2019/09/25

顔との距離は何cmがベスト? 『疲れ目』になりにくいスマホとの上手な付き合い方

疲れ目でスマホを見にくそうにしている人

普段スマホを使っていて、「なんか目が見にくいな」ということがある。
たとえば通勤電車でSNSを眺めていて、ふと車内に目をやるとピントが合いにくかったり。あるいは夜ふかししゲームにハマった翌朝、目がゴロゴロしていたり。まばたきしにくかったり、充血していたりすることもあるはずだ。

これらはどうやら「疲れ目」らしい。
スマホが世に出て10年ちょい、多くの人が昔より確実に長時間使うようになったはずだ……と思っていたら面白いデータを見つけた。

「スマホ元年」と比べると接触時間は6.6倍に!

博報堂メディア環境研究所が調査した「メディア定点調査2019」のデータである。このグラフは、そのなかの「メディア総接触時間の時系列推移」。私たちがメディアに接してる時間がどのように変化しているかを時系列で並べている。

メディア総接触時間の時系列推移 ※メディア総接触時間は、各メディアの接触時間の合計値。各メディアの接触時間は不明を除く有効回答から算出。 ※2014年より「パソコンからのインターネット」を「パソコン」に、「携帯電話(スマートフォン含む)からのインターネット」を「携帯電話/スマートフォン」に表記を変更 ※タブレット端末は2014年より調査 出典/博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所による「メディア定点調査2019」より抜粋

グラフの「紺色」部分は「スマートフォン/携帯電話」を表している。「スマホ元年」といわれる2008年と比べると、約6.6倍。1日あたり100分増えている。直近の3年でも毎年約10分ずつ上積み。他のどのメディアもこれほどの伸び率はない。

そんなわけで、眼科のお医者さんに「スマホを使いすぎると疲れ目になるのか」を聞きにいった。スマホは目に影響を与える可能性があるのか? 目が疲れたときの対処方法は? どんなふうにスマホとの付き合えば、目が疲れにくいのか?

「疲れ目」とは?

今回、話を聞いたのは日常的な目のケアについて積極的に発信し続けている眼科医の平松類先生。最新の緑内障治療の研究にも長く携わっている。

二本松眼科病院の平松類先生 二本松眼科病院勤務、目に関する情報を発信し続ける平松類先生

さて、そもそもスマホは疲れ目の原因になるのだろうか。
「確かにその傾向はあります。スマホはパソコンやタブレットなどと比較すると画面が小さいこともあり、目との距離が近くなりがちです。これだけでも目に疲労が蓄積する可能性があるのです」

では、「疲れ目」とは一体、どういう症状を指すのか。
「疲れ目は、医学用語ではないので、厳密な定義はありません。一般に目の疲労の総称で、『目に疲労を感じた状態』を差します」

先生によると、「疲れ目」の症状や原因は大まかに次のように分類できるという。

疲れ目の症状や原因

①ドライアイ
目の表面は涙の薄い膜に覆われていて保護されているのが健全な状態。涙の分量が減ったり、涙の質が低下したりすることで、目の表面を潤す力が低くなる。文字どおり目が乾き、目がゴロゴロしたり物が見えづらくなったりする。
「目の潤いをキープするのに重要なのがまばたきです。人間は通常1分間に30回まばたきするのですが、これが読書だと15回、モニターを見ていると8回に減ることがわかっています。まばたきの回数が減った状態でこうした作業を60〜90分以上続けると、目はすぐに乾燥してしまいます」

②ピントフリーズ
一定の距離を見続けることで、目のピントを合わせる毛様体筋が収縮してうまく伸び縮みしなくなり、より近くや遠くを見ようとすると、ピントが合わなくなってしまうこと。 「ゲームをしたり、SNS、動画などを見たりする場合、近い距離でスマホを見ながら何時間も経ってしまうことがあります。そういったことが目のピントを等距離で固定してしまうことになります」

③脳の疲労
目に休息時間を与えないことによる疲労。①や②の結果、目の「見る機能」がどんどん弱くなり、それを認識する力が一時的に衰える。結果、集中力を欠き、作業が続けられなくなったり体全体に疲労感を覚えたりすることになる。 「スマホの普及で、1日中至近距離から目に光を入れ続けるようになりました。日没以降は、間接照明などを使って薄暗い環境で過ごすのが目にとってベストなのですが、今は逆に光を入れ続けている。作業の内容によらず、単純に目を休める時間が短すぎるのです」

