2013/07/01

ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013リポート 高速で災害に強いネットワークへ、KDDI研究所が研究成果を披露

ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013リポート。高速で災害に強いネットワークへ、KDDI研究所が研究成果を披露

ワイヤレス・テクノロジー・パークのKDDI研究所ブース。Advanced MIMOを最前面に4つの研究成果を披露した

Advanced MIMOの説明をするKDDI研究所 無線通信方式グループの小西聡グループリーダー(右)とグループのメンバー

KDDI研究所は、5月29日〜31日に東京ビッグサイトで開催された「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2013」に出展し、最新の研究成果を披露した。展示内容は、(1)Advanced MIMO技術、(2)災害に強いネットワークの研究開発、(3)光通信の最新伝送技術 マルチコア光ファイバ、(4)光通信の最新伝送技術 容量可変光ネットワークの4点。KDDI研究所執行役員の竹内和則氏は、「来場者に専門家が多いワイヤレス・テクノロジー・パークでは、スパンが長く、将来を幸せにするような通信技術を展示した」と、今回の展示の位置付けを語る。

展示内容について竹内氏は、「通信技術には、無線と有線という通信方式の軸と、平常時と非常時という利用形態の軸がある。今回の展示は、この2軸のマトリックスにマッピングできる」と説明する。マトリックスに展示内容を当てはめてみると、無線で平常時の通信容量を拡大する技術が(1)のAdvanced MIMO、無線を災害時に活用する技術が(2)の災害に強いネットワークだ。一方、有線ネットワークの平常時の容量拡大が(3)のマルチコア光ファイバで、有線ネットワークの耐災害性強化が(4)の容量可変光ネットワークというわけだ。有線と無線のそれぞれで、平常時と非常時に対応する研究成果を展示することで、KDDI研究所が今後求められる通信技術を広くカバーする研究を行なっていることを印象付けていた。

Advanced MIMOは、LTEの3倍の周波数利用効率を実現

今回のKDDI研究所の展示の中心となるのが「Advanced MIMO」だ。端的に言うと、無線のデータ通信の効率を一層向上させるための技術である。MIMOとは「Multiple Input Multiple Output」の略で、無線伝送時に送受信それぞれで複数のアンテナを利用し、データ通信する経路(ストリーム)を増やす技術のこと。KDDI研究所が展示した「Advanced MIMO」は、MIMOを拡張して、基地局が複数のユーザーと同時にデータ通信する技術。1つの基地局が複数のユーザーとMIMOで通信する技術を「マルチユーザーMIMO」と呼ぶが、Advanced MIMOはその改良版との位置付けである。

8ストリームの基地局に2ストリームの端末を4台利用して、20bps/Hzを超える周波数利用効率を実現したことを示すデモ

従来のMIMO(シングルユーザー)では、基地局側に8本のアンテナがあっても、スマートフォンなどの端末側に2本しかアンテナがないと、2本分の経路(2ストリーム)しか利用できなかった。マルチユーザーMIMOでは、8本の基地局アンテナに、2本のアンテナを持つ端末を4台同時に接続できるようにして、8ストリームを有効に利用する。しかし、これまでのマルチユーザーMIMOは、高いパフォーマンスが得られなかった。それは、各端末の受信状況を基地局に送信する「上り」の方式が、マルチユーザーMIMOに最適化されていなかったためだ。

KDDI研究所では、受信状況を基地局に送り届けるときに、情報を効率よく圧縮する「フィードバック情報圧縮方式」を開発した。この方式を採用したAdvanced MIMOでは、複数の端末の受信状況を正確に、しかも少ない情報量で送ることが可能になった。その成果は、LTEの約3倍の「20bps/Hz」という周波数利用効率に表れ、会場では実験装置で実測値を示しており、帯域幅100MHzではトータルスループットが2Gbpsという超高速通信が実現できる技術であることをアピールしていた。

複数のネットワークを相互に使って通信を確保

重層的通信ネットワークで使う「無線情報測定装置」を示すKDDI研究所コグニティブ無線グループの福原忠行研究主査

重層的通信ネットワークの構成機器を展示した。複数のネットワークを連携させてネットワーク情報をやり取りする

非常時にどうしたら無線通信を有効に利用し続けられるかという命題に、1つの答えを示したのが「災害に強いネットワークの研究開発」の展示だ。災害時には、無線ネットワークにさまざまな問題が生じる。たとえば、通信が一斉に行われてネットワークが混雑(いわゆる輻輳)してしまうこと。また、携帯電話が基地局からの電波強度だけを判断基準にして接続するため、混雑しているネットワークに接続する可能性があることなどだ。

KDDI研究所では、こうした問題に対して「重層的通信ネットワーク」の利用と、「重層的通信端末」の採用という解決策を示した。重層的通信ネットワークとは、複数のネットワークを連携させたネットワークのこと。平常時は独立して運営している地域の無線ネットワークや自治体独自の無線ネットワークなどを、災害時にはインターネットなどを介して連携させて通信経路を確保する。さらにネットワーク間で混雑状況や利用可否などの情報を交換するしくみも用意した。

