2013/10/09

日本の衛星通信の要 山口衛星通信所

日本で衛星通信がスタートしたのは、今から50年前のこと。衛星通信は、その役割を変えながらも、現在も、国際通信やモバイル通信において重要な役割を果たし続けている。

50年に及ぶ日本の衛星通信の歴史

1963年11月23日(米国時間では22日)、日米間でテレビ衛星中継実験が成功し、日本とアメリカが衛星回線でつながった。この実験は、日本人が衛星通信を体験した歴史的な一歩であった。奇しくも、当時のアメリカ大統領であるジョン・F・ケネディが暗殺されたという衝撃的なニュースをいち早く日本にもたらし、世界のニュースをすぐに伝える衛星通信の威力をまざまざと見せつける結果となった。

この中継を日本側で受信したのは、茨城県十王町(現・日立市)に開所したばかりのKDD茨城宇宙通信実験所(後のKDDI茨城衛星通信センター)だった。日本は衛星通信に取り組むのが初めてであったにもかかわらず、開発されて間もないカセグレン・アンテナという新方式のアンテナを採用した。

当時、最高の性能とうたわれていたホーンリフレクタ・アンテナは、とても大きくて多額の費用がかかるために、予算が少なく、地震などの災害が多い日本では建設するのが難しかった。そこで、小さな形状で性能も良いカセグレン・アンテナに目をつけたのだ。このアンテナは人工衛星からのテレビ電波を正確に受信することに成功し、その性能の高さを証明した。

これ以降、衛星通信による世界的な情報網が急速に整備されるようになる。1964年8月には、インテルサット(世界商業通信衛星組織、後の国際電気通信衛星機構)に関する暫定・特別協定が締結され、日米を含む11カ国と140カ国以上の通信事業者が参加した。そして、大西洋上、太平洋上、インド洋上に静止衛星が次々と打ち上げられ、人工衛星によるグローバルな衛星通信ネットワークが完成したのである。

それに合わせて、1969年には、インド洋上の通信衛星とやりとりして日欧間の衛星通信サービスを行うため、KDD(当時)は、山口県に山口衛星通信所を開設した。この地が選ばれたのは、インド洋上のみならず太平洋上の静止衛星も見通せること、山に囲まれた盆地となっており、地上のマイクロ回線網との干渉が少ないこと、そして、台風や地震などの自然災害が少ないことが理由である。以来、太平洋衛星との衛星通信を扱う茨城衛星通信センターとともに、日本の国際衛星通信の窓口として、海外からの情報を受信したり、海外に向けて日本の情報を送り出したりしてきた。

広大な敷地にアンテナ群が並ぶKDDI山口衛星通信所

KDDI山口衛星通信所全景

通信技術の進歩などにより、2007年には茨城衛星通信センターがその役割を終え、日本の国際衛星通信の窓口は、KDDI山口衛星通信所に集約されている。

山口衛星通信所は東京ドーム3・5個分に当たる16万平方メートルという広大な敷地をもち、その中には大小20基のアンテナ群が並んでいる。最大のアンテナは直径34メートルと、野球場のダイヤモンドがすっぽりと収まるほどの大きさを誇る。とはいえ、かつては4基並んでいた直径30メートル級のアンテナのうち、現在稼働しているものは1基のみ(ほか1基が国立天文台に譲渡され、電波望遠鏡として利用されている)。通信衛星の性能が上がることにより、より小径なアンテナでも問題なく通信できるようになったためだ。

直径34mの大型パラボラアンテナ

50年の間に、国際通信の主役は衛星通信から海底ケーブルへと移っていったが、現在でも、海底ケーブルで結ばれていない地域への通信は、衛星通信が担っている。また、地球上のほとんどの場所で利用可能な衛星通信は、究極のモバイル通信網として、船舶や航空機、通信網の整備が進んでいない地域との通信でも重要な役割を果たしている。地上の通信網が寸断された東日本大震災でも、衛星通信が重要な役割を果たしたことは記憶に新しい。

現在、山口衛星通信所が担っている衛星通信サービスは、大きく分けて2つある。1つは、インテルサット衛星による固定衛星サービス。現在、45カ国・51の地上局と結ばれており、国際専用線や国際電話、IP-VPN、FAX、インターネット接続に加え、テレビ伝送にも利用されている。2つ目はインマルサット衛星による移動体通信である。こちらは船舶、航空機、可搬型端末など、全世界の約40万台とつながるほか、船舶からの遭難・安全通信の取り扱いも行っている。

山口衛星通信所は国内最大の衛星通信施設として、24時間365日、休むことなく太平洋とインド洋の上空にある通信衛星とのやりとりを続けている。50年前にスタートした衛星通信は、世界の人々の距離を一気に縮めた。現在も、世界中の出来事がすぐに伝わるのは、衛星通信をはじめとする世界的な情報ネットワークのおかげである。山口衛星通信所は、日本の情報ネットワークの要として、現在も活躍し続けている。

文:荒舩良孝 撮影:伊藤善規

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