ、イベントの独特な雰囲気に驚いたそう。
「私たちは初音ミクのARアプリ『ミク☆さんぽ』を手がけているのですが、人形劇を伝統的に行っている街が長野にあるらしいと知らされ、なにか一緒にできたら面白そうだなと考えていました。
その後、我々が普段やっていることが地方創生や観光誘致につながるところがあるので話してほしいと、飯田市さんからオーダーをいただいたのです」
そして、2018年初頭に飯田市で講演をするチャンスを得た。
「その際に『地域×テクノロジー×アイディア』というテーマで、飯田市の地域の良さとKDDIのテクノロジー、あとは両者のアイディアを集結して、飯田市さんとKDDIでしかできないことをやりませんかと提案しました」
飯田市は2027年のリニア開業、新駅の設置を前提とし、「IIDAブランド推進課」などの部署も開き、内外と関係を持って未来に向けてのブランディングを積極的に行ってきた。
「まちの人と一緒にサービスをつくって、根付かせるようなことがしたいと思っていたのです。それとは別に、飯田市さんは「人形劇のまち」という背景もあってキャラクターを重視されており、それらを活用したサービスをつくれないかという話をしました」
超積極的! 長野県飯田市の未来へのビジョン
はたして飯田市、驚くべき柔軟さを持った先進的な自治体だったのだ。なにしろ、ラウンドアバウトをはじめ、幅広い分野で一歩先の施策を展開する市である。
まず、2018年7月に、KDDIのバーチャルキャラクター「レナ」をなんと非常勤特別職員として採用。
こちらは、その辞令交付式の模様。ARを使った式典を実施し、記者を集めて牧野市長自らが辞令を交付した。
就任翌月の8月10日、11日に開催された国際会議「AVIAMA(人形劇の友・友好都市国際協会)総会」では、参加者各国の言語で飯田市の魅力を紹介するガイドとしても活躍。
このとき飯田市の共同企画で、VRゴーグルを装着することで、「ナミキちゃん」の声を担当し、丘フェスPR大使を務める声優の高木美佑さんと一緒に足湯を楽しめる「VR足湯」も制作した。
コンテンツづくりは飯田市民による「IIDAブランディングプロジェクト」が担当。このイベントのタイミングで、今回の「自動運転×VR」実証実験を行うことも決まった。
飯田市とKDDI、通信技術を活用した共創のあり方
「VRやARのようなデジタル技術を活用した地方創生を期待される企画は多いですが、導入はするものの、実際の運用は我々が主体的に進めるケースも存在します」(水田)
「でも、それだけでは続かないです」と大川。
「自治体の担当の方は3年ほどで異動されることが多いので、その都度ゼロに戻ってしまいます。自分たちの技術を導入した実績を得たいのではなく、しっかりとその地域に浸透させてずっと続けていきたい。そのためには、自治体の方と共創する姿勢が必要なのです」
「その点、飯田市には、つねに自分たちのまちを良くしたいと考える土壌があります」というのは、飯田市産業経済部 商業・市街地活性課の西しのぶさん。
まちとして提唱している、2027年のリニア開業を見据えた「いいだ未来デザイン2028」も行政からのお仕着せではない。まちをいかに良くしていくかということを住民が“我がこと”として考えている。
「たとえば『丘フェス』は、今や5万人規模の参加者があるイベントですが、主体は飯田市ではありません。民間の文具店のご主人が実行委員長を務めていて、民間の35団体で組織する実行委員会を中心に毎年進めています。当日のスタッフは200人ほどになります。
なかには、「レナ」ちゃんとARで記念写真が撮れるシステムを応用して、イベントキャラクターの「ナミキちゃん」と一緒に撮影できるデータをつくってくれた方もいらっしゃいました」
飯田市では「丘フェス」のみならず、「りんご並木まちづくりネットワーク」という市民自由参加のコミュニティがあり、平成19年から月1回、まちづくりについて高校生から社長までが話し合う場が設けられている。そして、そこからまちの新たなカルチャーが発信されることもあるそう。
「それは飯田の古くからのあり方なのです」と、飯田市建設部地域計画課の熊谷健太郎さん。ラウンドアバウトをはじめ、市の都市計画に携わっている。
「戦後、昭和22年に大火があって、市街地の2/3が焼けました。そこで市内に大きな防火帯をいくつも敷くような大規模な区画整理が行われたのですが、市民のみなさんは“まちが良くなるなら”と、普通では考えられないほど多くの土地が供出されました。そしてその防火帯に、中学生によって発案され、育まれた「りんご並木」は、今や飯田のまちづくりのシンボルとなっています」
“まちが良くなるなら”という思いは、市全体に今も浸透している。
西さんはまちの活性化を推進する部署、熊谷さんは都市計画のハード部分を担当するエンジニアである。それがセクションを越えて共創。のみならず、役所と民間、社会人と学生など、さまざまな人が混ざり合って「いかにまちを良くするか」を追求してきた。
KDDIも同様だ。大川たちの所属部署はとくに自動運転担当ではなかったが、「これを使えば面白いことができるのでは?」との発想の元に、他部署を巻き込んで今回の実証実験にたどり着いた。
今後のビジョンに関して
実験を終え、KDDIの水田、冨林、大川の3人は今後の展開にワクワクしているという。
「今回の自動運転では、道路を完全封鎖して行いました。5車線も入っているラウンドアバウトを止めて実験するのは、その地域のために実証実験を行っている“大義”がないと進められないものだと思います。一企業の希望だけではできないことを、大きな目的を自治体と共有して協力すれば実現できることを学べました。しかも、飯田市さんは一緒にそれをやっていこうという、とてもありがたい存在なので、今後もっといろいろなことにチャレンジしていけそうです」(水田)
「ラウンドアバウトを止めることに決めてから、瞬く間に飯田市の方が許可を取ってきてくれたのです。そこに我々も後押しされました。飯田市とKDDIだからこそ、できることがきっとあると思うので、自動運転のみならず、そういうところにもチャレンジしていきたいです」(冨林)
「間違いなく、今回の実証実験がきっかけとなって、今後のさまざまな活動にも活かせるでしょう」(大川)
2027年のリニア開通まで、おおよそ10年弱。飯田市とKDDIの自動運転プロジェクト、初の実証実験は成功に終わった。
飯田市・西さんは、この実証実験を振り返る。
「リニア駅をはじめ、ターミナル駅から観光地までのラストワンマイルを、便利に楽しんでいただける技術と理解しています。高齢化や人口減少が進み、自動運転は公共的役割を担っていくことになるかと思いますが、それだけで終ることなく、楽しさのエッセンスを加えるだけで可能性は無限大なのではないかと感じています」
「飯田市は秘境駅でもよく知られているのですが、これと自動運転を絡めるビジョンや医療分野でVRコンテンツを使えないかなど、飯田市内外のさまざまな方々から、今回の実証実験を体験してもらったからこその、新たな可能性のお話を多数いただきました」(西さん)
地方自治体の課題解決や、訪れる人たちがより便利に、よりワクワクできることの裏側に、通信のチカラがある。
文:武田篤典
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