2015/05/19

世界遺産のある白川村と、KDDIが築いてきた“いい関係” 通信の力で、村はますます魅力ある場所になる

日本には、北は北海道から南は鹿児島・沖縄まで、18の世界遺産がユネスコのリストに登録されている(2015年4月現在)。2015年5月4日にはユネスコの諮問機関であるイコモスより、福岡県の官営八幡製鉄所や「軍艦島」の通称で知られる長崎市の端島炭坑などの23施設が「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産に登録することがふさわしいとの勧告があり、6月28日から開かれる世界遺産委員会で登録が決定されれば、日本の世界遺産はさらに増える見込みだ。auは、どの世界遺産でも快適な通信が楽しめるよう、通信エリアの整備に努めている。

そのなかのひとつ、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」は、1995年の世界遺産登録以来、国内外の観光客に人気が高く、毎年150万人ほどが訪れる(そのうちおよそ1割を海外からの観光客が占める)。去る2月23日、白川郷のある白川村(岐阜県大野郡)とKDDIが、白川村の「地域活性化を目的とした連携に関する協定」を結んだことは、さまざまなメディアで報じられ話題となった。

協定締結から2カ月ほど経ち、両者の連携が具体的な形になり始めている。「TIME & SPACE」編集部は、KDDIの担当者と白川村のキーパーソンのひとりに、改めて協定の意義や具体的な取り組みについて話を聞いた。

白川郷の合掌造りの家屋。集落にある家屋の多くは、屋根が東西を向くように建てられている。集落の風向きにあわせて風の抵抗を減らすとともに、日の出から日の入りまで屋根に日の光が多く当たるようにして、屋根に積もった雪を少しでも溶かすためだという。なお、「合掌造り」とは、屋根が2つの平面からなる「切妻造」と呼ばれる構造の家屋で、屋根が茅葺きのものを指す。この形状の家屋はきわめて珍しく、白川郷のほかには、白川郷とともに世界遺産に登録されている五箇山(ごかやま:富山県南砺市)でしか例がない。いずれも岐阜県北部から富山県西部を流れる庄川流域の集落だ。家屋の素材の多くは周辺地域でとれる植生のもので、「合掌造り」は地域に根ざした生活文化と言える

冬になると深い雪に覆われる白川郷。夜は合掌造りがライトアップされて幻想的な光景に(写真提供:白川村役場)

世界遺産の村の新たなチャレンジ

白川村では、白川村とKDDIの協定締結のきっかけをつくったキーパーソン、「白川村地域おこし協力隊」の大倉 暁さんに話を聞いた。

「白川村地域おこし協力隊」の大倉 暁さん。背景に映る合掌造りの家屋は、協定締結の舞台ともなった「旧寺口家」。今は大倉さんの生活の拠点にもなっている

つなぎの背中には「ひだ白川郷」の文字が。協力隊お揃いのコスチュームだ

「地域おこし協力隊」というのは総務省が2009年から実施している取り組みのこと。人口減少や高齢化の進展が著しい地方において、地域外の人材を積極的に誘致し、地元の人は見落としがちな地域資源を外部の視点で掘り起こして地域の活性化を目指す。都市から地方に生活拠点を移した人を地方自治体が「地域おこし協力隊」として委嘱し、隊員の地域への定住・定着も図る。隊員には、官の立場の自治体だと手がけにくい地場産品や地域ブランドの開発・PRなど、官と民、あるいは地方と都市をつなぐ役割が期待されている。

白川村では2014年1月からこの取り組みに参加し3名が隊員として着任、2015年4月からは新たに4名が加わって、総勢7名で地域資源の開発やSNSを使った情報発信、そして空き家対策や地域活性化などに力を入れている。大倉さんは、昨年から隊員を務めている。

話を聞いたのは、協定締結の舞台となった合掌造りの「旧寺口家」。江戸時代後期に建てられた家屋で、築200年ほどになるという。現在は、歴史的な建築や景観を保全する公益財団法人日本ナショナルトラストが所有し、この3月末からは大倉さんが借り受けて生活を始めた。

