KDDI NEWS

2014/11/05

グローバル通信を支える光海底ケーブルが次世代に進化 太平洋横断光海底ケーブル「FASTER」

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2014年8月、KDDIとGoogle、China Telecom Globalなど6社は、日米間光海底ケーブル「FASTER(ファスター)」の共同建設協定を締結した。光海底ケーブルとはどのようなものなのか、また今回建設するFASTERの特徴について、KDDIグローバル技術・運用本部グローバルネットワーク・オペレーションセンターの戸所弘光、荒木正範、高橋英憲に聞いた。

名前どおり「海の底」をはうケーブル

「光海底ケーブル」という言葉は聞いたことがあっても、実際にどのような形をしているのか、見る機会はなかなかあるものではない。

光海底ケーブルシステムの概念図。
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光海底ケーブルシステムは、一言で言えば、光ケーブルを何本も継いで海底をはわせて、数千kmから1万㎞の距離がある陸地間をつなぐシステムだ。送信側の陸揚局から送られる光信号を光ケーブルに送り込み、距離が進むにつれて減衰する光信号を中継器で増幅しながら受信側の陸揚局まで伝送する。

ケーブルは若干のたるみを持たせながら、海底をはわせるように設置されている。「よく海溝のような狭くて深い谷のところはどうしているんだと聞かれますが、海底をはわせるか、その部分を避けて設置します。一部分だけ浮いた状態では、ケーブルが擦れて被膜が傷つき、そこから破損することになってしまいますから」と、戸所は説明する。建設時には、ケーブル製造工場で一連長に接続したケーブルと中継器を敷設船からゆっくりと海底に下ろしていく。敷設後にケーブルが切られた場合、継ぎ目の部分の接続は、ケーブルを深海から海上に引き上げて敷設船上で行う。光ファイバーが少しでもずれれば大陸間の通信が切れてしまう、大変な精度が要求される作業だ。

ケーブルの太さは一様ではなく、水深に応じて数種類のケーブルを使い分けている。正確に言えば、信号を伝送するケーブルの太さ自体は同じなのだが、ケーブルを保護する外装部分が異なる。浅いところでは太く重いケーブル、深海では細く軽いケーブルを使う。浅い海では漁船の網、船の碇など、ケーブルを傷つける要因が多いため、外装が厚いケーブルが必要となる。一方、深海では、ケーブルを設置したり修理する過程で、重いとケーブル自身の重さで切れる危険性が高くなるため、できるだけ軽いケーブルを使用するのだ。といっても、水深3,000m以上の深度で使用する、一番細い「LWケーブル」でさえ太さは17ミリもあり、人の力では曲げられないくらいの硬さがある。

「UNITY」の陸揚げ工事の様子 =2009年11月、千葉県南房総市

初めての太平洋横断海底ケーブルである「TPC-1(第一太平洋横断ケーブル)」が運用を開始したのは1964年。電話138回線を収容する同軸ケーブルだった。初めての太平洋横断光海底ケーブル「TPC-3」が開通したのは1984年のことだ。今年2014年は、太平洋横断海底ケーブル開通から50周年となる節目の年だ。現在では、日本の国際通信の約99%が光海底ケーブルを経由する、重要なインフラへと成長している。

現在、日米間はいくつかの光海底ケーブルが結んでいるが、その中で主力となっているのは、2010年に運用を開始した「UNITY」だ。当初の設計容量は約4.8Tbps(テラビット/秒、1テラ=1兆)だったが、増え続ける日米間のトラフィックに対応すべく、20Tbpsへの容量アップを図っている。Tbpsは、Gbpsの1,000倍、Mbpsの100万倍である。

一方で、UNITYの容量増加は、「他の海底ケーブルに比べて性能が高くなり過ぎて、全体のトラフィックの中に占める割合が高くなり過ぎる」という新たな問題を引き起こした。全体の容量を増やすことももちろん必要だが、UNITYのバックアップもできる大容量ケーブルの建設が急務となったのだ。そこで、2016年第2四半期の運用開始を目指し、新たな日米間光海底ケーブル「FASTER」の共同建設協定が締結された。

ディジタルコヒーレント伝送技術を全面導入した次世代光ケーブル

FASTERは総延長約9,000km、千葉県南房総市および三重県志摩市とアメリカ・オレゴン州を結ぶ。当初の設計容量は世界最大規模の60Tbps。発表資料では「高精細映像(15Mbps)を約400万人が同時(かつオンデマンド)にストリーミング視聴することができる速度」と説明されている。「以前はケーブルの容量を説明するのに『電話何万回線相当』と説明していたのですが、だいたい10Gbpsで12万回線ですから、60Tbpsにもなると、あまりにも実感がわかないですよね。今は映像の時代ですから、それに説明の仕方に変えました」と戸所は語る。

