2018/02/15

災害時にいち早く通信を 羽田航空基地で行われた第三管区海上保安本部と通信事業者3社合同訓練とは?

近年、大規模地震や集中豪雨などの自然災害が相次ぐ日本では、災害時の通信の重要性がますます高まっている。こうした社会的な要請を受けて、「災害時における通信の確保のための相互協力に関する協定」をもとにした通信キャリア3社(株式会社NTTドコモ、KDDI 株式会社、ソフトバンク株式会社)と海上保安庁との合同訓練が、2017年12月に羽田航空基地内で実施された。

第三管区海上保安本部の羽田航空基地。白い庁舎が青空に映える

訓練は、「第三管区海上保安本部が有するヘリコプターやジェット機による、通信障害復旧のための資器材および対応要員の輸送を検証する」というもの。被災地は陸路からの機材運搬が困難な離島、航空機で可搬型基地局等の通信機材を運ぶという設定で、どう積載するかを検証するというわけだ。

ちなみに可搬型基地局とは、基地局がない場所でも通信を可能にするユニットをセットにした、持ち運び可能な臨時の基地局のこと。今回のような航空機を使用した訓練は第三管区海上保安本部とKDDIでは「初の試み」みとなる。その1日に密着取材した。

「座学」で航空機の輸送ルールと機体について学ぶ

訓練は「座学」からはじまる。KDDIを含む通信キャリア3社の訓練参加者、約40名が勢揃い、羽田航空基地職員から航空機の概要や航空機運用の基礎知識やルール、訓練に使用する2機の説明を受ける。

座学の内容は主に航空機による輸送のルールと訓練に使用する航空機の解説だ

各機体の危険域やドアの寸法、内部のシートポジションや最大積載量などが説明されたが、訓練参加者も初めて知る情報で、「思ったより狭いですね」「なかなか厳しいな」などという声が。真剣にメモを取る音が室内に響く。

ガルフⅤ「うみわし」とスーパーピューマ332「うみたか」登場!

座学が終わったところで格納庫へ移動し、本日使用する機体の見学と機材の搬入へ。固定翼の大型ジェット、ガルフⅤ「うみわし」は長距離海難等に対応しており、各国の政府機関においても重用されている機体である。

ガルフⅤ「うみわし」

回転翼のスーパーピューマ332「うみたか」は、中型のヘリコプターで、洋上における吊上げ救助等に対応している。

スーパーピューマ332「うみたか」

目前に迫る航空機は想像以上に大きく迫力満点。ヘリもジェットも手を伸ばせば触れるほど間近で見られるのだ。

2Fから見たガルフV。後方から見ても、流線形の美しいフォルムに圧倒される

搬入する可搬型基地局の機材はケーブル類、伝送機器、パラボラアンテナなど、3社でほぼ同じ。だが、機材の量や梱包の仕方に違いあって面白い。たとえば、KDDIでは機材を細かく分けており、数は多いが運びやすい。

可搬型基地局設置のために必要な資機材を搬入する。総重量は、約100kgにも及ぶ
こちらが可搬型基地局の組立て前の部品
ちなみに、別のときのものだが組立て後はこのようになる
3社の機材。右からNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの順に並んでいる

各社の機材チェックを終えたところで、海上保安官から梱包について注意が。というのも、実は航空機内部は、軽量で剛性があるが、集中荷重に弱いハニカムサンドイッチパネルが使用されている。極端に言えば、「ハイヒールでも穴が開く可能性もある」のだそう。そのため、ボルトや出っ張りといった凸部分はすべてクッション材などで梱包しないと、機体を破損する恐れがあるのだ。

海上保安官や航空基地職員に機材の内容を説明し、危険物や不要物がないかチェックを受ける

ほかにも、「ガムテープは水に濡れると剥がれるので、結束バンドがオススメ」「現地の人が見たときに、中身がすぐわかるようにしておくとよい」「エアーキャップを巻くのもよいが、毛布をクッション材に使うと救援時などにも応用できる」などのアドバイスが。

