2017/04/13

オフィス・ロボット『RPA』はあなたの仕事を奪うのか

オフィスに大挙してやってくるロボット

近年、AI技術の革新によって販売や製造の現場をはじめ、多くの職業が人工知能やロボットに代わられ、「消えてなくなる」可能性があると物議を醸している。ロボットというと、自動車や家電などの製造工場で働くロボットを思い浮かべやすいが、そのロボットたちがこれからはオフィスで働くことになるというのだ。

とはいえ、アシモみたいな人間型ロボットがデスクに座り、カタカタとキーボードを叩いたり、電話に出たりするわけではない。それはそれで楽しそうだが、ここでいうロボットとは、コンピュータ・システム内に常駐して、オフィス業務を自動的にこなしてくれるソフトウエアやAIのことだ。いわばパソコンの中で働く、目に見えない透明ロボットであり、それがRPA(Robotic Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)と呼ばれるものなのだ。

パソコンに詳しい人なら、それってエクセルなどのマクロファイルと同じじゃんと思うかもしれない。マクロファイルとはキー入力の順番など、パソコンの操作手順を記録し、決まりきった作業を自動化することができるもののことで、確かに似てはいるが、マクロファイルとは複雑さも能力も格段に違う。RPAはさまざまなメールソフトやブラウザなどのアプリケーションのあいだを必要に応じて動きまわって多様な作業を行い、しかもAIにサポートされたRPAは自分で学習して新しい解決法を見出し、人間に教えたりすることも可能なのだ。

すでにRPAは企業で活躍中

実際、RPAの導入は多くの企業で始まっていて、2016年4月には日本生命保険で「日生ロボ美ちゃん」という名のRPAが働きはじめ、なんと「入社式」まで行われたことが新聞などで話題になった。ロボ美ちゃんは請求書データのシステム入力作業を担当し、それまで1件あたり数分かかっていた作業をわずか十数秒でこなすという超働き者。しかも長時間残業だってへっちゃらだ。なにせ実体はソフトウエアなのだから。

こういったロボ美ちゃんのようなRPAのことを、仮想知的労働者(Digital Labor/デジタル・レイバー)とも呼ぶ。言い得て妙とはこのことだ。この仮想知的労働者は、人間と違って24時間働き続け、「給料」もものすごく安く、ミスもほとんどなく、文句も言わない。そんな仮想知的労働者と人間が共存できる社会が実現すると、人間は単調でつまらない作業から解放され、自由かつ創造的な仕事に没頭できるようになる。下の動画はNICEというアメリカのRPA開発会社がつくったCFだ。退屈でイライラするデスクワークに追われていた人間が、RPAのおかげで自由で本当にしたかったことだけを仕事にできるようになることをゴキゲンなミュージックビデオ風に描いている。

英語の歌詞はこんな意味だ。
「マウスでクリック キーボードをカチャカチャ メールに返信 ファイルにペースト 保存 クリック 削除 カチャカチャ これが毎日9時まで続く/退屈な仕事からおさらばだ 自分らしくいよう 僕のいちばんいいところを見せてやろう 夢を叶えをよう 僕の力を見せてやるんだ」

職業の半分近くがロボットに取って代わる

一方で、AIや認知技術がより発達してRPAに搭載されてくると、ロボットに取って代わられる人間の職業が増えてくるのもまた確実だ。野村総合研究所は、2025〜2035年頃には、現在の日本で人間が働いている職業の半分近くがRPAを含むロボットがするようになるだろうという予測を発表している。いわゆる一般事務的なものから人間の仕事はRPAに置き換わり、やがて判断や意志決定などの人間にしかできないと思われている領域にまでRPAは進出してくると言われているのだ。ということは、人間はロボットに仕事を奪われ、失業者が増えるということなのか!?

とはいえ悲観することはない。出生率が低く、超高齢社会を迎える日本は今後、労働人口が猛スピードで減少していくが、その不足したぶんの労働力をRPAなどのロボットが補ってくれる。その結果、人間は生命に関わる仕事やクリエイティブな仕事、新しい産業に従事するようになり、また労働時間も減ることで休日も増えるという。いずれにせよそのとき、オフィスの風景や私たちの働き方が今とは大きく変わっていることは間違いなさそうだ。

文:太田 穣