2014/03/17

人と人をつなぐ通信を、止めない――KDDI大ゾーン基地局が目指すもの

KDDI新宿ビル屋上に設置された大ゾーン基地局アンテナの一つ

東日本大震災から3年。未曽有の大震災で明らかになったのが、災害時のインフラとしての携帯電話の重要性だった。KDDIでは、首都圏直下型地震が発生したときでも、音声通話やデータ通信など携帯電話サービスの提供が継続できるよう、4G LTEにも対応した「災害用大ゾーン基地局」を導入した。その概要と運用について、KDDI技術企画本部の松石順應に聞いた。

10局を無線で接続して首都圏をカバー

KDDIが大ゾーン基地局建設に取り組むきっかけとなったのは、東日本大震災後、あらためて次の巨大地震の可能性として南海トラフを震源とする巨大地震や首都圏直下型地震の危険性が注目されたことだ。東日本大震災時の状況を振り返ると、特に首都圏直下型地震では、復旧作業を最大限急いでも、最低限必要な通信の確保に課題があったからだ。

KDDI技術企画本部の松石順應。左はバックホール回線用のマイクロ波アンテナ

「社内では、首都圏直下型地震を想定した、新たなバックアップインフラの構築が必要だという議論があり、10局の大ゾーン基地局の配備が決定しました」と松石は経緯を説明する。

大ゾーン基地局の一番の特長は、なんといっても1局でカバーするエリアが広いことだ。通常運用している基地局は、できるだけエリアを密に作るために、チルト(発射する電波の角度を下げること)によってエリアを調整する。1つの基地局がカバーするエリアは、都心部で半径数百メートル程度、地方でも半径1~2km程度だ。一方、大ゾーン基地局は、1つの基地局でエリアを最大限に広くカバーするために、アンテナを高い位置に設置し、基本的にチルトを行わずにエリアを最適調整した。こうすることで、半径7km~10kmの範囲をエリア化することが可能となった。一番高い位置にあるアンテナは、新宿のKDDIビル屋上で、高さは172mにもなる。エリアとしては、10局で、東は千葉市、北は川口市、西は立川市から川崎市のあたりまでをカバーする。

大ゾーン基地局のバックホール回線(コアネットワークへの接続)は、マイクロ波無線と光ケーブルで二重化している。東日本大震災の時には光ケーブルが切れて接続ができなかったケースがあり、無線での接続は必須であると考えたという。衛星回線による接続も検討したが、設置が簡単な反面、回線容量が小さく、大容量の通信は難しいので大ゾーン基地局のバックホール回線には適さないと判断した。「無線での接続は直接基地局と通信センターを接続できるわけではないので、途中に中継地点を設ける必要があります。そのための設置場所の選定には苦労しました」(松石)。13カ所の無線中継専用設備と10カ所の基地局、合計23カ所の中継地点を利用して経路を設計し、無線でのアクセスを確保している。

「ブラックアウト」発生時でも緊急通話を確保

大ゾーン基地局は、周波数帯は2GHz帯と800MHz帯の両方に対応しており、通信方式もCDMA 1x、1x EV-DO、LTEとすべてに対応している。「平常時には無線装置として運用していますが、電波だけは出していない状態でスタンバイしています」(松石)。運用を想定しているのは、地震や津波が原因となった「ブラックアウト」が発生し、通常の基地局網での通信が困難なエリアが広がった時だ。

携帯電話の基地局には3時間程度は稼働できる容量のバッテリーが設置されているため、停電があっても3時間以内に復旧すれば止まることはない。逆にいえば、3時間以上継続する停電があると、急激にダウンする基地局が増加し、エリア全体が通話不可能になる「ブラックアウト」が発生する。実際に東日本大震災の時も、津波で回線や基地局施設そのものが流失した地域以外で、基地局の大規模ダウンが発生したのは、地震からほぼ3時間経過後のことだった。

大ゾーン基地局はこのような状況が発生したときに威力を発揮する。既存基地局のダウン状況から影響範囲を見極めた上で、ブラックアウトしている地域の通信を回復するために必要な大ゾーン基地局を立ち上げる。

収容数は最大限確保しているが、大地震の時には通常の10倍以上の通話が発生することが予見される。「運用としては、通常の基地局と同様に、緊急通報と災害優先電話を優先します。あくまでも緊急用の通話を担保するのが第一の目的なので、全てのユーザーの通話を大ゾーン基地局で対応することは難しいと思われます」(松石)。それでも「緊急通報ができなくて救急車が呼べない」といった事態を回避できるのは大きい。