運搬や輸送の豊富な経験に基づき、的確なアドバイスを行う

注意に従って、アンテナのポールなど凸部分があるものを毛布で梱包し終えたところで作業は終了。これで、いつでも積載できる状態が整った。

まるでパズル!? 頭と体を酷使する積み込み作業

ここからは実地訓練だ。KDDIチームは、中型ヘリコプターのスーパーピューマ332「うみたか」への積載訓練からスタート。

機材を積む前に機内を見学し、荷物を積載できるスペースの寸法を実際の機体内で計測する。

こちらが「うみたか」の機内! 成人男子2名でもいっぱいに感じるほどの狭さ。天井高は140㎝しかないため、つねに中腰での作業を強いられる。

積み込みのために機内に入ったスタッフからは、「うわ、狭いな」「(機材は)かなり限られますよ」などの感想が飛び交う。スペースが限られているため、積み込む荷物の順番にも工夫が必要だ。脱出口となる扉の前に荷物を置く場合は、万が一の場合にすぐに移動できるようにしておかなければいけない。

スタッフが機内を内見しているあいだに、現地の指揮を執る航空整備士の方へ無事に機材を積み込めると思うか尋ねてみた。すると、「一見したところ大丈夫な気はしていますが、実際に積んでみないとわからない部分もあります。積み込むだけではダメなので」という。このあと実際に機材の積載がはじまってすぐに「積み込みだけではダメ」の真意を知ることになる……。

いよいよ積み込みがスタート。まずはもっとも奥へしまえるアンテナの足部分を座席の間へ入れた。

次に、機材でもっとも場所を取るパラボラアンテナを積み込む。スペース節約のため縦置きにして、ほかの資材コンテナで挟み込むという作戦だ。

10数㎏にもなる伝送装置は、男性2人がかりで丁寧に運搬。中腰の作業に2人とも汗が吹き出る。

まるでテトリスのように、形の違う機材を狭いスペースに積み込んでいく。整備士のアドバイスを受けながら、なんとかすべての機材を積み込めた。ご覧のように機内のスペースは埋め尽くされた状態だ。

だが、これで終わりではない。

「すべての荷物を積み込んだ今の状態で座席に着席してみてください。荷物が顔や体に当たっていませんか?」と、航空整備士の方から厳しい指摘が入る。

揺れが激しいヘリコプターならではの指摘だ。過去には、機体が揺れたときに荷物のストラップがほどけたり、荷物がばらけたりして顔や体に当たり、怪我をした例もあるのだそう。

実際に着席してみると、まだ若干の余裕があるように見えるが、飛行時には、荷物が動かないようすべてをネットで覆うなどして固定しなければならない。また、ヘリコプターの場合は、左右だけでなく前後の重量バランスも均等になるように積み込む必要もある。さらに乗客は全員ライフジャケットを着用し、各人が被災地で数日間生活するためのサバイバルキットが必要となるため、かなりギリギリの状態になることがわかる。

乗客の安全が確保されなければ、荷物を輸送しても意味がありません」という。これが「積み込むだけではダメ」の意味なのだ。

ジェット機への積み込みはかなりの重労働!?

次は大型ジェット、ガルフⅤ「うみわし」への積載訓練だ。ヘリコプター同様、ジェット機でも最初に機体や機内の詳細な説明がある。

機内の状況をチェック。「思った以上に通路が狭いですね」など、空間の感覚を肌で感じ取る。

大型ジェットの場合は、後方にある貨物室に入り切らなかった荷物は、客室へ積み込むことができる。そのため積載物にも量にも余裕がありそうに思えるが、もちろん、そんなに甘くはない。

搬入は客室前方からとなるため、荷物を座席シートの上部へ持ち上げながら移動させなければならない。また、貨物室のドアは地上215cmもの高さにある。つまり、重量があるものの搬入には苦労を伴うということだ。

