2016/08/19

ヘリまで出動? 岐阜県の山間部『白水湖』へ電波を届ける裏側に迫る

世界遺産・白川郷で有名な岐阜県白川村には、美しいエメラルドグリーンの湖がある。日本三名山のひとつ「白山」を中心とする白山国立公園内に位置する「白水湖」だ。

湖面がエメラルドグリーンに輝く白水湖(写真提供:白川村役場)

白水湖およびその周辺は、ブナ林をはじめとする手つかずの雄大な自然が残っていることから、近年は登山者やキャンパーといったアウトドア愛好家から人気を集めているが、携帯電話の電波がつながらず、利用者にとっては不便な状況が続いていた。

その状況を改善するため、白川村と地域活性化の協定を結ぶKDDIは、白水湖の通信エリア対策に着手した。しかしその工事は一筋縄ではいかず、太古から続く原生林を含む豊かな自然が残るこの地域に携帯電話の電波を届けるために、様々な苦難が待ち受けているのであった・・・・・・。

岐阜県北西部の山間部に位置する白水湖。アクセスは、世界遺産・白川郷からクルマで1時間ほど

白水湖へ電波を届けるために、離れた山に登るのはなぜ!?

7月某日、白水湖の通信エリア対策工事が行われるとのことで、T&S取材班はその取材のため現地へ向かうことにした。KDDIの担当者からは事前に「今回の工事は登山を伴うので、相応の装備を用意しておいてほしい」との連絡を受ける。

白川村に到着後、指定された場所でKDDIの担当者と合流。そこからクルマで山道に入り、舗装されていない林道をしばらく進むと、登山道の入口が見えてきた。この地点の標高は約850m。

登山靴に履き替え、両手にストックを持ち、登山の準備を整える。安全対策のためヘルメットも欠かせない

ちなみにこの山は、肝心の白水湖から9km近く離れた位置にある。白水湖に携帯電話の電波を届けるために、なぜわざわざ、そこから離れた山に登る必要があるのか? その謎は後ほど明らかになる。

そしていざ、登山開始。前日に降った雨の影響で路面はぬかるんでいる。T&S取材班とKDDIの担当者たちは、滑ったり転倒したりしないよう、一歩一歩慎重に歩を進めていく。

KDDIの担当者のひとりである岡田。ぬかるんでいる地面に足をとられそうになりながら、そして肩で息をしながら、一歩一歩慎重に歩を進める

機材の運搬は人力では無理。ヘリコプターが大活躍!

足元の悪いなか歩くこと約2時間、ようやく山頂にたどり着いた。山頂の標高は約1,500m。

山頂に到着後、KDDIエンジニアリングの岡田 敏に今回の工事の概要について聞いてみた。

KDDIエンジニアリング中部支社の岡田 敏。今回の通信エリア対策工事を指揮する

――なかなかハードな登山でしたね。

「はい、しんどかったです。勾配が急なうえに、前日の雨のせいで路面がぐちゃぐちゃになっていたので」

――今回は白水湖に電波を届けるための工事ですよね。それなのに、なぜわざわざそこから9kmも離れた山に登る必要があるんですか?

「通常であれば、電波を届けたい場所に基地局を設置し、通信に必要な通信回線(固定回線)を引き込むことで通信エリア対策を行いますが、白水湖は山あいにあり、そこまでの道も入り組んでいるため、通信回線を引き込むことが困難です。そこで、通信回線の代わりに、遠くから電波を飛ばすという手法が用いられることになりました。"無線エントランス"と呼ばれる手法です。

無線エントランスを設置する場所は、目標の基地局に向けて電波が飛ぶように、周辺に障害物がない見通しの良い場所である必要があります。それがこの山頂であり、山の中なのでクルマで来ることができず、登山でここまで来なければならないんです。

麓の基地局から飛ばした電波を山頂の基地局のアンテナで受信し(①)、それを増幅して再送信することで(②)、9km離れた白水湖の通信エリア対策を図っている

また、基地局を運用するためには電源が必要です。この山頂には電源がないため、ソーラーパネルと蓄電池を用いることとしました。このようなケースは極めて珍しいです」

白水湖から約9km離れた山の山頂に設置されたアンテナ。ここから白水湖に向けて電波を飛ばす

――今日の工事の目的は?

「アンテナの方向調整を行い、無線エントランスによる基地局間の送受信を調整する試験です。鉄塔に登って、アンテナの位置を動かして、電波が一番良く届く方向に調整します」

――先ほどおっしゃったように、この山頂には登山で来るしかないわけですが、アンテナやソーラーパネルなどの機材はどうやって運んできたんですか?