白川村の世界遺産集落には合掌造り家屋を「売らない、貸さない、こわさない」という住民憲章があり、大倉さんが借り受けたのは異例のケースと言えるが、人が住まない家屋は維持管理が難しいのも事実。大倉さんが住みながら家屋を管理し、村民が集うコミュニティスペースとして運営していくことになった。大倉さんいわく「村にとっても新たなチャレンジ」だ。

築200年ほどという「旧寺口家」を背景に。集落にある家屋は、古いものは江戸時代中頃に、新しいものでも明治時代に建てられたものだという

大倉さんはこの旧寺口家に生活の拠点を構えながら、コミュニティスペースとして村の人たちが集える場所づくりを行なう

村の魅力をとことん発信する「協力隊」の活動

大倉さんの話を紹介する前に、白川村とKDDIが締結した協定の内容をざっと確認しておきたい。白川村とKDDIが協力して取り組む事項は大きく次の6つだ。

(1)魅力ある観光の情報発信・振興
(2)地域社会の活性化
(3)青少年の健全育成支援及び教育
(4)情報発信及び広報活動
(5)地域の安全・安心の向上
(6)自然環境、生活環境の保全

このうち、主に(1)、(2)、(4)に関する事項は「白川村地域おこし協力隊」が中心となり、白川村とKDDIがその活動を支援する。

協定締結から2ヶ月ほどが経ち、具体的にどのようなことが動き出しているのだろうか。大倉さんは次のように語る。

「協定の取り組みの一環でKDDIさんから提供されたスマートフォンやタブレット端末を早速使わせていただき、白川村の情報発信と広報活動に力を入れています。写真共有サービスInstagramの村公式アカウント(shirakawa_go)で協力隊のメンバーが撮った写真をアップしたり、フェイスブックFacebookの村公式アカウント"白川村通信"(shirakawamuratsushin)で折々の村のニュースを書き込んだりしています。ツイッターや動画投稿サイトのVimeoも、公式アカウントを取得して運営を開始しました」

なお、こうした情報発信は協定の項目の(1)や(4)に該当し、端末の提供は項目(2)に含まれる。KDDIからは、協定締結日に、スマートフォンとタブレット端末があわせて4台提供された。

4G LTEの電波も届いているから、タブレットでの通信もサクサク。合掌造りを背景にタブレットを操る大倉さんの姿は、これからの時代の最先端かもしれない

エリア拡充で、アウトドア・スポーツがますます楽しみに

ここで、白川村とKDDIが協定締結に至った経緯についても振り返っておきたい。KDDI側の取りまとめ役、中部総支社管理部の安田憲央マネージャーは、「協定締結以前から、KDDIは白川村でさまざまな取り組みをしてきました」と語る。

協定締結のいきさつや、協定の内容について語る安田憲央

まず挙げられるのが、白川村での通信サービス品質向上とエリアの拡充だ。

「近年のスマートフォンの普及により、撮った写真をその場でSNSにアップする使い方が増えました。変化する観光客のニーズにあわせて4G LTE対応に力を入れるとともに、基地局の調整で電波が届くエリアを広くしました」(安田)

これら一連の対応が完了したのは2014年夏のことだ。KDDIがこのタイミングで品質向上とエリア拡充に踏み切ったのにはひとつのきっかけがある。従来から、居住区や観光客が集中する白川郷周辺はエリア対応していたものの、そこから少し離れると途端に電波環境が悪くなることに、村の人たちや観光客は不便さを感じていた。そうした住民の声を受け、白川村役場が携帯電話各社に積極的に働きかけたところ、「KDDIさんが速やかに対応してくれた」(大倉さん)ということだ。

白川村には、白川郷のほかにもさまざまな観光資源がある。日本三名山のひとつ「白山(はくさん)」を村のすぐ背後にいただき、白山の麓で湧き出る「平瀬温泉」は、白川郷からクルマで15分、世界遺産にいちばん近い温泉地だ。

白川郷周辺を行き交う人たちが移動中も通信サービスを利用できるように、白川郷と隣接する石川県を結ぶ「白山白川郷ホワイトロード(旧・白山スーパー林道)」をエリア化したことが、このときのエリア拡充の大きな狙いだった。

