TS World部

2014/03/04

ウエアラブルデバイスと人間の身体との複雑な相互関係

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各種センサーを装着しておき、仕事や学習などで集中力が低下したら、イヤホンやリストバンド、その他のウエアラブルデバイスを介して警告されたら、仕事や勉強に集中でき、時間を効率的に使えるようになるかもしれない。

残念ながらというべきか、これはロンドン在住のデザイナー、アーティストでウエアラブルコンピューティングの研究者でもあるLing Tan氏の実験的プロジェクトで、彼女は集中力が欠ける等、身体の状態が変化するとフィードバックを与えてくれるデバイスをデザインして、自らの身体に装着してテストを行った。

実験は、3種類のセンサー(筋肉、脳波、GPS)と4種類のアクチュエーター(筋肉への電気刺激、音声、熱、振動)を組み合わせて12種類のセットで行った。例えば、GPSとバイブレータを組み合わせた構成では、前後左右の方向を身体に伝えるために両腕と肩の前後にバイブレーターを装着し、GPSから割り出した進行方向を振動で伝えて、特定のスタート地点から目的地への移動を行った。

このデバイスは、「リアリティ・メディエーター(Reality Mediators)」と名付けられている。現実との人工の機器類などとの橋渡し役といった意味だろうか。

各セットで3〜4時間の実験を数回ずつ行ったところ、デバイスを装着した直後は、ロンドンの寒冷な気候がアクチュエーターの熱を感じにくくさせたり、道路の雑音でアクチュエーターからの音声信号が聞き取りにくくなったりと、環境からの影響がデバイスからの情報取得をしにくくしたが、アクチュエーターからの信号に注意を集中するようにすると、すぐにデバイスからの情報取得に慣れて、それに対応した行動を取れるようになったという。そして、装着していると意識してからある程度の時間が経過すると、装着している人の行動がデバイスによって変化すること、装着している人の身体や環境に対する知覚が、デバイスから与えられる情報により変化することが確かめられた。

このデバイスのように、常に変化する身体データがセンサーとアクチュエーターを通して身体にフィードバックされるシステムでは、「誰がデバイスをコントロールしているか? ユーザーなのか、それともデバイスなのか」という点に問題は集約されるとTan氏は言う。実は、このようなフィードバックループは,トラッカー(活動量計)やGoogle Glassにも見られるものである。

Tan氏は、こう考察する。つまるところ、ウエアラブルデバイスにユーザーが求めるのは、行動や習慣を変えて生活を改善することだ。現在の電子デバイスのほとんどは、情報を提示するのに視覚のみを利用しているが、このことは、ウエアラブルデバイスの可能性を制限している。このプロジェクトは、視覚以外の身体感覚を用いることで、時間をかけて人の行動を効果的に変えていくことの大きな可能性を教えてくれる。と同時に、視覚以外の感覚を利用することに伴う複雑さにも脚光を当てている。

ウエアラブルデバイスとしては、フィットネス系の活動量計(トラッカー)やさまざまな形態のスマートウォッチが登場してきており、今年のCESでも多数お披露目された。今後、腕時計や音楽プレイヤー以外のデバイスを装着して行動する人は増える一方となるだろう。ウエアラブルデバイスと人間とのインタラクション、特に人間側への影響は重要な研究テーマになってくるだろう。

著者:信國 謙司(のぶくに・けんじ)

NTT、東京めたりっく通信、NECビッグローブなどでインターネット関連の事業開発にあたる。現在はビジネスアーキテクツ社にてモバイルヘルス分野の新事業立ち上げに従事。同志社大学ビジネススクール嘱託教員として「技術開発と事業化戦略」を担当している。

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