光海底ケーブルについて話すKDDIグローバルネットワーク・オペレーションセンターの(左から)高橋英憲、荒木正範、戸所弘光

FASTERの特徴は、はじめから、最新の光伝送技術であるディジタルコヒーレント伝送技術を導入する前提でシステムを設計したことだ。高速ディジタル信号処理と組み合わせて、光が持っている波としての性質(位相情報等)を利用して伝送できる情報量を増やし、より大容量の通信を可能にする。「同じ広さの道路にたくさんの車が通れるようになったイメージで、従来に比べると数倍の容量が伝送できるようになります」と高橋は説明する。

ディジタルコヒーレント伝送技術導入によるメリットは、大容量化だけではない。従来は光ファイバーの中を光が伝送していく途中で生じる波形の乱れを補正するために、伝送路の途中に異なる種類の光ファイバーを差し挟む必要があった。ディジタルコヒーレント伝送技術では受信機でディジタル信号処理によって補正すればよいのでその必要がなくなり、端から端まで1種類の光ファイバーで構成できる。ファイバーの種類が1種類ということは敷設や保守も楽になる。「今後はこの方式が標準になると考えています」と、高橋はその先進性を語る。

光海底ケーブルは25年間の使用を前提に設計するが、技術の進歩が著しい昨今では、25年を待たずに高速化のための新しい技術がどんどん実用化されていく。一度敷設したケーブルはおいそれとは交換できないが、設計次第で送受信機の改良などにより容量を増設できる。そのため、光海底ケーブルには、耐用年数中の技術の動向を見極めた設計が必要とされるのだ。

UNITYからFASTERへの進化は、伝送技術の世代交代ともいえる。「光ファイバー内の1チャネル当たり40Gbpsという伝送速度は、これまでの世代(UNITYまで)のスタンダードでしたが、次の世代であるディジタルコヒーレント伝送技術では100Gbpsがスタンダードになりつつあります。FASTERは、最初から1チャネル当たり100Gbpsで設計している次世代の光ケーブルです。将来の1チャネル当たり400Gbpsや1Tbpsの時代でも活躍できるケーブルと考えて設計しています」(高橋)。

文字どおり「同じ船に乗る仲間」のためにも重要な災害対策

UNITY、FASTER、SJCのルート(上)とグローバルな光海底ケーブルネットワーク(下)。KDDIは日本と170以上の国・地域を結ぶ通信サービスを提供している

FASTERを敷設するコンソーシアムには、日本からはKDDI、中国からはChina Mobile InternationalとChina Telecom Global、マレーシアのGlobal Transit、米国のGoogle、シンガポールのSingTelの6社が入っている。「コンソーシアムを作るというのは、25年間、同じ船に乗り続ける仲間を集めるということです。協力して運営にあたり、ケーブルが切れたらお金を出し合って船を出し、修理する。晴れた日にも嵐の日にも、病める時も健やかな時も、常に仲良くケンカしないでやっていけるように、信頼関係を築くことが肝心です」と、取りまとめにあたった荒木は説明する。

FASTERは日米間の太平洋横断ケーブルだが、コンソーシアムには中国、マレーシア、シンガポールからも参加している。実は、FASTERは日本側の陸揚地である千倉を経由して、中国やシンガポールをつなぐ光海底ケーブル「SJC (South-East Asia Japan Cable)」に接続されることになっている。それによって、中国、マレーシア、シンガポールから米国へも大容量で伝送できることになる。距離を見ても、シンガポールとアメリカを結ぶ最短ルートは千倉沖を通るので、日本で一度陸揚げできるルートは都合がいい。既設のケーブル網と合わせて接続先拡張や大容量伝送を図れると評価しての参加だ。

他国の事業者からの期待に応えるためにも、日本の陸揚げ施設の災害対策は重要だ。FASTERの陸揚局であり、SJCとの接続も担う千倉第二海底線中継所は、津波が来ても大丈夫な、海抜28メートルの高台に新設されている。震度7の地震にも耐える構造で、伝送装置のみならず給電装置も備えられており、現行の千倉海底線中継所が津波で水没するような事態になっても稼働し続けられる。また、FASTERは日本近海での海底ケーブル自体の破損に備えて南志摩海底線中継所にも陸揚げされ、千倉行きのケーブルが地震等で切断されても、南志摩から給電して通信を継続できる。米国側の陸揚地をUNITY含め多くの太平洋横断の光海底ケーブルが陸揚げされているカリフォルニア州ではなくオレゴン州にしたのも、「カリフォルニアとオレゴンが同時に地震や津波で被災する可能性は極めて低いから」(荒木)だという。陸揚地を分散させることで、海底ケーブル間で相互にバックアップができる体制を実現し、災害時でも日米間の通信を途切れさせないことを狙っている。

FASTERは約1年半後の2016年第2四半期の運用開始を予定している。世界的なスポーツイベントの映像伝送にも光海底ケーブルは活用されており、FASTERにも大きな期待がかかる。「4K、8Kなどのマルチアングル映像をオンデマンドで見るような時代が来ますから、海底ケーブルの容量が大きいことには意味があります」と戸所は語る。ICTを活用した新しいサービスの展開を支える、縁の下ならぬ「海の底」の力持ちが光海底ケーブルなのだ。

文:板垣朝子

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