疲れ目リスクを軽減するためのスマホとの付き合い方

では「疲れ目になりにくいスマホとの付き合い方」とは? 先生に聞いてまとめてみた。

■30cm離して見下ろすのが基本姿勢

スマホに向き合う正しい姿勢

スマホは画面が小さく、気づけば近くで見てしまっているケースが多い。目から画面までの距離は30㎝以上。スマホは顔よりも下に配置。顔全体を下げるのではなく、目を薄く開けて見下ろす。目を見開きすぎるとまぶたも目も疲れる。この姿勢だとリラックスした状態で画面を見ることができる。タブレット端末やパソコンの場合は、同様の姿勢で40cm以上離して使用してほしい。

■連続使用時間は60〜90分

正しい姿勢で、目に負担のない状態だったとしても、集中して作業をするとまばたきの回数は減り、ドライアイの原因に。また、作業中ピントが一定の距離で固定されてしまうのでピントフリーズにもつながる。60〜90分ごとに10分程度の休憩を挟むのが理想だ。

■目に潤いを与える

積極的にまばたきをし、できれば目薬を活用する。集中した時に本能的にまばたきが減るため、自ら意識的にまばたきをすることで涙を目の表面に行き渡らせる。目薬を使う場合は、目に刺激を与える防腐剤の入っていない「人工涙液」を選び、早めに使いきること。

■目の血行を良くして涙の質を改善

涙の質を変えるための目を温める運動

疲労が蓄積すれば、血行が悪くなって目の周辺の温度が下がり、涙の中の油分が分泌されにくくなる。すると涙の蒸発が早まり、ドライアイになりやすくなる。そこで、手で目元を温めることで涙の油分の分泌を促すのだ。両手のひらを擦り合わせて温めたら、圧迫しないように目を30秒ほど覆う。これを5セット繰り返す。蒸しタオルや、市販の目元を温めるシートを利用してもOK。

■休憩中には遠くを見る

スマホやPCでの作業の合間には2m先を見てピントを調節

60〜90分ごとにスマホやパソコンから目線を外し、遠くを見るのだ。手元の同じ距離を見続けて凝り固まったピントをリセットするのが目的。「遠く」といっても、せいぜい2m程度でOK。職場なら、ちょうどいい距離にあるものを決めておくとよい。通勤電車などの場合、移動しているので外の風景はかえって疲れてしまうことがある。車内吊りなどを眺めるのがおすすめだ。10分ほど続けるのが理想。

また、同様に+1〜+2程度の老眼鏡(100均などで購入可)を休憩中に装着(メガネの人はメガネの上から)し、2m以上先のものを見る「雲霧法」でも同様の効果が得られる。こちらは5分程度でOK。

■普段から目にいいものを食べる

目にいいルテインを含むホウレンソウと、アスタキサンチンを含むサケ・イクラ

ホウレンソウに含まれる「ルテイン」という栄養素は、網膜の中央部にある黄斑という色素を補う。黄斑は網膜の老化を防いだり見た物の色や形をはっきり認識する役割を持っている。分量的には1日半束食べれば十分。またサケやイクラに含まれる「アスタキサンチン」は、強い抗酸化作用を持ち、目の老化を防ぎ、疲労に効果的であるといわれる。普段から食べることで疲れ目予防につながるのだ。

ほかにも環境を改善するだけで、目への悪影響を弱められることは多いと平松先生は言う。

「加湿器などで部屋に適度な湿度を保つことで、目の乾燥を防いだり、間接照明を取り入れることでて目に優しい住環境を整えたりすることも大事です」

正しく付き合ってこそ、スマホは真の能力を発揮

お話を聞くなかで、平松先生から「スマホ老眼」という言葉も出てきた。

二本松眼科病院の平松類先生

「はい。2011年ごろから世の中に出始めるようになってきた言葉です。症状そのものは、いわゆる老眼……医学的には『老視』と言いますが、目のピント調節機能が弱ることです。老視は加齢によるものですが、スマホが原因で引き起こされるものをそう呼びます」

スマホも使い方を誤れば、若者の目を「老眼」のような症状にしてしまうこともあるのだ。スマホはもはや日常と切っても切り離せないデバイスだ。そして、間違いなく生活を楽しく便利にしてくれる。だが、それも正しい付き合い方をふまえてこそ。ぜひ、今回紹介した「スマホとの付き合い方」を試して、“目にやさしい”スマホライフを楽しんでほしい。

文:武田篤典
協力:平松 類(二本松眼科病院)