まずは、貨物室へ入るものと入らないものを大まかに分け、貨物室への積み込み作業からスタート。

場所を取るパラボラアンテナや長さのあるポールを外して、貨物室への荷物をまとめる。ケーブル類を入れた重く巨大なコンテナを貨物室へ。成人男子が数人がかりになっても、2m強の高さへ引き上げるのはひと苦労だ。

見るからに「重そう」。重量のある精密機器は、タラップを上げるだけでなく、そこから貨物室へ入れるときも細心の注意を払う。

カーゴ室から地上を見下ろすと、高さを実感!

貨物室への積み込みが終わったら、機体手前にある出入り口から客室への搬入を開始。オレンジの荷物に入っているのがパラボラアンテナだ。人間と比べるとその大きさがわかる!

パラボラアンテナを無事に積み込むと、窓からは「KDDI au」の文字がちらり。

貨物室への荷物の引き上げは大変だったものの、積み込み自体はスムーズに完了。訓練担当の飛行士からも「KDDIさんの荷物は細かいものが多かったので、そのぶんフレキシブルに積み込みができたと思います」となかなかの好評価。チーム一同に笑みがこぼれる。

とはいえ、最後に「なんの問題もないですが、注文をつけるとしたら、むき出しだったポールの梱包だけです。機体を傷つけないよう梱包が必要でしたね」との指摘。他社の積載訓練も参考にしながら、「クッション材で巻くのがいいのか、箱に入れてまとめるのがいいのかどうでしょうね?」などと、梱包の研究にいそしんでいた。

訓練での経験を活かすべく、バンドを使った梱包を提案するスタッフ

実際に航空機を見て・体験することに意義がある

「今回は、課題をあぶり出すための訓練だったと思いますので、それが明確になったのがよかったのでは」と、第三管区海上保安本部危機管理係長の長谷川堤司さん。

第三管区海上保安本部危機管理係長の長谷川堤司さん

「実は、航空機の場合、事前に『何㎏まで積載できますか』と聞かれても、使用する航空機や飛行距離、搭乗人数などによって細かく変わるので、一概にはお答えできないのです。でも訓練を通じて、現場の整備士や飛行士と直接お話しいただけたことで、総合的に判断するという考え方がご理解いただけたのではと思います。また、各社とも機材の種類や梱包の仕方に個性があり、『これなら運べる』『この機材は無理』といったことがわかったのも大きな収穫だったのではないでしょうか」

続いて、訓練を終えたばかりのKDDIエンジニアリングの山脇一輝にも感想を聞いた。

KDDIエンジニアリング 南関東支社南関東モバイルメインテナンス部 山崎一輝

この目で航空機の機体を見て、積み込みを体験できたのが、なにより意義がありました。内部まで詳細に見ることができたので、積み込む機材を検討できますし、そのうえで積み方と配置を研究して今後に生かせそうです。

積むだけではなく固縛までが重要とか、機体を傷つけない梱包のコツなども教わることができてよかったです。あと重要なのは、筋トレかも(苦笑)。中腰で重量物を持ち上げるのは正直大変でした。ですが、実際の災害時には、万が一に備えてもっといろいろな資機材を持っていきたくなることが予想されるので、もっとシビアに積み方や重量を研究したいですね」

こうして、航空機を使用した羽田航空基地での合同訓練は、いくつかの課題を浮き彫りにし、多くの学びを得て無事に終了した。

災害時にどんな手段で通信機器を輸送できるかは、そのときになってみないとわからない。また第三管区海上保安本部の航空機は救援や捜索のための飛行が最優先されるのかもしれない。それでも、こうした訓練を行うのは、災害時に被災地と「つながる」ための選択肢をひとつでも多く増やしたいという思いから。だからこそ、舞台裏では日々こうした訓練が続けられているのだ。

文:知井恵理
写真:稲田 平

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