2017/05/23

『虹彩認証』時代、始まる! 意外と知らない虹彩認証のスゴさとは?

虹彩はどこにある?

犯罪捜査で指紋を最初に利用したのはロンドン警視庁で、1901年のことだったという。いわば、史上初のバイオメトリクス(生体認証)というわけだ。そして時は流れて21世紀。ハイテクな指紋認証機能でスマホのロックをピピッと一瞬で解除するのが当たり前の時代。スゴイねえ。と思ったら、こんどは指にかわって目の時代がやってくるというのだ。虹彩認証の出現だ。

虹彩が目のどのあたりのことをいうのか、知っている人は意外と少ないかもしれない。網膜と勘違いしている人もいるようだが、下の図のように、黒目のうち、瞳孔を取り囲んでいる、色の薄いドーナツ状の部分が虹彩だ。この虹彩の中に見える複雑で細かな線状の模様が、実は人によってまったく異なるのだという。

一生変わらない虹彩の模様

虹彩の模様は指紋以上に複雑なパターンをしていて、同じDNAを持っている一卵性双生児でさえも違う。この虹彩の模様はシワの一種で、瞳孔が開いたり閉じたりするときの筋肉の影響から、生後2歳までのあいだにできあがる。つまり、DNAだけでなく、赤ちゃんの目の動き方によっても模様が変わるのだ。

この虹彩の模様はいったんできあがってしまうと、その後は一生まったく変わることがない。また、右目と左目でも模様は違う。つまり、ひとりの人間を特定するのに、まさにうってつけなのだ。ちなみに、虹彩が指紋の代わりになることを最初に発見したのはアメリカの眼科医で、1986年のことだそうだ。案外、最近のことなのだ。

目の細い人も逆さまつげの人も大丈夫

この虹彩の模様をデジタルデータに変換して本人特定するのが虹彩認証システムだ。

虹彩認証では、まず本人の虹彩をカメラで撮影(スキャン)する。暗めの場所でも高精細に撮影するために、赤外線を用いるのが一般的だ。

次に画像から虹彩部分だけを取り出す。

そのドーナツ状の画像を特殊な計算処理で長方形の画像に変換する。

さらにその長方形の画像をものすごく細かく縦横に区分けし、これを数値化してデジタルデータにするのだ。このデジタルデータが本人データとなる。

あとは、認証のたびにスキャンしたデータをこの本人データと比較照合するというわけだ。

この虹彩認証がどれだけ精度が高いかというと、イギリスの国立物理学研究所の調査では、他人を間違って本人だとした率が100万分の1だったという。100万人に1人の割合でしか間違いが生じないということで、これは指紋認証や顔認証をはるかに上回る正確さなのだそうだ。

ここで「目の細い人でも大丈夫なの?」とか「逆さまつげの人は?」という疑問を持つ人もいるだろう。実際、開発当初は上まぶたの下がった細い目では精度は落ちたようだが、現在では、細い目の人でも精度が落ちないアルゴリズム(計算方法)に進化しているので、まったく問題はないという。また特殊な技術によって、写真などではない、ちゃんと生きている人間のものかどうかも判断できるという。偽造対策も万全というわけだ。

さまざまなシーンでの活用がスタート

指紋のようにセンサーに直接触れる必要もなく、偽造されにくく、認証にかかる時間も1秒以下と高速、認識精度もものすごく高い、と、いいことづくめの虹彩認証。スマホだけでなく、空港での入国審査、会社などでの入退室管理など、さまざまな場面でどんどん採用が進んでいくのは間違いないだろう。

すでにインドではなりすましなどを防ぐために、日本のマイナンバー制度にあたる「アドハープログラム」という国民の登録制度により、指紋認証、顔認証、そして虹彩認証の3つが併用されていて、すでに10億人(!)が登録済みだそうだ。ちなみに、このインドで活躍する大規模生体認証システムは日本の企業が開発したものだという。

虹彩認証システムのスマホへの搭載もどんどん進んでいくだろうし、支払いの決済を虹彩認証だけで行おうというシステムも考えられている。おサイフもなにも持ってなくても、お店のキャッシャーのカメラをじっと見つめるだけで、デビッドカードのように自分の口座からお金が支払われる。そんな時代がやってくるかもしれない。「目は口ほどにものを言う」ということわざがあるが、まさに、目はごまかしがきかないというわけだ。

文:太田 穣