ヘリコプターを利用しました。ヘリコプターは十分な視界の確保を必要とする飛行条件が定められているため、悪天候のときは利用できません。機材を運搬する時期は梅雨時と重なってしまったので、予定していた日に飛ばないなど、不測の事態もありました。また、ソーラーパネルは縦3×横6.7mと非常に大きく、重さは240kgもあり、運搬にとても苦労しました」

アンテナやバッテリーといった機材をヘリコプターで山頂まで運搬している様子

――通信エリア対策工事でヘリコプターを利用することはよくあるんですか?

「いえ、特殊なケースです。それだけ白水湖に電波を届けるというのは大変なことなんです」

携帯電話が使えるかどうかは、人の命にも関わる

山頂での取材を終え、岡田らKDDI担当者と別れたT&S取材班は、実際に白水湖を訪れてみることにした。

白水湖に向かう道の入り口には、通行規制に関する注意書きが。激しい雨の際は通行止めになるようだ。また、冬季(11月〜5月末)は閉鎖されるとのこと

白水湖のある白山国立公園は、総面積49,900haを誇る山岳自然公園

平瀬温泉から白水湖へ向かう道路(県道白山公園線)は、対向車とすれ違うのが困難なほど道幅が狭い。道の両側には木々が生い茂り、車内からでも自然豊かな地であることが感じられる。

国道156号線の分岐から県道白山公園線に入り、クルマで進むこと約40分、白水湖に到着した。

白水湖湖畔からの眺め。前日の雨の影響で水が濁り、事前に写真で見たエメラルドグリーンではなかったが、それでもしばらく眺めていたいほどの美しさをたたえていた

湖畔にたたずむ『白水湖畔ロッジ』

湖畔には『白水湖畔ロッジ』という小屋がある。ここは白山の岐阜県側登山口にある唯一の宿泊施設であるとともに、訪れた観光客には食事や飲み物を提供している。また、周囲には大白川露天風呂白山ブナの森キャンプ場白水の滝といった人気のスポットが点在しており、この地域ならではの雄大な自然を満喫することができる。

今回、白水湖周辺でようやく携帯電話が使えるようになったことについて、『白水湖畔ロッジ』の代表である所 益丈さんは次のように語る。

『白水湖畔ロッジ』代表 所 益丈さん

「山小屋を営み、自然で暮らす者として、携帯電話がつながることについて複雑な思いがないわけではありません。ベテランの登山者のなかには『山で携帯電話なんてつながらなくていい』と言う方もいます。しかし、携帯電話がつながるかどうかは、時に、人の命に関わる問題になることも事実です。白水湖に向かう一本道は、ひとたび大雨が降ると通行止めになり、外界と完全に遮断されてしまいます。そうなると、登山客や観光客にとって、このロッジが避難小屋としての役割を果たすことになります。また、天候に関わらず、登山者から緊急救助の要請を受けることもあります。そういった状況では、携帯電話が使えるかどうかが非常に重要になってきます」

"白水湖でつながる"は、行政としての悲願でもあった

白川村役場 観光振興課 尾﨑達也さん

白水湖周辺で携帯電話が使えるようになることは、同湖を管理する白川村にとっても悲願であったようだ。

白川村役場観光振興課の尾﨑達也さんの話。

「これまで、白水湖周辺で携帯電話を使えないのは、村としてかなり痛手でした。白川村は伝統文化や大自然など観光資源を豊富に有しているのですが、観光形態が世界遺産に登録される合掌造り集落に一極集中しています。白水湖のほかブナ原生林や温泉といった豊かな自然を誇る南部エリアの魅力も、多くの方に知っていただきたい。しかし、電波がつながらないとなると、来てくださる方には不便を強いることになり、その魅力が半減してしまいます」

『白水湖畔ロッジ』の所さんと同様、携帯電話が使えるかどうかは防災や緊急救助の面でも非常に重要だと尾﨑さんは言う。

「台風シーズンに観光客や登山客が白水湖畔ロッジに取り残される事態が実際に生じています。平瀬温泉から白水湖に向かう県道白山公園線は道幅が狭く、落石などの危険箇所も多くもあり、工事による規制も少なくありません。また、白水湖畔ロッジは白山登山の拠点でもありますが、白山は活火山であり、噴火に対する警戒も欠かせません。

そういったリスクに備え、安全に配慮することは、私たち行政としての責務ですが、これまでは通信環境の脆弱さが大きな課題となっていました。白水湖周辺でauがつながるようになることは、それらを解決する強力な手段のひとつになります

2014年の地域活性化の協定締結以来、KDDIさんとはいい関係を築いてきました。今後も私たち行政だけではやれないことを広げていきたいし、引き続きともに取り組んでいきたいですね」

人口カバー率99%を超えるauのLTE通信網。日本全国、つながらない場所は限りなくゼロに近いが、完全にゼロではない。日々の快適な暮らしのために、そしてあらゆるシーンで利用者の安心と安全を守るために、「つながらない」を「つながる」へと変えるKDDIの取り組みはこれからも続く。

文:榎本一生
撮影:有坂政晴

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