大倉さんは、早くもエリア拡充を実感している。2015年のゴールデンウィーク中、白川村は、逗子市(神奈川県)で開催された「第6回 逗子海岸映画祭」に村産品を提供し、村の魅力を紹介するスライドショーを上映した。

「そのための撮影を昨年夏から行なっていましたが、集落から離れた山の中でもスマートフォンを使うことができました。白川郷から白山の一帯はアウトドアスポーツも盛んなので、そういう人たちにもエリア拡充は喜ばれるはずです」と大倉さん。撮った写真をその場でSNSにアップできるようになれば、アウトドアスポーツの楽しみがさらに増えるというものだろう。

白川村周辺で盛んなアウトドアスポーツは、主に以下のものが挙げられる。

白山国立公園に広がるブナの原生林から白山中腹の白水湖を経て、世界遺産の白川郷まで山野を歩く「白山白川郷ロングトレイル」、白山白川郷ホワイトロードを100kmも走る「白山白川郷ウルトラマラソン」、清流庄川での「フィッシング」、ブナ原生林内での「キャンプ」「ツリークライミング」、スキー場として整備されているのではない自然の雪山に登りスキーやスノーボードで滑り降りる「バックカントリー」

いずれも、雄大な自然に恵まれたこの地域だからこそ楽しめるスポーツだ。なかでも、白川村での「バックカントリー」は、アウトドアウェアメーカーのパタゴニアが、日本の知られざる魅力を、バンで移動しながら紹介する「Japan by Van」という企画で、昨年秋に動画や写真を公開したことで、ファンには注目のスポットとなった。

エリア拡充は、防災面でも重要な意味を持つ。山間部で住民や登山客が遭難したような場合、あるいは深い雪や土砂災害で集落が孤立したような場合、通信サービスを利用できるかどうかは、救助や支援のあり方を大きく左右するからだ。たとえば、遭難者が手持ちの携帯電話で自分の状況を伝えられるのと、通信手段を絶たれてじっと救助を待つのでは大きな違いがある。

世界遺産の村にケータイを届ける人たち

このときのエリア拡充を、村の人たちや観光で訪れる人たちに伝える大きな役割を果たしたのは、KDDIコンシューマ岐阜支店の営業担当者だ。

コンシューマ岐阜支店の大橋暢子は、同僚の山崎貴哉と一緒に、岐阜市内にある支店から片道3時間の道のりを運転し、何度も白川村に足を運んだという。エリアマップのポスターや4G LTEのエリア内であることを示すステッカーをつくり、人が集まる店を訪ね、ポスターとステッカーを張ってもらえるように頼んでまわった。

白川村に何度も足を運んだ、KDDIコンシューマ岐阜支店の大橋暢子と山崎貴哉

合掌造りをあしらったデザインのステッカーで、世界遺産で4G LTEを利用できることをアピールした

大橋と山崎は、村の人たちへau端末を届ける役割も担ってきた。人口1,700人ほどの白川村にはauショップがなく、村の人たちが気軽に端末に触れることができない。iPhone 6が発売された昨年9月から月1回のペースで、村の人たちにauの端末を届け続けている。その活動は、白川村からクルマで1時間弱、高山市(岐阜県)のauショップのスタッフの協力にも支えられているという。

大橋は、白川村のIT利用の現実について次のように語る。
「地方の村にはIT利用者が少ないイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。村には観光施設はありますが商業施設がなく、ネットショップを利用されている方はかなりいらっしゃいます。パソコンよりはタブレットがいいと、タブレット端末が人気です」

au端末を白川村へ届けたあとには、ウェブの使い方やメールの送り方を説明する簡易教室を開くほか、これまでに2回、スマートフォンやタブレットの使い方を詳しく解説する教室も開催した。こうした活動は協定の項目(5)に含まれるもので、村の人たちのITリテラシー向上と安全・安心なIT利用をサポートする。

海外からの観光客の心をつかむために......