通信に使うのは「重層的通信端末」だ。重層的通信ネットワークを構成する複数のネットワークへの接続機能を備え、混雑状況などの情報を用いて最適なネットワークに自動的に接続する。「電波強度は強いけれど混んでいるネットワーク」ではなく「空いている別のネットワーク」を自動的に選択して接続できるため、災害時の安否確認などがスムーズに進むことが期待されている。「空いている別のネットワーク」には新たに開放されたネットワークも含まれ、Wi-Fiの無料開放等をユーザが意識せずとも利用できるようになった。

ブースには、重層的通信ネットワークの構成装置と重層的通信端末に加えて、小型のデジタルサイネージ型の「無線情報測定装置」も展示されていた。無線情報測定装置は通信に使う端末ではなく、設置した場所の無線通信の電波状況などをネットワーク側に通知する装置である。役所や防災拠点などに配備しておけば、災害時には状況を無人で収集でき、ネットワーク復旧作業への判断材料になる。災害時に電源を入れるのではなく、平常時から利用していただくため、無線の電波測定機ではあるが、デジタルサイネージを前面に出したつくりとなっている。

1本の光ファイバ内に複数の伝送路を作る

延長5kmのマルチコア光ファイバを通った光を顕微鏡で確認できることを、KDDI研究所 光トランスポートネットワークグループの竹島公貴研究員が説明する

マルチコア光ファイバを顕微鏡で見ると、7つのコアに光が通っていることがよく分かる

有線ネットワークの効率化を目指した研究の成果が「マルチコア光ファイバ」の展示だ。陸上ケーブルや海底ケーブルなどで使われる光ファイバ伝送を、格段に効率化させて高速通信を可能にする技術だ。

現状の光ファイバには、情報を伝達させる「コア」と呼ぶ部分が1カ所しかない。マルチコア光ファイバでは、1本の光ファイバの中に複数の「コア」を設けて、同時に複数のデータを空間的に多重化して送る。展示では、7つのコアを持つマルチコア光ファイバを使って、5kmの伝送を行なっている様子を示していた。顕微鏡をのぞくと、光ファイバの中に7カ所の輝点が見え、マルチコア伝送が行われていることが目で確認できた。この研究では、7つのコアで合計28.8T(テラ)bpsという超大容量なデータ伝送を、6160kmの長距離で実現できることを実証した。日本−ハワイが約6100km、ニューヨーク−ロンドンが約5500kmであることから、国際海底ケーブルにも利用可能な技術であることを実証したわけだ。

1本に複数のコアを配置するというアイデア自体は以前から提案されているが、実際に数ミクロンの高精度にマルチコアファイバを製造することや、マルチコア化した光ファイバでの通信は容易ではない。複数のコア間で干渉が起こるなどの問題点があるからだ。KDDI研究所では古河電気工業、NECと共同でマルチコア光ファイバやマルチコア光中継器などを新しく開発し、世界で初めて光中継器も含めたマルチコア伝送に成功した。なお、本研究開発はNICT委託研究課題150「革新的光通信インフラの研究開発」の一環として実施している。

被災地の通信継続を目指す光ファイバ通信技術

容量可変光ネットワークの研究成果を説明するKDDI研究所 光トランスポートネットワークグループの吉兼昇研究主査

今回の研究では、写真の「16QAM」の状態を平常時として、「QPSK」と「64QAM」に変調方式を切り替えて被災時の状況変化に対応する

最後が、非常時の有線ネットワークを支える新しい技術「容量可変光ネットワーク」の展示だ。光ファイバを利用したネットワークの伝送容量を柔軟に変えることで、被災地の通信確保や大量のトラフィックの処理に対応できるネットワークを構築する研究の成果である。

容量可変光ネットワークの研究の中核になるのは、KDDI研究所と東北大学が共同で開発した、光信号の変調方式を瞬時に切り替えられる「適応的容量増減技術」。例えば、中継器や光ファイバそのものが被災して伝送路の条件が悪くなった場合、変調方式が固定だと、一定の条件を下回る伝送路では通信ができなくなってしまう。容量可変光ネットワークでは、こうした際に変調方式を変えて通信の継続を可能にする。通常よりも伝送容量の小さい変調方式に変えれば、伝送路の条件が悪い場合でも通信が成立する可能性が高まるのだ。逆に、被災地に向けたトラフィックが急増しているような場合は、健在な光ファイバを伝送容量の大きな変調方式に変更して多量の通信を処理できる。

実験では、「16QAM」と呼ぶ変調方式を基本に、伝送容量は少ないが伝送路の条件が悪くても通信できる「QPSK」と呼ぶ変調方式と、伝送距離は短くなるが伝送容量を増やせる「64QAM」に切り替える装置を作成。これにより、ネットワーク管理システムからの制御信号に基づいて、10G〜60Gbpsの間で伝送容量を1秒以内に自動的に切り替えることに成功した。

取材・文・撮影:岩元直久(WirelessWire News)

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