2014/04/28

いよいよやってくる『Firefox OS』(3) 楽天

Firefox OS対応のアプリケーションを提供し始めた日本企業の1社に、楽天がある。楽天はリクルートホールディングスと並んで、2014年2月にFirefox OS向けのアプリの提供開始をアナウンスした。その意義を楽天ではどのように捉えているのか。楽天 編成部 モバイル戦略課課長の筈井昌美(はずいまさみ)氏に聞いた。

"楽天全部入り"のアプリ「楽天ゲートウェイ」から提供

楽天のFirefox OS向けアプリの第一弾は、楽天グループのサービスを網羅するポータルアプリ「楽天ゲートウェイ」だ。2014年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMozillaのイベントで披露した。楽天がFirefox OS対応の取っ掛かりとなるアプリに楽天ゲートウェイを選んだ理由は、このアプリの位置付けにある。筈井氏に、まず楽天ゲートウェイについて説明をしてもらった。

「楽天ゲートウェイは、楽天グループの戦略的アプリケーションで、楽天グループの約50のサービスを1つのアプリで網羅して利用できます。50ものサービスのそれぞれのアプリをスマートフォンに入れてもらうのは大変ですから、1つにまとめたアプリを作ったわけです。楽天グループには、楽天スーパーポイントというポイントサービスがあります。これをフックにして楽天経済圏を縦横無尽に使ってもらおうというアプリが、楽天ゲートウェイです」

楽天 編成部 モバイル戦略課課長の筈井昌美(はずいまさみ)氏

楽天では、スマートフォン向けのポータルアプリを提供し、楽天グループのサービス間の回遊性をさらに高めたい考えだ。Firefox OS関連の本題に入る前に、もう少しだけ楽天のスマートフォンに対する取り組みについて聞いていこう。

「数年前に私が楽天に着任したころ、楽天にはスマートフォン向けの専任部門がありませんでした。スマートフォン向けのアプリはなく、Webサイトもスマートフォン向けに最適化されていないという状況でした。モバイル向けのビジネスは展開のスピードが速く、倍々ゲームで伸びている状況でしたから、スマートフォンへの対応は急務です。アプリ開発、Webサイトの最適化はトップダウンで進められました。そうした中で、編成部という各事業セクションから中立の立場で、楽天グループのサービスをクロスユースできるプラットフォームとして、楽天ゲートウェイを強力に推進することになったのです」

事業セクションでは、自分たちのセクションの売上や利益が最優先される。ポータルアプリの必要性は理解しても、対応が後手になる可能性がある。筈井氏のいる編成部が経営トップと手を取り、楽天ゲートウェイの開発を進めたのである。

「編成部は楽天グループの中でR&Dセクションに近い性格も持ち合わせています。楽天ゲートウェイは、グループのポータルアプリという側面だけでなく、楽天グループのアプリに機能を横展開するための実験場という側面もあります」

楽天のコンテンツと相性が良いWeb OSで横展開へ

当初、一部のAndroid端末向けのプリインストールアプリとしてスタートした楽天ゲートウェイは、現在までにAndroid、iOS、Windows 8と対応を広げてきた。そして2014年にはいち早くFirefox OSに対応させた。

「次の展開を考えたとき、2014年には、Webアプリを中心にした、いわゆるWeb OS環境が1つのキーワードになるのではないかと考えました。楽天はもともとWebの会社ですので、楽天のコンテンツとWeb OSは相性が良く、さらにWeb技術の開発者がiOSやAndroidと比べて圧倒的に多いこともあります。戦略的に力を入れている楽天ゲートウェイが、今後注力するプラットフォームとして、応用範囲が広いWeb OSに目をつけるのは自然な流れでした」

楽天グループを横断するアプリである楽天ゲートウェイの今後の展開に向けて、デバイスやサービスの枠を超えて横展開しやすいWeb OSは好適だった。そうした状況で、標準的なWeb技術を使ったスマートフォン向けプラットフォームとしてFirefox OSが登場した。

「Firefox OSは、国内でもKDDIとコラボレーションすることが公表されていましたし、国内外のビッグネームも参入してきました。トライアンドエラーを通じて、Web OSの知見を蓄えるのに適したプラットフォームだと考えました」