白川村を訪れる観光客向けにも、協定締結以前から、KDDIはさまざまなサービスを提供してきた。スマートフォンのアプリやコンテンツの配信サービス「auスマートパス」には、さまざまな店で割引クーポンや商品引換券がもらえる会員特典がある。昨年夏と冬の2回、村内の複数の観光施設のクーポンを配信し、集客に一定の効果があった。

急増する海外からの観光客への対応にも取り組んでいる。昨年12月、KDDIグループ会社のワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)が、Wi-Fiスポットの無料接続と観光情報の無償配信を受けられる「Travel Japan Wi-Fi」のサービスを始めた。海外からの観光客の多くは、予約や利用の際にWi-Fiの無償利用をできるかを尋ねるようで、未対応の施設では予約や利用を見送られることも少なくないという。

Wi-Fiスポットがまだまだ少ないのは課題。Wi-Fi対応の有無が、海外からの観光客の予約や利用、満足度を左右する

地域おこし協力隊の大倉さんは、今回の締結をきっかけに、海外からの観光客が、より快適に白川村での滞在を楽しんでもらえるようになることに期待を寄せる。

「Wi-Fi環境も充実させてほしいですが、現金を持ち歩く習慣のない海外の方向けに、クレジットカード決済をできるようにするのも重要だと思っています。クレジット対応できていない観光施設も多いですから......。いまではスマートフォンやタブレットを使えば簡単にクレジット決済ができますが、白川村でそのことを知っているまだまだ少ないのが現実です。協定でのさまざまな活動を通じて、そうしたことへの認知が高まっていくのを期待しています」

通信の力で、村はますます魅力ある場所になる

協定締結前からのKDDIの取り組みとして最後に挙げるのは、KDDIの社会貢献サイト「キボウのカケハシ」で行なっている寄付支援活動だ。昨年10月、日本三大名山のひとつである白山の保全管理を行なう「白山国立公園岐阜県協会」を同サイトの寄付支援対象に加え、KDDIを通じて、白川村周辺の環境保全をサポートできるようになった。これは、協定の項目(6)の「自然環境・生活環境の保全」に含まれる取り組みだ。

KDDIの安田によれば、ここで紹介したさまざまな活動を踏まえ、「公益的な事業を担う通信企業として、ITを活用した地域活性化を推進するべく」今回の協定締結に至ったのだという。

なお、協定締結後に新たに始まったのが、先にも触れたスマートフォンとタブレット端末の貸与だ。今後はさらに、村内の小中一貫校・白川郷学園の社会教育にKDDIが参画し、教育環境のIT整備や生徒のITリテラシー向上をサポートすることが計画されている。協定の項目(5)で掲げられていた項目の実践と言える。

この社会教育で具体的に想定されているのは、ネットでトラブルに巻き込まれないためのITの安全・安心教育と、生徒自身がITツールを使って「地域新聞」を制作する支援だ。大倉さんは、白川村でのIT教育実施について、期待を込めて次のように語る。

「白川村は過疎化や高齢化に直面していますが、子どもの教育には、それがプラスに働くこともあると思います。都会では、子どもが大勢の人のなかで埋もれてしまいがちですが、ここでは子どもが少ないぶん、子ども一人ひとりと丁寧に向き合うことができます。豊かな自然を身近に感じられるのも、教育にはいいですよね。とはいえ、地方での暮らしは、かつてなら情報格差が大きなネックでしたが、IT教育が充実すれば、そのネックも克服できるのではないかと思います。それが、今以上に魅力ある村づくりにつながっていくといいですね」

白川村ならではの魅力を生かしながら、情報格差をいかに克服するか。通信の力でどこまで地域を活性化できるか、今回の協定は大きな試金石となるだろう

通信が地域活性化のためにできることはまだまだたくさんある――。KDDIと白川村の取り組みは、そのことを実感させてくれた。

通信の力で、村はどのように変わるのか。あるいは、今回の取り組みをきっかけに、通信会社はどのように地方と関わるようになるのか。「地方創生」が掲げられる今、世界遺産の村での取り組みは、地方や通信のあり方を問う試金石となりそうだ。

文:萱原正嗣 撮影:下屋敷和文

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