2018/10/12
秘境駅界の巨星『北海道宗谷本線』はスマホの電波が届く? 実際に行って調べた結果
北海道・宗谷本線「秘境駅の旅」へ
「秘境駅」と呼ばれる駅があることをご存知だろうか? 秘境駅とは、文字通り、山間部など人里離れた地にある鉄道駅のこと。単線、無人駅は当たり前。乗降客数は少なく、周囲に民家や商店が見当たらないこともある。しかし、その光景が旅情を掻き立てるのか、一部の鉄道ファンや旅行好きのあいだでちょっとしたブームになっている。
TIME & SPACEとして気になるのは、そこでスマホが使えるかどうか。すなわち、きちんと電波が届いているかどうか、だ。auの4G LTE通信網は人口カバー率99%を超えているが、山奥など電波が届いていない地域がないわけではない。はたして秘境駅の電波状況はどうなのか? 旭川と稚内を結び、数多くの秘境駅を擁するJR北海道の宗谷本線を旅して確かめてみることにした。同時に、訪れたそれぞれの駅で“プロがすすめる撮影スポット"も紹介。
広大な土地にぽつんと佇む無人の「北比布駅」
まず目指したのは「北比布(きたぴっぷ)駅」。この駅は宗谷本線の始点である旭川駅から各駅停車で7駅目。所要時間は約32分。駅に到着すると……
駅のまわりは見渡す限りの田畑。空気がおいしい。とてもおいしい。
まわりを少し歩くだけで見失ってしまいそうになるくらい、駅が風景に馴染んでいる。
駅に隣接する踏切から撮影すると、ホームと駅舎が同時にフレームに収まっていい感じ。
というわけで最初の目的地、北比布駅に到着。
こぢんまりとした待合所と古びた木製のホームが広大な田園風景のなかにぽつんと佇む無人駅。周囲には民家らしき建物が数軒ある程度で、人の往来はない。というか気配すらしない。少なくとも、訪問時は駅およびその周辺では誰にも会わなかった。筆者は秘境駅を訪れるのは初めてだが、その秘境っぷりは事前の予想をはるかに超えていた。
時刻表。本数の少なさが一目瞭然。
待合所のなかには雪かき用の道具も。無人駅ゆえ、乗客自らが雪かきをするのだろうか?
ホームの駅名標。ひらがな表記がかわいい。北海道ならではだ。
いやはや、秘境駅、実に楽しいではないか。ロケーションもホームも待合所も味わい深く、旅の目的地として十分に魅力的。秘境駅を目指して、旅してまわる人の気持ちがちょっとわかった気がしてきた。
秘境「北比布駅」でもスマホは使えるのか?
さて、そんな北比布駅で、スマホは使えるのだろうか。iPhoneを取り出してみたところ……。
au 4G LTEのアンテナ表示はバッチリ。ネットもスムーズで、メールも通話も、もちろんSNSへの投稿も問題なし。「秘境駅でもつながる」を無事確認することができた。
ところで、「きたぴっぷ」という変わった名前はどこから来ているのだろうか? せっかくスマホが使えるので、その場で調べてみた。
北比布駅がある比布町の公式サイトによると、
「比布(ぴっぷ)の地名は、アイヌ語のピプまたはピピから出たもので『沼の多いところ』あるいは『石の多いところ』の意といわれています。昔は湿地帯が多かったことや、石狩川の川床には石が多かったためピプ、ピピが転訛し音訳して名付けられたと考えられています」
とのこと。また、ウィキペディアには、
「日本の自治体の中で、唯一パ行で始まる自治体である」
とある。なるほど、勉強になるなぁ。どうやら「ピ・オ・プ」は「石の多い所」という意味のようで、入植時には「比布原野」と言われた場所だとか。スマホがあれば、旅先で気になったことを、その場ですぐに調べられる。便利な世の中になったものだ。
【北比布駅のおすすめ撮影ポイント】
線路は続くよどこまでも〜♪ 踏切からお隣の「比布駅」方向に、地平線までまっすぐと伸びる線路がインスタジェニック。
アジのある待合所が人気! 「北星駅」
次に降りたのは、名寄市にある「北星(ほくせい)駅」。この駅は北比布駅から70kmほど離れている。やはり北海道は広い。
北星駅に到着。ホームの周囲には樹々が生い茂り、先ほどの北比布駅をはるかに上回る秘境っぷりだ。
ちなみに、今回の秘境駅の取材に際しては、JR北海道の広報担当者さんから、「まれにクマが出ることがあるので、くれぐれもご注意を」と事前注意を受けたのだが、たしかにこのシチュエーション、クマが現れてもおかしくはない。
クマの出没に怯えつつ、手元のスマホをチェック。
ここでもauの電波はバッチリ届いていた。
【北星駅のおすすめ撮影ポイント】
ホームの横に佇む、赤い屋根が印象的な木造の待合所には、駅名ではなく「毛織の☆北紡」の看板が。いい味出してます。
クマ出没注意! 「安牛駅」
続いて、幌延町にある「安牛(やすうし)駅」へ。
