2018/09/04

プロに学ぶ「運動会のスマホ撮影テクニック」 初心者はコーナー連写で狙い撮り

夏休みが終わると“運動会”シーズンに突入。幼稚園や小学校の子どものいるパパ・ママたちは準備に余念がないことだろう。今年幼稚園に入園したばかりの息子(4歳)をもつ筆者も、本番に向けてソワソワ……。というのも、カメラが上手く使いこなせず、子どもの勇姿を上手く捉えられるか自信がないからだ。

一番いいのは使い慣れたスマホで撮影できることだが、しっかりとキレイな写真が撮れるのか心配なもの。そこで今回は、幼稚園で子どもを多く撮影しているプロカメラマンの大崎聡さんに“スマホカメラで運動会を撮影するコツ”を聞いてみた。

スマホカメラで運動会を撮影するコツ
  • 基礎編1:できるだけ撮影ポイントに近い場所を確保する。
  • 基礎編2:連写機能を使う。
  • 基礎編3:順光で撮れる場所にポジショニングをとる。
  • 実践編1:ゴールではなく、コーナーで撮る。
  • 実践編2:フォトジェニックにするため「三分割法」を意識する。
  • 番外編:遠くから狙うなら、外付けレンズを使う。

スマホカメラでズームはNG!とにかく近くで撮ることが大切

プロカメラマン・大崎さん 大崎さんは、幼稚園や保育園の専属カメラマンとしても活動。

――ただでさえカメラが苦手なのですが、スマホカメラで子供が動き回る運動会をキレイに撮ることはできるのでしょうか?

大崎「撮り方を工夫すれば可能です。けれど、しっかりとスマホカメラの特徴を知っておく必要がありますね。スマホのレンズは、一眼カメラの広角レンズ(iPhone 8で35mm判換算)に相当するので、元々人物よりも風景を撮る方が向いています。なので、運動会などのイベントで無意識に構えた場合、広範囲の写真は撮れるのですが、そのぶん人物が小さくなってしまうんです」

iPhone 8と一眼カメラの写真比較 左:iPhone8(35mm換算:28mm相当)/右:一眼カメラ(50mm相当)で撮影。あきらかに撮れる画角(範囲)が異なる。

大崎「上の写真を見てわかるように、iPhoneのほうが風景全体を捉えていますが、被写体(マンション)にはフォーカスできていません」

――でもそれなら、ズームをすればいいのでは?と考えてしまいます…。スマホにも必ず機能として付いていますよね。

大崎「よくやりがちな失敗ですね。運動会の撮影でズームはNGです。なぜならスマホのズームは画像全体の一部を拡大して切り取って表示しているため、画素数が格段に落ちてしまうから。画面上では問題なくても、プリントアウトすると非常に粗いものとなってしまいます。家族の思い出として飾ることも考えると、スマホカメラの最大のデメリットといえるでしょう。キレイにスマホで撮影したいなら、被写体の近くで撮る必要がある、と考えましょう!」

動きのあるシーンは“連写撮影”が基本!

――それ以外に押さえておくべき、基礎的なポイントはありますか?

大崎「スマホには初心者にとってメリットが大きい“連写”機能がついています。この機能を使わない手はありません。iPhoneだと“バースト”という機能で1秒に10コマ分のシャッターを切れますので、その連写機能を使えば、かけっこなどの“動き”のある場面でもスマホでその瞬間を切り撮れます。決定的な瞬間を撮るのは、プロカメラマンでも難しいので、スマホカメラは初心者向きとも言えるかもしれませんね」

iPhoneカメラのスクリーンショット iPhone 7以降の機種に搭載されたバースト機能。複数の写真の中からベストショットを選ぶことができる

基本のポジショニングは“順光で撮れる場所”

大崎「それともう1点、基礎として押さえておきたいのは『順光』を意識した位置取りです。『順光』とは光源(太陽)を背にするようなポジション、逆に『逆光』は光源(太陽)を正面に捉えるポジションです。逆光だと人物の顔が暗くなったり、空の青が出にくくなってしまう。もちろん撮影時にも補正はできますが、運動会の撮影は一瞬だから手作業で調整する余裕がありません。だから、最初から順光で撮れるポジショニングを作っておく。そうすればアングルとシャッターを押すタイミングに集中できます」

逆光で撮った写真と、順光で撮った写真 左:逆光での人物写真。白っぽくなってしまい、人物もぼんやりしてしまう/右:順光の人物写真。人物の表情も空も明るくなる。

決定的瞬間を撮るなら、「ゴール前」ではなく「コーナー」を選ぼう

――“接近”“連写”“順光”を意識…これで基本はバッチリですね! 続いて、運動会の花形である“かけっこ”を例に実践のコツを教えてください。

大崎「僕の経験から言って、かけっこの撮影の失敗はゴール場面に多いもの。わが子がゴールテープを切る瞬間を捉えたいのはわかりますが、ゴールの目の前にはテントが設置されていたり、ゴールが観覧席と離れていたりと、近くで撮影できずにどうしても人物が小さくなってしまうことが多いんです。だから、オススメするのは“コーナー”での撮影。コーナーをまわり切るような場所で、近づける場所を探しましょう」