"楽天全部入り"のアプリ「楽天ゲートウェイ」

その背後には、アプリとWebのせめぎ合いもある。アプリとWebにはそれぞれにメリットもデメリットもあり、スマートフォンの世界で決定的なビジネスモデルはまだ誰も作り得ていない。

「WebアプリのベースとなるHTML5は、技術が大きく進化しています。まだゲームなどでやや追いつかない部分はあるとしても、かなりネイティブなアプリに匹敵するような表現力を持つようになってきました。表現力が同じであれば、開発者が多くて横展開しやすいWebを選びたいというのがコンテンツプロバイダーの本音です。しかし、"スマートフォンといえばアプリ"という考え方もユーザーには一般に浸透しています。同じコンテンツでもWebだと失望されてしまうのです。スマートフォンでは"アプリ"のケイパビリティーが高く、ネイティブなアプリもなくならないでしょう。そうした中で、Web技術を使いながらアプリを提供できるFirefox OSのようなプラットフォームに、可能性を感じています」

楽天ゲートウェイは、画面を横にスワイプすることでタブを切り替えて、ホーム、買い物、旅行、料理、読み物など利用者の日常生活で必要になる情報をまるごとカバーしている。Firefox OS用の楽天ゲートウェイアプリを実際に見せてもらうと、Android向けやiOS向けのものと同じように動作する。Firefox OSだから、という言い訳を感じることなく使える。それではFirefox OS向けのアプリの開発には苦労はなかっただろうか。

「開発は初めてのことだったので、調べながら進めたというのが実情です。しかし、楽天にもWebの開発者は大勢いますし、時間はそれほどかかりませんでした。バグをつぶしながら、チューニングして作り上げた印象ですけれど、一から作るより楽でした。こうして知見を蓄えることで、今後の開発はスムーズに進むようになります」

地域によってはiOSやAndroidアプリより先行する可能性も

開発したFirefox OS向けアプリはバルセロナで公開したが、国内では現時点では対応端末がない。それでは楽天ゲートウェイのアプリをグローバルですぐに提供する計画があるのだろうか?

「楽天ゲートウェイで提供しているサービスが日本向けのサービスなので、残念ながら現時点では海外では利用できません。それでも、バルセロナでは各国のメディアや通信事業者、キーパーソンなどの反応はとても良かったと感じています」

リクルートホールディングスは、制作したFirefox OS向けアプリをグローバルでエンドユーザーに提供する戦略を取っている。一方の楽天ゲートウェイは、海外では現時点では使えない。それでは、グローバルへの展開にはどんなステップを考えているのだろう。

「世界を見ると、楽天グループのコンテンツは、Webをスマートフォン向けに最適化を進めている段階で、アプリはこれからというところですが、ブラジルなど中南米や東欧諸国などのマーケットでは、Firefox OS搭載スマートフォンのように低価格な端末の普及が進むことも予想できます。そうなったとき、Web最適化の次は、AndroidやiOS向けのアプリの制作ではなくて、Firefox OSのようなWeb OS向けのアプリを先行させることもあるかもしれません。そうしたときに、Firefox OS版の楽天ゲートウェイで得た知見が生かされると考えています」

Firefox OS向けのアプリを開発した経験は、国内にせよ、グローバルにせよ、楽天のコンテンツやアプリの戦略を補強し、今後の展開に役立つ。Firefox OSを飛び道具のように使って新しい世界を切り開くというよりも、早く手慣れたツールにして現実的なアイデアの実現に役立てようとしている印象だ。

「Firefox OS向けのアプリを作ってみて、スムーズな操作感は80点以上あげられるかなと思っています。限られたハードウエアリソースで動くアプリとしては良く出来たと思いますし、それがネイティブアプリよりも少ない工数でできるのは魅力的です。さらに、Firefox OSのオープン性や高い自由度は、今後の可能性の広がりを示しているでしょう。楽天では楽天スーパーポイントでエコシステムを形成しています。今後、楽天スーパーポイントも含めた独自のペイメントのプラットフォームが必要になったとき、自由度の高いFirefox OSなら、他のプラットフォームよりも実現の可能性は高そうです。Mozillaのコミュニティにも技術者を参加させ、Firefox OSの成長を見守っています」

文:岩元直久  撮影:高橋正典

presented by KDDI

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