秘境度はどんどん増していく……。ここでもスマホは使えるのだろうか。
iPhoneをチェックしたところ、安牛駅でも電波が届いていることが確認できた。
「安牛駅」の駅名由来は、「アイヌ語の『ヤシウシイ』([網で]魚をすくう・いつもする・所)に由来する」のだとか。
ちなみに待合所の壁にはこんな張り紙も。
やはり出るようだ。それにしてもイラストが怖い。
【安牛駅のおすすめ撮影ポイント】
錆びついたポールが哀愁漂う駅名標。野原のなかにぽつんと佇む感じがたまらない。
ばっかい? ぱっかい? 「抜海駅」
最後に向かったのは稚内市にある「抜海(ばっかい)駅」。終点の稚内駅の2駅手前の駅だ。
ここは日本最北端にある無人駅。年季の入った木造の駅舎は比較的大きく、待合所も広い。ウィキペディアによると、この駅は映画やドラマのロケに利用されたことがあるようだ。
ここでもauの電波は届いており、問題なくスマホを使うことができた。
【抜海駅のおすすめ撮影ポイント】
ここではあえて、待合所の駅名表示を寄りで撮影。SNSに投稿すれば、「ん? これ、なんて読むの?」とツッコミが入ること請け合い。
ウィキペディアによると、「アイヌ語の『パッカイペ』(子を背負う・もの)、あるいは『パッカイスマ』(子を背負う・石)に由来する」のだとか。市街のはずれには、子どもを背負ったように見える岩「抜海岩」がある。
車窓からの眺めにも和む
というわけで、宗谷本線秘境駅の旅も「稚内駅」で終着。日が明けて翌日、稚内駅から宗谷本線各駅停車に乗り込み、旭川駅へと戻る。
帰り道は電車内から撮影した写真を駆け足でご紹介。
さようなら、稚内。夕飯に食べたお魚は美味しかった。
キャンプが楽しめる兜沼公園のある「兜沼駅(かぶとぬまえき)」。
旧車掌車を利用した駅舎の「上幌延駅(かみほろのべえき)」。
同じく旧車掌車を利用した「下沼駅(しもぬまえき)」。
「糠南駅(ぬかなんえき)」の待合室はプレハブ仕様。
「紋穂内駅」は「もんぽないえき」と読む。「現在のパンケニウプ川を指したアイヌ語の『モヌプオナイ』(小さい・野に・ある・川)が転訛したもの」(ウィキペディア)だとか。
「初野駅(はつのえき)」も物置タイプの待合室。
車窓から眺める秘境駅もまた違う趣があった。やはり鉄道の旅も良いものである。
そして終点の旭川駅に到着。
同じ「駅」とは思えないほど立派な駅舎である。ちなみに現在の旭川駅は4代目で、デザインは旭川市によるものだとか。
宗谷本線の秘境駅を巡る旅はこれにて終了。なお、手元のiPhoneで宗谷本線の全駅でauの電波が届いていることが確認できた。
旅に出たら、写真を撮って、その場でSNSにアップして、友だちや家族と感動を分かち合いたい。そう考える人は多いと思うが、秘境駅でそれができるのも「つながっているから」こそ、だ。
「宗谷本線の全駅でつながる」の舞台裏
ところで、「秘境駅でもつながる」はどのようにして実現しているのだろうか? KDDIの担当者に話を聞いた。
「人がいるところや行くところは、すべてつながるようにしたい――私たちはそんな思いを胸に、電波品質の改善や通信エリアの拡大に日々取り組んでいます。ですから、秘境駅だからといって特別な対策をしているわけではありません。秘境駅でもつながるというのは、その結果なんです。
北海道特有の事情としては、冬期の雪の問題があります。春に電波を開通させるため、雪が降りしきる冬のあいだに工事を実施することもあり、その場合は工事の前に除雪をしなくてはなりません。
特に雪深い場所では、基地局の設置の際に基礎を嵩上げすることも。
北海道は周辺に民家がない地域が多いですが、道路などお客さまが利用される場所は対策が必要です。ただ、電気や回線が整備されておらず、インフラの調達に苦労することも少なくありません。電源を確保できない場所では、ソーラーパネルで電源を確保して基地局を設置するケースもあります。
北海道は他の地域に比べて土地が広く、電波調査に片道5~6時間以上かけて現地に向かうこともあるなど、大変なところもありますが、お客様がスマホやケータイをより快適にお使いいただけるよう、今後もつなげる取り組みを続けていきたいと思います」
いまやスマホはどこでも使えて当たり前の時代。そしてその「当たり前」の裏には担当者の日々の地道な努力がある。それは宗谷本線の秘境駅も然り。現地を訪れる際は、ぜひスマホをフル活用して、よりディープに旅を楽しんでもらいたい。なお、その際は、線路にむやみに立ち入らない、地域住民の方々の迷惑となる行為はしないなど、最低限のマナーをお忘れなく。
文:榎本一生
撮影:稲田 平
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