広場を走るふたりの子どもの写真 左:ゴール前での撮影例①。距離があって表情が見えづらい。右:ゴール前での撮影例②。人物を大きく撮るためにスマホのズーム機能を使用してみると、画像が一気に粗くなってしまった。

大崎「そして、実際に撮影するときには、走ってくる子どもの動きをスマホでは追わず、動かさないのがポイントです。アングルを固定する撮影方法を“置きアングル”といいますが、これでコーナーに入ってくるところから連写すればいい。これがうまく撮影するコツです」

広場を走るふたりの子どもの写真 動きをしっかり捉えられた成功例。

――躍動感のある写真! 色もすごくキレイですね。

大崎「明るさに関しては、帽子を被っていると顔が暗くなることがあります。その際は撮影時に明るさを調整しましょう。画面を長押しすると、AE(明るさ)/AF(オートフォーカス)ロックマークが出て、明るさとピントが固定される(これはiPhoneの機能だが、別の機種でもアプリで同様の機能を使うことが可能)ので、さらにいい写真が撮れますよ」

広場にいる撮影者の写真 左:コーナーの正しい撮影位置。コーナーを曲がり切ったところから延長線上のところがベストポジション。身体が傾くところなので動きが出て、ローアングルで撮ればさらに躍動感が増す/右:誤った撮影位置。コーナーの真横だと、子どもたちの顔が被りやすい。押さえられる時間が短くなり、シャッターチャンスを逃すことも多くなる。
広場を走るふたりの子どもの写真 誤った位置で撮った写真。ふたりの顔が被ったり(左)、あわててカメラを動かしてしまったため、フレームアウトしてしまいがちになる(右)。

初心者でもフォトジェニックな画になる「三分割法」

――ただ…大崎さんに倣って撮影練習をしてみたのですが、なかなか様になりません…。裏技みたいなコツってないでしょうか?

大崎「それなら初心者でもフォトジェニックな写真が撮れる“三分割法”はどうでしょう。画面の縦と横を三等分する線を引き、その線上に主題を配置する方法。スマホによってはこの三分割線(グリット線)を表示できるので、設定しておくと便利。かけっこの写真でいうと、画面左側のグリット線が交差するところに主題(子ども)を置き、右側に空間を持たせることで、向かっている雰囲気が出ます

広場を走るふたりの子どもの写真 三分割法を用いた写真。人物が向かう先にスペースを作ることで、画面に広がりが出る。

大崎「わが子が1番最初に走る場合はできませんが、かけっこなら順番までの間に他の子で練習をするといいですよ。練習や連写を多用することを考えて、当日はスマホの容量を空けておくことも大事なポイントです」

ダンス・組体操…どうしても遠くから撮るときは、外付けレンズを使おう

――これでかけっこは完璧ですね! ただ、運動会だと、どうしても遠くから撮りたい場面も……。ダンスや組体操などもぜひ押さえたいのですが、ズームはダメなんですよね?

大崎「ダンスや組体操については、事前にわが子が“どこで”演技をするのか確認して、やはり近づくことが大切です。ただ限界はあると思うので、外付け望遠レンズを使うのはいかがでしょうか。①ズーム・外付けレンズなし、②スマホのズーム使用、③外付けレンズ使用で比較すると、こんなに違います」

外付け望遠レンズ 今回使用した外付け望遠レンズ。
広場にいるふたりの子ども 左から①ズーム・外付けレンズなし、②スマホのズーム使用、③外付けレンズ使用。①は遠くて表情が見えず、②は画像が粗くなってしまうが、③はキレイに撮れている!

スマホの特性を活かした撮影が大切

今回実際に撮ってみて驚いたのは、“かけっこ”がスマホでもかなり上手に撮影できたこと。本番にも大いに期待したい! 大崎さんいわく、「みんな躍起になって“決定的瞬間”を撮りたがるけれど、運動会では待っているところや友達と移動しているところ、ふとした瞬間も画になる」とのこと。「撮りたい!」と思ったらすぐ撮影できる気軽さもスマホの良さ。スマホの長所を活かし自分だけの視点で撮影することで、“形に残る思い出”を残してほしい。

取材・文:古口春菜

PROFILE
大崎 聡
人物、美容、風景などを手がけ、さまざまなメディアで活躍。カメラ教室やスマートフォン撮影講座も開講。著書に『いきなり思い通りに撮れる! デジタル一眼レフカメラと写真の基本BOOK』(永岡書店刊)。