重要拠点の基地局24時間化と組み合わせて、一般ユーザーの通信を確保

東日本大震災時に大きな課題となったのが、帰宅困難者対策だ。特に、被災者が集中する駅周辺では、安否確認のための通話需要が増えることが予想される。KDDIでは、首都圏の主要駅周辺にある基地局については24時間化(大容量バッテリーにより、停電後24時間は継続運転可能)が完了しているので、3時間以上の停電が継続した場合でも駅周辺エリアでは通話が可能。全国では、約2,000局の24時間化が2012年度末にほぼ完成している。

大ゾーン基地局と24時間基地局を重ねて運用することで、緊急用通話の確保と安否確認用の通話需要に同時に対応する。「東日本大震災で経験したのは、時間の経過に伴い携帯電話の使い方が変わるということでした。最初の安否確認は圧倒的に音声通話で、家族に『無事』を知らせるのは音声。時間が経つとメールやインターネットの需要が増え、安否連絡から情報を求める方向へと使い方が変わり、データ通信需要が増えることが見えています。そこのバランスを取りながら全体の通信量をコントロールしていきます」(松石)。

なお、大ゾーン基地局については、設置場所はすべて免震構造の無停電ビルであるとのことだ。

災害対策には日頃の備えが大事

東日本大震災の被害を拡大したのは、未曽有の大津波だった。海沿いの地域は基地局設備も倒壊・浸水してしまい、長期間にわたって通信が停止した。KDDIでは、そのような場合でも沿岸部のエリア確保が可能になる手段として、船上基地局の実地試験を2012年に行っている。海上保安庁、総務省と協力して、巡視船に可搬型基地局を積んで沿岸にアンテナを向けて電波を飛ばし、バックホール回線は衛星を利用する。

実証実験は成功し、十分実用出来るレベルであることは確認した。現在は、少しでも早い実用化のため、臨時措置対応などで運用することも検討している。

3月8日には、KDDIは東京都内で大規模な模擬訓練も実施した。また、この時期に合わせ、3月8日から3月16日まで、「災害用伝言板」と「災害時音声お届けサービス」を体験提供している。これは毎月1日と15日、正月3が日、防災週間、防災ボランティア週間にも実施しているものだ。

「普段から家族や近所の人と連絡手段を確認するだけではなく、災害アプリなどの使い方の練習もしておいた方がいいと思います」と、松石は普段の備えの重要さを語る。連絡手段を決めるだけではなく、連絡がとれなかった場合に備えて避難場所を決める、実際に災害用伝言板を使って情報をやり取りするといった訓練が必要だ。実際にやってみると、「誰の番号に伝言をセットするかを決めておく」など、決めなくてはいけないことが見えてくる。基本は、「被災した可能性があると(ほかの方に)思われる人が、自分の番号に伝言を登録する」使い方だが、家族の状況によって変えてもよい。地震の時に集まる場所を家族で決めておくように、安否情報も集める番号を決めておく方がよい。

もちろんKDDIでも、通信事業者の務めとして24時間監視体制を敷くほか、日ごろから訓練は欠かさない。いざという時、重要拠点に徒歩や自転車で駆け付けるための「参集訓練」を定期的に行っている。また、万一関東全域の設備が使えなくなったときのために、大阪にバックアップセンターを置いており、設備復旧のオペレーションメンバーも配置するなど、万全の備えをとっている。

「東日本大震災時に比べると、回線の多重化などの対応が進んでいますので、復旧は早いと思います。もちろん私たちも一刻も早い復旧を目指して最大限努力していますが、復旧までの連絡手段として、SNSを使われる方も多いと思います。しかし、SNSは、つながっている友達に連絡する手段としては有効ですが、すべての人に伝わるわけではありません。一方、災害用伝言板や音声お届けサービスは、すべての通信事業者で共通に使えるようになりましたので、こうしたサービスも上手に活用していただきたい」(松石)

なお、災害時には、つながらないからといって何度も携帯電話で発信を繰り返すことは避けてほしい。「ネットワークに負荷がかかるだけでなく端末のバッテリーも無駄に消費してしまいます」(松石)。通話は控えてなるべくデータ通信を使い、災害用伝言板や音声お届けサービスを活用する。auのAndroidスマートフォンには、安否登録・確認ができるサービスが「au災害対策」アプリとしてプリインストールされているので、確認しておきたい。

「東日本大震災から3年が経過し、記憶が徐々に風化しつつある中、災害対策担当として災害に備えることの重要性をあらためて肝に銘じています。また皆さまにも、災害関連アプリやサービスを継続的に使っていただく訓練をして、災害に備えていただきたいと思います」(松石)。非常時だからこそ、通信サービスの円滑提供は通信事業者の役割である。そのための備えは、日々、進んでいる。

文:板垣朝子 撮影:斉藤美春

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